最終的に生き残るためには、ひとり勝ちしない道を選ぶ
世界にはいま、種として絶滅のおそれがある状態に陥っている「絶滅危惧種」と呼ばれる動物たちがいます。クロサイもその種のひとつで、環境の変化や密猟の横行などで数が激減し、世界的に懸命な保護努力が続けられています。
環境の変化や密猟と書きましたが、クロサイにとって青天の霹靂(へきれき)だったのは「ヒト」の存在でした。じつは、クロサイは個体としての戦闘能力は非常に高く、成体になると生存の危機に陥ることがほとんどないといわれるほど、攻撃的かつ強靭な生物です。まさに、「ひとり勝ち」できる強さを持った動物だったのです。
そのため、クロサイは進化の過程で、群れをなさない方法を選びました。たくさん子どもを産んでも、赤ちゃんのときにライオンやハイエナに襲われるので、数を少なく産み育て、確実に成体へと育ったほうが生存確率は高くなるからです。
しかし、ヒトの環境破壊のスピードだけは、クロサイの環境適応のスピードを圧倒的に上回りました。それまでの環境において最適に適応してきた結果、環境自体の激変に耐えることができなかったのです。
そして、わたしは同じことが人間社会にもいえるのではないかと感じています。ある時期にどれだけ栄華を極めても、ひとり勝ちしたような人や企業は、その後必ず衰えていきます。最終的に生き残るのは、自分だけ勝ち過ぎないようにまわりとうまく共存し、まわりも生き残れるようにした人や企業なのです。
ひとり勝ちすることで得られる類(たぐい)の「自己肯定感」も、けっして長続きはしません。他者を思いやり、その力を生かせるからこそ勝ち続けることができる。そして、真の自己肯定感も得ることができるのでしょう。
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中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。横浜市立大学、東日本国際大学などで教鞭を執る。脳科学や心理学をテーマに研究や執筆活動を行うほか、その知見を生かしてテレビや雑誌でも活躍。社会問題やビジネス、カルチャーなど、幅広い分野を、科学の視点で読み解く語り口が人気。
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