【絵本ナビ編集長コラム】私にだって好きな雨はある #大人だからこそ読みたい絵本

ライフスタイル

2020.06.11

ステイホーム期間が終わって外に出たら、すっかり季節は初夏を感じさせる陽気。でも夏の前には梅雨の季節が。恵みの雨とは知りつつも……朝起きたら「雨かぁ」なんてつぶやいていませんか?

「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんに「大人だからこそ読みたい絵本」を紹介してもらうコラム第4弾はそんな梅雨の時期に読みたい絵本。

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雨を愛せる気持ちとは

「雨の日の方が好き」

大人になった今でも、誰かのそんな言葉を聞くと驚いてしまう。

だって、出かける時に傘をさすのは煩わしいし、靴だって濡れてしまう。電車に乗れば傘の置き所に困ってしまうし、濡れた床はよく滑る。じめじめ暑くて耐えられない日もあれば、信じられないほど身体が冷えてしまう日もある。そもそも景色が薄暗くて、心が沈んでくる。雨の日って結構ツライ。

雨の日の記憶

私が覚えている「雨の日」の一番古い記憶は、車の中。
「ババババババ」大きな音で目を覚ますと、目の前に見えるのは周りが何も見えないほど強く雨が打ち付けられているフロントガラス。
ここはどこ? 誰もいない!?

次の瞬間、不安になった私は大きな声で泣き、窓を強く叩きだす。なんのことはない、母親が車を止め、少し他の人としゃべりこんでいるうちに私が目を覚ましてしまった、というだけの3歳の頃の話。だけど、その光景ははっきりと記憶に残っている。

次に思い出すのは、学校の渡り廊下。
校舎と校舎をつなぐためだけに存在するその通路、あるのはトタンの屋根と風よけ程度の簡易的な壁とコンクリートで固めた地面だけ。

雨が強くなればなるほど屋根に打ち付ける音は大きくなり、横から吹き込む雨とそこかしこに出来た水たまりをよけるため、飛び跳ねながら全速力で駆け抜けるのである。

失敗すれば上靴には泥水がしみ込み、持っていたプリントもしわしわになってしまう。嫌だな……脳裏に浮かぶのはスタートする前から立ちすくむ小学生の頃の自分。

高校になると雨の日はバス通学。乗ってしまえば何てことないのだけれど、最寄りのバス停までだって結構歩く。そして最悪なことに、制服で歩く私のすぐ横を、スピードを出した車が大きな水しぶきをあげて走り去っていくのである。
「ひっ!」何回声をあげ、涙を飲んで耐え忍んだことだろう。この悔しい光景は今だに夢を見るほどだ。

こうしてあげてみると、私が雨の日が苦手になるのは至極当然のような気もしてくる。すべてはこの少し鬱々とした記憶とつながっているのではないか。

それに加えて私はよく傘を忘れ、よく傘をなくす。なかなか自分の足にぴったりとくる長靴を見つけ出すことができずにいるし、雨の日のファッションの正解がわからない。

おまけによく転ぶ。ああ、このままだと、私は残り半分の人生の三分の一くらいは憂鬱な気持ちで過ごさなくてはならないのだろうか。

……いや、そんなことはない。

そんなことはないと気が付いたのである。なぜなら、この絵本を読んで思い出したから。私にも好きな雨があったということを。

『どしゃぶり』

出典:bookclub.kodansha.co.jp『どしゃぶり』
絵: はた こうしろう 
文: おーなり 由子 
出版社: 講談社

暑い暑い夏の午後。ぼつっ、ぼつっ、ぼつっ。
突然アスファルトを濡らすのは…雨!

ぼくだって、こうしてはいられない。
雨の中を走り出し、はだしで水しぶきを飛ばし、思いっきり顔にあびて。
遊ぼう、遊ぼう、もっと遊ぼう!

どしゃぶりの雨を存分に楽しむ様子の気持ちよさそうなこと。
生き生きと描かれる雨のしずくの美しいこと。
びちょびちょになるのって、こんなに楽しかったっけ?
読んだ後、文字通り「雨が待ち遠しくなる」絵本です。

自分の中にあるイメージは……

そうだ、私は「夏の日の雨」は好きなのだ。空は明るいのに、雨が降ってくる。
どしゃぶりになったかと思えば、すぐに止んでしまう。

あの不思議な天気が大好きなのだ。かさを持っていなくても大丈夫、すぐに乾いてしまうから。足元だってゆるくならない、すぐに遊び出すことができる。
なんて身軽で明るい雨なのだろう。

好きな「雨の日」というのは人それぞれ。イメージは一つではないのです。

確かに大人になるにつれ、考え方がちょっと実用的に偏りつつはあるけれど。
どうやら感覚が鈍っていたわけでもないみたい。そうとわかれば、好きな「雨の日」の記憶をもっと探しに行かなければ。まだまだ世界は広がりそうなのです。

磯崎 園子

「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。
著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。

イラスト:掛川晶子

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