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前髪を切るか、切らないか。 #大人だからこそ楽しむ絵本

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 前髪を切るか、切らないか。 #大人だからこそ楽しむ絵本

2020.05.21

地域によって程度の差こそあれ、外出の自粛期間も早くも3か月目。そろそろ目に見えない不安に心が摩耗し始めていませんか?
そんな時だからこそ、自分のために絵本を読んでみてほしいのです。

「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんに「大人だからこそ読みたい絵本」を紹介してもらうコラム第3弾のはじまり、はじまり。

思いついたんだから仕方ない

「どうしようかな」

鏡の前を行ったり来たり。画像を検索したり、動画を見たり。眼鏡をかけたり、はずしたり。わかりやすく落ち着きがない。

さっきから何を迷っているかといえば、「前髪を自分で切るか、切らないか」。はい、どうでもいい話です。

10代20代なら話は変わります。友達に「どうしたの!?」って驚かれるのは楽しいし、気になるあの人に「あれ、雰囲気かわったな」って思われたら嬉しいし。でも、失敗しちゃったら恥ずかしいし……なんて迷う理由が存分にあり得るのです。

私はといえば、絶賛巣ごもり中の40代の母。かれこれ数か月、自宅で仕事をし、家事をし、ちょっとばかりお酒を飲む日もあるけれど、ほぼ毎日何も起こらず一日が終わっていく日々。その人の前髪が短くなったかどうかなんて、誰も気にしちゃいない。わかっています。

だけど思いついてしまったのだから仕方ない。

迷っている時間こそを楽しんでいる?

「そうだ、前髪を切ろう!」

じゃあ切ればいいじゃない、ということになるのだけれど。経験を重ねてきている大人の私は知っているのです。前髪を自分で切ると必ず失敗する、という事実を。美容師さんに「前髪どうしたんですか?」と言われ、照れ笑いをしても取り返しのつかないような微妙な空気が流れる、という事も。さらに伸びた前髪が邪魔かと言えば、そうでもない。ピンでとめたり、耳にかけたり、ゴムでまとめてしまえば何とかなる。何しろ、毎日家族以外ほぼ誰にも会わないのだ。

だとしたら、通常生活に無事戻り、思いっきりショートカットにする時(予定)のために伸ばしっぱなしにしておいた方がいいじゃない。確かにそれも一理ある。じゃあ、そうしなさいよ……心の中でもう一人の私が言う。「迷っている意味なんてあるのかしら」。

そうなんだけど。
……そうなんだけれど、そうじゃない。どうやら私自身、この迷っている時間こそを楽しんでいる?

「新しい一日」のきっかけはどこにでも

そっか、私は何でもいいからどこかで「変化」を求めているのかもしれない。目が覚めれば、昨日と何も変わらない朝が来て、昨日や一昨日の記憶に混ざって溶けてしまいそうな今日を過ごし。そのまま一日が終わり、明日もまた繰り返す。そりゃあ、私にだってそれなりにクライマックスはありますよ。

例えば、今日は初めてメンマの美味しさを知った、とか。今日は思いきって、新発売のアイスを買いに行ってみた、とか。捨てられなかったものを捨てた、とか。結構仕事に集中できたなあ、とか。うーーん、小さい。出来事が小さい。そして、このまま行けば明日も同じ。

これはやっぱり。髪を切るしかないだろう。それが停滞する私にとっての「新しい一日」のきっかけになるのなら。おおげさじゃなくたって、昨日とは違う、新しい朝が来るのかもしれない。

『あさになったので まどをあけますよ』

出典:www.kaiseisha.co.jp『あさになったのでまどをあけますよ』
偕成社
作・絵:荒井良二

子どもたちが、部屋の窓をあけます。
新しい一日を迎えるために、毎朝、窓辺に立つのです。
そこから見えるのは、いつもと変わらない風景。
だから、ここが好きなのです。

何気ない日々の繰り返しの中にこそ、生きることの喜びがある。そんな強い思いが込められた絵本に登場する景色には、すべてに明るい朝の陽ざしがふりそそぎ、とても清々しく、読む人の心をまっさらにしてくれます。

「ああ、今日もまた新しい一日がはじまる。」

そう思えることの幸せ。
私たちは、絵本を開くたびに味わうことができるのです。

私だけが感じるもの

変化を求めたはずの私の一日は、全く何も変わらなかった。その日は、リモート会議で沢山の人の目に私の姿が映ったにも関わらず、だ。

だけどいいのです。例え、誰にも気が付かれないほどささいな出来事だったとしても。私の中では確かに「新しい一日がはじまった」という実感があるのだから。こうして毎日窓を少し開け、部屋の中に風を入れるのです。思いっきり外に出られる日まではね。

磯崎 園子

「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。
著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。

イラスト:掛川晶子

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