教えてくれたのは……松本吉彦氏
旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所顧問、二世帯住宅研究所長、一級建築士・東京工業大学・日本女子大学非常勤講師
建築士対象の東京都防災ボランティア「建築物の応急危険度判定」登録済。
自然災害の備え、できていますか?
クロス・マーケティングが行った「防災に関する調査(2022年)」によると、自然災害に対する家庭内の備えについて、「できている」と回答した人は全体でわずか16%となりました。防災の必要性を感じる層でも、「できている」との回答は21%にとどまっています。
防災意識は高まっているものの、具体的な家庭内の備えにまで至る人が少ない傾向にあることが分かりました。
「具体的に何をしたらよいかわからない」、「お金がかかる」といったイメージがあり、災害への備えが整わない方もいるのではないでしょうか。
住宅避難の備えの3つのポイント
お金をかけず日常の中で備えていける具体的な内容をお聞きしました。
ポイントは以下の3点です。
1.住宅避難に備えた「水と食料」
松本氏 「まずは3日分の食料と水を準備することから始めてみることが大切です。すべて災害用保存食で揃えるのではなく、日常的に食べている常温保存食を多めにストックして、賞味期限の近いものから食べて補充する『ローリングストック』がおすすめです。
普段食べている日持ちする食材を少し多めに購入し、パントリーなどに残数がわかるように見やすく並べておき、古いものが手前になるように並べると管理しやすいです。普段から手に取りやすい場所に置き、見てすぐに残数が把握できれば、自然と備蓄ができることになります。」
お金と手間をかけない「ローリングストック(日常備蓄)」とは?
松本氏 「ローリングストックは日本語では『日常備蓄』と呼ばれていますが、レトルトやインスタント食品など、賞味期限が長く日頃から食べている物を多めに買い置きし、なくなる前に補充する備蓄方法です。そのうち食べる物を先に買うだけなので経済的ですし、普段と同じ物を災害時にも食べられることで、安心感を得られます。また、平時から消費するため賞味期限の管理が楽というメリットも。
さらに、カセットコンロと予備のガスボンベがあれば、冷蔵庫の中身も加熱調理できるので、普段の買い置きと合わせて3日分程度の食糧を備蓄できます。
手指洗浄用のウエットティッシュや紙皿、食器に巻くラップなども忘れずに準備しておくと、水の節約と食中毒防止にもなり、より安心です。」
災害用の保存食を用意しなくても、普段食べているものを多めに準備するだけで十分備えになるようです!
2.住宅避難に備えた「エネルギー」
最も重要なのは、停電時の備え
松本氏 「水は避難所などで入手できますが、電気はもらうことは難しいです。停電時の備えがライフライン防災の最重要項目になります。最低限必要なのは行動するための灯りで、乾電池電池式のLEDライトや携帯充電器、ラジオを動かせるので、照明機能や情報収集に役立ちます。電池サイズを変換できるスペーサーを100円ショップなどで購入しておくと、より安心です。
停電では冷蔵庫は動かないので中のものは早く食べる必要があります。普段から冷凍庫の中をいっぱいにしておけば、冷凍品を保冷剤として活用でき、冷蔵庫の中身を1、2日程度長持ちさせられます。冷凍庫に余裕がある場合は、水入りのペットボトルを凍らせておきましょう。
住まいに太陽光発電、蓄電池のようなライフライン停止時の備えがあれば、冷蔵庫が動かせ、昼間に太陽光発電で作った電気を蓄電池に貯めて夜使うことができるので、避難所へ行かない在宅避難でも最低限の生活ができます。」
停電や断水など、エネルギーが途絶えてしまったときに備えるものをまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
【エネルギーが途絶えたときにあると安心な備蓄】
●電気
・乾電池
・LEDライト
・うちわ
・使い捨てカイロ
●ガス
・カセットコンロ
・カセットボンベ
●水道
・ペットボトル(人数×20L)
・ポリタンク
3.在宅避難に備えた「トイレ」
松本氏 「災害時に多くの人が困るのがトイレの問題だと言われています。水道が止まってしまうとトイレを流すことができなくなります。
対策としては、日ごろから浴槽に水を溜めておくことで、排水管が無事であればその水で流すことが可能です。
大地震では排水管が破損することも多くあるため、特に集合住宅では流す前に壊れていないかどうか注意が必要になります。
排水管が壊れて水が流せない場合には、携帯トイレや簡易トイレで対応するのも1つです。携帯トイレを備蓄する目安は、1日5回×1週間×家族の人数です。凝固剤や防臭袋がセットになった携帯トイレがあれば、吸水性や臭いの面でも安心で、携帯トイレの準備があることで、より在宅避難がしやすくなるはずです。
携帯トレイの備蓄がない場合には、新聞紙やゴミ袋などで簡単に作ることができるので、普段から作り方を確認し、材料を準備しておくと良いでしょう。」
浴槽に水をためておくのは、入浴後の残り湯を翌日までためておく、などで簡単にできそうですね。
自宅で在宅避難ができる3つの条件
地震(津波・火災)、台風豪雨などの自然災害が発生した際に、自宅での在宅避難を可能とする条件は3つあります。
1.その土地が安全であるかどうか(地盤、浸水、土砂災害)
2.その家が安全であるかどうか(耐震、耐久)
3.その部屋が安全であるかどうか(家具固定)
土地と家の安全が確認できても、室内が生活できる状態でなければ在宅避難はできません。
地震に備え、できることは今から準備することが大切です。
●家具の置き方と固定
転倒しても通路を塞がないように家具を置く、本棚や冷蔵庫、TVなどが転倒・移動しないよう固定する
●モノの落下防止
モノが落ちないように、吊戸棚や食器棚の扉を地震時に自動でロックする耐震ラッチを活用する
いつくるかわからないのが災害です。例えば、家の中の懐中電灯や電池の場所、買い置きしている食料がどれくらいあるかを把握することも、災害の備えの一歩になるのではないでしょうか。
できることから防災対策を行っていきましょう!