教えてくれたのは……伊藤徳馬さん
茅ヶ崎市役所にて子育て相談・児童虐待担当になり、子どもへの対応方法を練習する講座を事業化。「市町村の児童虐待対応」や「簡易なペアレンティングの講座展開」など多くの講座・研修講師をするようになる。
現在は、福祉の総合相談や計画を担当する部署に所属。プライベートの活動で、子育てを練習する講座「ちはっさく」を一般向けに実施。十数か所の自治体・民間団体が「ちはっさく」を事業化しており、今後も増加する予定。著書に『子どもも自分もラクになる どならない練習』があり、この5月に最新刊『子どもも自分もラクになる どならない「叱り方」』を刊行した。
『子どもも自分もラクになる どならない「叱り方」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
著者:伊藤徳馬
価格:1,650円(税込)
子育てを今よりちょっとラクにするために
何度言っても同じことをくり返す子どもに対してイライラが止まらない→爆発して子どもに言わなくてもいいことまで言ってしまう→「今日もまたやってしまった……」と自己嫌悪で反省。
これが毎日のように続くと子どもも親も疲れてしまいますよね。伊藤さんによると、親が大声で怒鳴っても、期待するほど子どもには伝わっていないようです。
伊藤さん「自分がイライラしているときに子どもに何か伝えようとしても、うまく対応できないことってありますよね。子どもの行動に対してすぐに対応しようとすると、ひどい言葉も出がちで『やめて、なんでそんなことするの? 昨日も言ったよね? いい加減にしてよ!』となってしまったりします。
その場でしつけを終わらせたい気持ちから、親は強い言葉や行動で全部を伝えようとしてしまいますが、結局子どもには伝わらず、子どもが理解できていなくて同じことをくり返す。親がまた怒る、となりがちです。
親は子どものためを思って強く叱ったのだから、子どもも理解しただろうと期待しますよね。でも、子どもが一時的に問題行動をやめたのは強い言葉や行動が怖いからであって、「この行動はいけないんだな、次からはこうしよう」と理解や納得したからではないこともあります。親御さんが期待しているほど、子どもには伝わっていないことも多いです。
その場では深呼吸をして落ち着いたり、意識を違うところにそらしたりして気持ちを整えてから、後からでもいいので『さっきは、ママはこういう風にしてほしかったんだ』とお子さんに伝えるほうが、しつけの効率も良いと思いますよ。」
練習を通して「できた!」の成功体験を積んでいく
親子のやりとりに“練習する”といったイメージが浮かばない方も多いかもしれませんが、子育て練習講座「ちはっさく」を実施してきた伊藤さんは「スポーツと同じように、子育ても練習することでうまくいく確率が上げられる」とおっしゃいます。
伊藤さん「『ちはっさく』は、勉強しましょうではなく、練習してみましょうというスタンスの講座です。受講者の方には、子育て中によくあるような場面や、子どもに注意をする場面での親子間のやりとりを練習してもらっています。
練習しておくと『家で似たような場面があって実践してみたら、子どもの反応がいつもと違って好感触だった』ということが増えて、うまくいく確率が高くなってきます。」
「赤カード」から「青カード」に変換する練習とは
では、どのように練習すればいいのでしょうか。
前回のお話で聞いたとおり、伊藤さんは、子どもに伝わりにくい言葉・行動を「赤カード」、伝わりやすい言葉・行動を「青カード」と表現されています。
講座では、この「赤カード」から「青カード」に切り替えることを反復練習しているそうですよ。実際の会話を例に教えていただきました。
練習の具体例
フードコートで大きな声で「座りたい」と連呼する太郎くん。
つい「ちゃんとしてよ」「大声を出さないで」「なんでこのくらいの時間も待てないの?」と言いそうになりますが、これを青カードに変換して練習します。
「太郎くん、ちょっといい?(しゃがんで目線を合わせる)」……環境をつくる
「この後、席が空くのを待つことになるけど、待っている間は『座りたい』って何度も言うんじゃなくて、ママと楽しくしりとりをして待っていてね」……代わりの行動を教える
「じゃあ、ここで少しだけしりとりの練習をしておこう」……一緒にやってみる
「そうそう、できてるね。この後、待っている間もしりとりしようね」……ほめる
伊藤さん「お子さんは、親御さんから『こうするといいんだよ』『一緒にやってみようか』『お、わかってるね!』『できたね、すごいよ!』と褒めてもらうことで成功体験になりますよね。褒められるというフィードバックを受けて『自分はできるんだ』と自信につながります。
急にものすごくうまくなる、というわけではないかもしれませんが、日頃からこういったやり取りを練習しておくことで何回かに一回は成功して『自分も子どももできるときがある』というように、プラスの変化は感じられるはずです。」
“ドッカーン”としてしまった後の上手なフォローの仕方は
怒りを爆発させるパターンにならないように練習して行動しているものの、つい爆発してしまった……。そんなときには、子どもに対してどのようなフォローをするとよいのでしょうか? 伊藤さんに聞いてみました。
伊藤さん「叱ってドッカーンとなって収集つかなくなったら、一旦そこで話はおしまいにします。
次に青カードの『待つ』『落ち着く』を使って時間をおき、親も子どももフラットな状態に戻ってから『さっき、こういうことで叱ったよね』『こういうところがマズかったよね』『だから、次からはこういう風にしてほしいんだ。できそうかな? 難しそう?』『じゃあ、そこはママも一緒にやってみようか』と練習してみます。最後に『そうそう、できたね!』で、ほめて終わることができたら大成功です。
お子さんが言うことを聞かないときは多々ありますよね。何度も怒りが爆発する状況になると、パターンも見えてくると思います。『こういうことが続いているから、この場合はこうしよう』『一緒にやってみよう』と事前に伝えて練習し、できたら子どもを褒めることで、親子の成功体験につながります。
ドッカーンとなることはありますが、途中からでも切り替えて、ちょっとでも肯定的なコミュニケーションができると、親子ともに得られるものがずいぶんと変わってくると思います。」
いきなり本番が始まる子育てですが、練習をすることが親子間のコミュニケーションをよりよいものにするためのヒントになりそうですね!