誕生日は感謝と忘却の間にある!?
人の誕生日が覚えられない。
家族の誕生日だってままならないというのに、仲の良い知人友人、お世話になった人、憧れのあの人……どんどん記憶が薄くなっていく。メモしておけばいいじゃないか、ということなのだけれど、これがまたメモをした場所を忘れてしまう。
それに、メモした時点で「覚えていられるだろうか」というじわじわ効いてくるプレッシャー攻撃が始まったりもして。あ、でもゴロがいい誕生日は結構覚えているんですよ。ふいに思い出して「あ、まだ三か月も先か」なんて思ったりして。
「でも、あなたは誕生日プレゼントをもらって喜んでるんでしょ?」
……はい、その通りです。びっくりするほど嬉しい。
嬉しさとプレッシャーの無限ループ
嬉しいのと同時に、その日からまた「この気持ちをどうやって返せばいいのだろう」というじわじわプレッシャーを感じつつ、いつの間にか忘れてしまい……
運よく忘れずにきちんと返せたとしても「義務感」というフレーズが浮かんでくる時点で、それはもう贈り物じゃないよね……と勝手に落ち込んでしまう自分がいて。
大人としてどうなんでしょうね。ダメですよね。
だけどね、これがまた。
大切な人へのプレゼントにサプライズっていうのは嫌いじゃないんですよ。人に何かを贈って喜ばせたい!という気持ちは大いにあるのです。その人に合ったもの、あるいは普段は買うことがないだろうなあっていうものを選んだりして。その驚き方や喜び方を想像するだけでウキウキしてしまう。
この矛盾点を抱えたまま実行に移そうとするとどうなるかというと。大体が時期尚早!? 数日、いや数週間も? 準備するのが早すぎてしまうのです。思いつきですからね。
そしてさらに困っことに。がまんができない……!
サプライズがサプライズにならない!
「これはきっと喜ぶ」「驚いてくれるはず」
そう思うとついね、言ってしまうのです。「あなたにプレゼントを用意しているんだ」と。それはもうサプライズでもなんでもないし、「最適なタイミング」というのもはずしている。だけど……言いたいじゃない。こんなにいいもの見つけて、準備しているってことを。その反応をすごく楽しみにしてるってことを。それを何もなかったかのような顔をして、何日も何週間も過ごすなんて。そんなのがまんできない!
もらう方にとっては酷な話です。じっとその反応を観察されるわけですから。
……だけど、それだって結構悪くない。この際大事なのは「もの」だけじゃなく、この一連のやり取りなんじゃないかと。例えそれが何だか茶番めいていたとしても。用意したかのようなリアクションだったとしても。
見てくださいよ、このがまくんとかえるくんの幸せそうな表情を。
『ふたりはともだち』
仲良しのかえる、がまくんとかえるくん。ふたりの間で繰り広げられるのは、濃くて、可笑しくて、ちょっぴり切ない……様々な愛すべきエピソード。
アーノルド・ローベルの「がまくんとかえるくん」シリーズは幼年童話の傑作として、子どもから大人まで、たくさんの人たちに40年以上も愛され続けています。そのシリーズ第1作目が『ふたりはともだち』、5つのお話が収録されています。
その中のひとつ「おてがみ」より。
悲しそうな顔で玄関にすわっているがまくん。なんでも「もらったことのないお手紙を待つ時間」なんだと言うのです。それを聞いたかえるくんは、がまくんに内緒でお手紙を書くことにします。ところが、配達を頼んだのがかたつむりくんだったので、待てど暮らせどなかなか到着しない。そこでかえるくんは書いた内容をがまくんに言ってしまうのです。
いずれ届くことも、その内容までもわかっているお手紙をじっと一緒に待つがまくんとかえるくん。その幸せそうな様子に、「手紙」の持つ力を感じずにはいられませんよね。
待つ時間を共有する贅沢
そして遠く離れた実家でも、こんな風に嬉しそうに待つ人が。このご時世、家の中でじっと動かずに耐えている一人暮らしの母です。
パン好きの彼女のために、ネットで見つけた「母の日パンセット」という素敵な商品を早速注文! 母の日なんて待てないので、すぐにお届けの依頼。そしてもちろん「もうすぐ届くよ」と母にも連絡。「わあ、嬉しい!楽しみができた」の反応に大満足。うん、これこれ。
ところが、数日経ってピンポーンと鳴ったのは、なんと自分の家。しまった、間違えた。
だけど母の日には早過ぎたので大丈夫。
もう一度注文して届くのを母と一緒に待つのです。
「残念、楽しみにしてたのに。」「まだかしらね」「今日はご飯を炊かないで待っていたのに」と毎日のように電話で言われながら、一緒に待つ。
どうでしょう、その方がずっと楽しみが増している、気がするでしょ。
磯崎 園子
「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。
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