それは突然やってきたー家族"だけ"で生活する毎日のはじまり
若い頃から「自家用ヨットで家族旅行をする」ことに憧れていた。
アメリカやヨーロッパでは、子どもを1年間とか長期で休学させ、ホームスクーリングをしながら自家用の小さなヨットやクルーザーで街から街へ、海岸沿いに進みながら旅をする人たちがいる、と聞いて「かっこいい!」と思ってしまったのだ。社会のしがらみから離れて自然と向き合い、家族で助け合いながらの船上暮らしで子どもたちは自立心を身につけられる……子どもを持つ遥か前、結婚すらしていない頃から、そんなサバイバル混じりの生活を夢見ていた。
実際に子どもが生まれて育ち始めると、日々の暮らしに追われ、子どもたちに学校を休ませてしまうほどの決心はつかないし、とてもじゃないけれど1年も仕事を休んで旅ができるような余裕もない。で、永遠に夢で終わるはずの憧れだった。
ところが。
今年の3月初旬、思いもしない形でその機会がやってきた。
「新型コロナウイルス感染拡大防止のため、学校は一斉休校にします。不要不急の外出は控え、出社もなるべく自粛してください」。
つまり「自分の家」という船の中にこもり、家族だけで生活してください、と国が公式に言ってくれたわけだ。家族だけのヨット生活、していいってよ! 新型コロナウイルスという、正体もそれとの戦い方もまったくわからない新種の敵がうようよしている海原の上、というちょっと想定外の設定ではあったけれど。
莫大な自由時間ができて
生命力が強いタイプの夫はがぜん張り切りだし、必要なものを買い出すや、さっさと籠城体制を固めた。子どもたちにも「極力出かけないで!」と言い渡し、運動を兼ねたちょっとした散歩以外は、家で籠もり切る生活がスタート。わが家の子どもたちは、しっかりもので頑張りやの高2女子と、ヒマさえあれば動画にゲームのだらだら中2男子。ステイホームだからといって「公園に行きたい」とぐずる幼子でもなく、学校から五月雨式に発表される課題を手取り足取り一緒にやってあげる必要がある小学生でもない。かといってまだ自分たちで生きていけるとはとても思えない微妙な年頃だ。
コロナ以前から「生活力をつけさせる」が子育ての重要課題ではあったけれど、現実的には、中高生の子どもたちには朝から夕方まで学校や部活があるし、毎日山のような宿題を抱えている。気軽に平日夜に「みんなで映画でも観ようか」なんて誘うこともままならない忙しい毎日を送っている以上、そうそう家の仕事をさせるわけにもいかず、まったく生活力アップには取り組めていなかった。
ところが、休校になり、子どもたちの毎日に突如、莫大な自由時間ができた。それはつまり、わたしにとっても、学校に間に合うように「ほら、遅れるよ!」と起こして朝ごはんを食べさせたり、お弁当を作ったりする必要がなくなったということだ。
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