40代になって見えたこと、変わらないこと
人生は人それぞれ……とはいえ40代という年代は人生を一度立ち止まって振り返り、今後を考える時期ではないでしょうか。
成功しているように見えるあの人も、きっとその裏に葛藤や、悩みがあるのでは。今回、声優で絵本作家のあさのますみさんに今までの人生のお話を聞かせてもらいました。
声優になったキッカケは「就職氷河期」!?
現在40代のあさのさん。清楚で柔らかい第一印象に対して、一度話始めるとその受け答えのスマートさから、芯の強さが伝わってくる方でした。
それもそのはず、子どものころから「自立した女性になりたい、出版社に就職して編集者になりたかった」と言うあさのさん。編集者ではなく、声優になったキッカケはなんと「就職氷河期」だったからだそうで……
あさのさん「私はちょうど"超就職氷河期"だったんです。出版社に就職したいと思って大学も文学部に入学しましたが、これは出版社どころか、就職自体が難しそうだぞ……と危機感を抱いていました。
就活の前の話になりますが、大学3年次に友人に誘われて、声優を発掘する2日ほどの合宿に参加したんです。その当時は友人との旅行代わりみたいな感じでした。そのときに、運よく賞を頂きました。その賞をいただくと、声優になるための学校に特待生として入学できる、という特典がありましたが、当時の私は『大学もあるし、声優の学校は通えない』と思ってしばらくは忘れていたんです。
でも、就活の時期に真剣に卒業後の仕事をどうするか考えたとき『そういえば、声優の学校に通えるんだった』と思いだして、入学することにしたんです。
それまで、私は中高大と留年も浪人もすることなく”寄り道”せずに生きてきました。出版社で働きたくてまっすぐに生きてきたけれど、どうも難しそうであれば、ここで少し道をそれて挑戦してみてもいいんじゃないか、という気持ちでした」
30代目前で将来に不安が。
そこから声優の道を歩み始めたあさのさん。強運の持ち主としか思えないエピソードはなんと絵本作家としてデビューするときにもありました。
出版社に勤めたいという想いから絵本作家になったのかと聞いてみると……
あさのさん「20代はありがたいことに声優として色々と挑戦させていただき、充実していました。しかし、年齢とともに生き残ることが難しくなる業界だということは、ずっと意識していたんです。30代になったときに声優の仕事はあるんだろうか、と不安を抱えていました。
声優としての仕事が減っていくんじゃないか、という懸念と同時に『今の私は消費されていく存在だな』とも感じていました。どんどん新人さんがデビューして、活躍していく……出演した作品もどんどん過去になって、新しいものに塗り替えられていく感覚がありました。
そんなときに、絵本に再会したんです。そのきっかけも偶然で、本屋さんを通ったときに、絵本を音読している子がいたんです。その絵本は私が小さいころに好きだった絵本でした。足を止めて並べてある絵本の表紙を見ると、自分が小さい頃からあった絵本も多数あって。絵本の息の長さにカルチャーショックを感じ、眩しく感じました。私も長く愛される作品を作りたい、そう思ったんです」
ここでそのまま終わらないところが、あさのさんのスゴイところです。
あさのさん「その日はたくさんの絵本を読みました。読んでいたら、私もひとつ短いお話を思いついたんです。せっかくだから、どこかに出してみたいと思って。公募雑誌を買ってきて、絵本の作品を募集している中で一番高い賞金のものに応募しました(笑)」
その応募した作品がみごとグランプリに。こうして絵本作家、あさのますみさんが誕生したのでした。
絵本作家としての道
そのまま絵本作家としてデビューして、順風満帆で今のあさのさんがあるわけではありません。
あさのさん「授賞式で言われた言葉が『このグランプリの賞味期限は1年間です。来年は他の方が受賞しますから』って言われて(笑)。それで、このグランプリ受賞は絵本作家になるための、ただキッカケにすぎないんだとわかりました。そこで、大御所の絵本作家さんが主宰する絵本のワークショップに通って。絵本の勉強を一から始めました」
人生は不確かなことばかり、だからこそ動ける自分でいたい
あさのさんの人生を動かすタイミングはいつも「不安」が首をもたげてきたとき。そしてその不安を払拭するためにチャレンジをして、努力することでピンチをチャンスに変えてきました。
あさのさん「最近も、もっと仕事の幅を広げたいと思って、ナレーターの学校に通い始めました。そして先日、ナレーターとしてのお仕事のオーディションに合格することができました。ナレーションというのは、アニメの声優とはまた違ったスキルが必要だと感じています。
実は最近大手の声優事務所から独立してフリーになりました。もちろん不安はありますが、思い切ってチャレンジしてみることにしました」
自分の限界を決めずにチャレンジすること、不安を見なかったことにしないで、解決のために考えること。
当たり前のようで意外とできないのが現実ですが……
あさのさん「簡単なことから、無理のないことからでも良いのかなと思っています。不安だったり、不満だったりしたら、尻込みするのではなく逆に一歩行動してみる、ということを意識しています。頭で考えていてもわからないことが、動くとたくさん見えてきますから。選択肢も広がりますし、偶然の出会いもあったりしてね」
40代になってくると、若い頃のように簡単に行動できなくなってきます。しかし「まずは何でもいいので動いてみる」ことで人生100年時代を自分が納得できるように生きられるのかもしれません。
お話しを聞いた人:あさのますみ さん
秋田県生まれ。作家業は「あさのますみ」として、声優業は「浅野真澄」として、二足の草鞋で活動中。
作家としての作品に、『ちいさなボタン、プッチ』(小学館)、『アニマルバス』シリーズ(ポプラ社)、『まめざらちゃん』(白泉社)など。声優としての出演作に「Go!プリンセスプリキュア」「怪談レストラン」「キラッとプリ☆チャン」「ベイマックス」などがある。
2021年8月ポプラ社より人気シリーズ『アニマルバス』の最新刊『アニマルバスとくものうえ』が発売された。