教えてくれたのは……経済産業省 水口怜斉さん
経済産業省に入省し、スタートアップ支援や起業家育成、2025年大阪・関西万博関連業務などに従事。現在は健康・医療・介護分野を横断したヘルスケア領域の政策立案を担当。働く家族介護者に対する支援や、介護を個人の課題からみんなの話題へ転換することを目指す「OPEN CARE PROJECT」の立ち上げメンバー。その他、医療の国際展開やヘルスケアスタートアップ支援に関する政策も企画・推進。
介護離職だけではなかった!仕事と介護の両立による影響とは
仕事をしながら介護をしている方は、現時点で約300万人いると推計されています。また、毎年10万人が、家族の介護や看護を理由に「介護離職」しています。仕事と介護の両立が困難になることによって平均約3割のパフォーマンス低下があるという調査結果が出ており、こうした影響を踏まえて、2030年には約9.2兆円の経済損失が見込まれています。
経済産業省で健康・医療・介護などヘルスケア領域の政策立案を担当している水口怜斉さんは、仕事と介護の両立が困難になることによる影響について「個人としても、企業としても、非常に大きい」と指摘します。
水口さん 「介護は精神的な負担が大きく、離職に至らなくても、日中心が落ち着かない、集中できないなどによりじわじわとパフォーマンスが落ちてしまう状況があります。また、経済産業省が2023年に行った調査によると、『仕事と介護の両立』は、『仕事と育児の両立』に比べてメディア露出度が約3分の1ほどだということがわかっています。ポジティブな話題が多い育児に比べて、介護は見通しが立てにくく、まわりに話を切り出すタイミングが難しいという面もあるようです」
仕事と介護を両立するための3つのポイント
では、親の介護に直面したとき、どのようにして仕事と介護を両立していくといいのでしょうか。水口さんに教えていただいた「仕事と介護を両立するための3つのポイント」をご紹介します。
1. なるべく休まない
次第にできることが増えて手が離れていく育児とは異なり、介護は見通しが立ちにくいという側面があります。育児休業のような感覚で介護休業を取得して、想像通りに復職できないケースは少なくありません。まずは勤務先の介護に関する両立支援制度を確認して、給与に影響が出にくい方法を探しましょう。
介護費用は、親の資産をベースに考えるのが基本ではありますが、状況によっては介護者の支出となる可能性もあります。そうした観点も踏まえて、まずは極力休業しない方向で考えましょう。
2. プロを頼る
家族だけで抱え込まず、不安なことやわからないことは早めに“介護のプロ”に相談しましょう。頼りになるのが、親が住む地域で働く「ケアマネジャー」です。ケアマネジャーは、要介護認定を受けた人のケアプラン(介護計画)を作成し、適切な介護サービスをコーディネートする専門職です。最近は、ケアマネジャーが副業的に仕事と介護の両立を必要とする介護者のコンサルテーションを行うケースが増えていて、オンライン相談を受け付けている場合もあります。相談費用はかかりますが、制度やサービスを熟知しているケアマネジャーの力を借りることで、介護の体制構築がスピーディーにできるというメリットがあります。
3. 同僚やチームメンバーに早めに状況を伝える
組織の中核を担っていることも少なくない40~50代。親の介護に携わっていることを伝えると、第一線から離れることになるかもしれないと心配になり、人事担当者への相談を躊躇してしまうかもしれません。そうした場合も、同僚や部下など一緒に働くメンバーには介護中であることを早めに伝えて、仕事のスタイルや進め方を相談しておくといいでしょう。
介護のことをもっとオープンに
今年2025年4月1日より育児・介護休業法が改正され、介護に関する会社の両立支援制度を従業員に通知することが企業に義務付けられました。また、昨年3月には経済産業省が「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表。仕事と介護の両立を支援する動きは広がっています。「こうした動きが、同僚や会社と介護について会話するきっかけになれば」と水口さん。介護を、個人や家族だけの課題ではなく、みんなの話題にしていきましょう。