スーパーの陳列棚からお米が消えた日
「スーパーでお米が売り切れてるって!」
通っていた整骨院で聞いたのが今年の3月26日のことだった。
「◯◯スーパーは朝から入場制限をしてたよ」
「△△スーパーでは駐車場が長蛇の列なんだって」
さすがはおばちゃん、おばあちゃん達が集まる整骨院、あちこちのスーパーの最新情報がどんどん入ってきているらしく「田内さん、このあとすぐに買い物行っといたほうがいいですよ」と先生たちが口々に教えてくれる。
コロナウイルス感染拡大防止のため、小中高が休みになって3週間ちょっと。ついに緊急事態宣言も出るのではと報道され、トイレットペーパーが店頭から売り切れたという話も聞こえだした矢先のことだった。
実はわが家、お米やトイレットスーパーは予備が常にある。わたしはオイルショックの苦労話を聞かされて育った上に阪神淡路大震災で被災し、水道とガスが止まった家で暮らした経験があるので、水や避難グッズ、非常食、日用品は、狭いマンションに住んでいるにも関わらず、まあまあの量を常備しているのだ。
そんなわけで、お米やトイレットペーパーが品切れたと聞いても「どれどれ、様子でも見に行くか」とすっかり高みの見物でスーパーに向かったのだけれど、一歩店内に入るや、さすがに驚いた。
本当に、見事に、売り場が空っぽなのだ。
2019年秋の大型台風19号のときにも棚から商品がごっそりなくなったが、そのとき売り切れたのは冷凍食品やインスタントものが中心。あくまでも2〜3日をしのげればよい、という買い方だったように思う。今回はといえば、生鮮食料品や米・パンはもちろん、日持ちするじゃがいも玉ねぎにんじんに至るまで、見事に買い尽くされている。まるでイナゴの大群が通り過ぎたかのような丸裸というか、とにかく、食べられるものはとりあえず買っておけ、というものすごい気合いが感じられる売り切れ方だったのだ。野菜コーナーには、虫除けかドラキュラ除けかのごとく、にんにくの山だけが残っていた。
「この光景を、子どもたちに見せておこう」
これはすごい!
この光景はぜひ子どもたちにも見せておかなくては!
さっそく電話すると、高2の娘は「わかった、行く」と即答したけれど、ゲームをしている中2の息子はどうも渋っている様子。元から出不精の息子、休校のおかげで出不精に拍車が掛かり、引きこもりレベルで家から出なくなってしまっているのだ。でも、今日のスーパーはどうしても見せたい! 「今日は買い物が多くなりそうなんだ。荷物持ち、手伝ってくれる?」とウソ半分で説得した。実はもうスーパーには、買うものなんてロクに残ってないんだけど。めんどくさがりでも、「手伝って」と頼るとそれなりに頑張ってくれるのだ。
二人の到着を待つ間にほかの売り場もチェックしたところ、物見遊山の気分は急激にしぼみ、にわかに焦りが生まれてきた。買い物客はみな、棚に残り少ない食品を掴み、かごにどんどん入れていく。「今日は買わなくていいや」と来たはずなのに、「買っておかなくちゃ!」とだんだん急き立てられるような気持ちになり、棚の奥に見つけた最後の小麦粉1袋を、速攻で掴んで握りしめた。3月の休校になってから、ひたすら食べる子どもたちのために必死に買い物はしていたから、家にはゆうに2〜3日分の食糧はあるはずなのに。
「不要不急の外出は控えて」「家でできる仕事は家で」と人々の行動が縮小されていくなか、わたしたちの日常を守るべく頑張ってくれていたのが生産業、流通業のみなさんではないか。前日までのスーパーには確実に商品が並んでいたわけで、冷静に考えれば、どんなに今日みんなが焦って買い占めたからといって、突然に流通まで途絶えてしまう可能性は低い。明日になれば、またいつものように商品は並ぶだろう。
そうは思いながらも、やっぱり不安が湧き上がってくる。このまま食べ物の流通が途絶えてしまったらどうしよう。そりゃあ、明日は大丈夫だろう。でも長期的に考えたら、このコロナ禍で先はまったく見えてこない上に被害は世界規模だ。コロナウイルスが蔓延したら農産物にせよ工場生産品にせよ、海外の生産体制にも影響が出ることは間違いない。
そうなったら?
どの国も国内流通が優先になり、輸出する余裕はなくなるだろう。
日本の自給率は40%以下なのに、海外からの食糧輸入が減ってしまったら?
国内生産品だけで食べていくことを覚悟しなくてはならないのか……。それって生産量を増やさなければ、今の40%の量しか食べられないってことだよね? 大豆なんて日本の自給率は10%もないのだから、醤油も味噌も超貴重品になってしまうかもしれない。食糧の奪い合いになるってこと?!
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。