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スタートダッシュは切らないで行こう。 #大人だからこそ楽しむ絵本

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 スタートダッシュは切らないで行こう。 #大人だからこそ楽しむ絵本

2020.04.10

絵本と聞くと「子どもが読むもの」と思っていませんか。短くてシンプルな文章と絵で構成される絵本は実は「大人こそ楽しめるもの」も多いんですよ。
「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんに「大人だからこそ読みたい絵本」を紹介してもらいます。いろいろな事情でなかなか口出して言えないこと、言葉にできないようなふんわりとした想いなどを受け止めてくれるコラムのスタートです。

心がざわざわする、そんな気持ちの裏にあるもの

苦手な冬が過ぎ、やっと暖かな季節がやってきた。
だけど、4月になるとほんの少し心がざわざわする。

それは多分、小さい頃からこの季節が「はじまりの時期」なんだと体に染みつけられているから。

もう社会人になって20年以上、今の会社に入ってからだって10年以上も経っているのに。異動だって、友達がガラリと変わることだってそうそうないのに。

ああ、やっと慣れてきたなあ……のクラスが3月で一旦終了、4月になればまた最初から。知らない場所で、知らない人と、知らない事に取り組む。こんな大事件を毎年体感していくのだ。簡単に忘れられるものではないよね。重いコートを脱いで軽やかなはずなのに、体が勝手に緊張する。満開の桜を眺め、うっとりしながらも心がキュっとひきしまる。

それにしても、何をそんなに恐れていたのだろうか。確かに「はじめまして」は緊張する。だけど、それはみんな同じ状況。怖がりで小心者の性格、なのは春に限ったことじゃない。……と、すると。

はじまるからには全力でスタートダッシュを切らなくては……?

「はじまるからには全力でスタートダッシュを切らなくては!」

幼いながら、そんな風に気負っていたのかな。はじまる最初のその日から、「私はだれ」で「どんな性格」で「何が得意」なのかを伝えなくては。「その場の雰囲気」や「みんなが望んでいること」を見つけなくては。あわよくば最初から「あの人すごい!」と思われなくては……なんて。それは図々しいけどね。

もちろん上手くいくはずもなく、それどころか、足りないものに気を取られ、知らないことだらけで驚き、疲れ果ててしまう。健気なものです。今ならわかるよね。そんなことが出来る人なんて、よっぽどの「スーパースター」なのだと言うことが。自分を出すどころか、マイナスをゼロにする事に必死にならないと追いつけなかったという現実だって。うん、実際はそうだったのです。

心の余裕を持てるようになったからこそ

大人になって忘れたふりをしていても、その時の気持ちがスンっと顔を出してきちゃうのかしら。今、緊張の面持ちで歩く見ず知らずの小さな学生たちとすれ違いながら、そんなことを考えるのです。初日から上手くいかないのは想定内だよって無言で伝え、「でも、がんばれ」と心の中でエールを送る。年と経験を重ね、そのくらいの心の余裕は持てるようになっている。

「今日から私は生まれ変わる! 昨日までの私は違うのだ」

気が付けば、こんな身勝手で気まぐれな宣言を、しかも好きなタイミングで誰にでも発することだって出来るようになっている。スタートなんて、自分で切ることができてしまうのです。

でも、だからこそ。
そのキュッとする感覚を大切に。あえて、毎年自分に向かって問いかけるのです。

「じゃあ、今の私はだれ?」

『わたし』

出典:www.fukuinkan.co.jp作:谷川 俊太郎 
絵:長 新太 
出版社:福音館書店

「わたし」は「わたし」。
山口みちこ、5さい。
でも、「わたし」って誰なんだろう?

妹から見ると「おねえちゃん」、兄から見ると「いもうと」。
お母さんから見ると「むすめ」だし、おばあちゃんから見ると「まご」。
犬から見れば「にんげん」だし、宇宙人から見ると……「地球人」!?

「わたし」は「わたし」。
一人のはずなのに、こんなにもいっぱいの呼び名がある。
考えはじめると止まらない、今まで見ていた景色が違って見える。
世界がぐらぐら揺れる「哲学絵本」。

気負わないで丁寧に考えること

新しい世界に飛び込む時はもちろんのこと。そうじゃない時も。いや、そうじゃない時こそ、いったん立ち止まり、丁寧に考えてみる。

「私はだれで、何をする人なのか。」

明確に見えている時もあれば、こんがらがって何も見えない時もある。そしたら、この絵本みたいに「誰かにとっての私」を考えてみる。「あの人にとっての私」「知らない人にとっての私」……まわりからゆっくり考える。合わせるところからはじまったっていい。浮かびあがってくるものを、そっと集めていく。スタートは何もダッシュしなくていいのです。ふいに足止めされてしまっている今こそ、ね。

……ということで、こんな風に私の連載もじわっとゆっくりスタートしてみたいと思います。何が見えてくるのかな。

磯崎 園子
「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。

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著者

磯崎 園子

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