手をかけないほど、子どもは自律する
宿題や定期テストなど、日本の中学校では「当たり前」とされていることを廃止した工藤校長。
その大胆な改革は、当時とても話題になりました。また、日本で義務教育を受けたほとんどの人が経験している、「固定担任制」も撤廃。生徒にとって最適な対応ができるよう「全員担任制」を新たに提案し、教師全員がチームとなって生徒と向き合う制度を提案しました。
この改革によって。子どもたちは登校すると多くの大人の目に触れることになります。親子間で変化の多い中学時代に、教育に携わる大人によって見守られることは、大きなメリットといえるでしょう。そもそも工藤校長は、子育てにおいて親は必要以上に手助けをしたり、障壁を取り払ったりするのではなく、子どもが自らその壁を乗り越えることができるよう、たくさんの失敗と成功を重ねる姿を見守らなければならない、といいます。
親はいい加減くらいでちょうどいい
工藤校長は教育者でありながら、2児の父親でもあります。
そこで、「先生自身、どんな子育てをされてきましたか?」 という質問をよく受けるそうです。そんなとき『父親として大事にしてきたことはほとんどないです』と答えるそう。そして、家族にはありのままの姿を見せるようにしてきたとも。
ときには、子どもから笑われるくらい面白いことをやってみせたり、だめな自分をさらけ出したりすることもあったそうです。いい加減な親であることを公言することで、子どもが悩みに直面しても「お父さんもあんな感じなんだから、自分も気楽でいいか」と深く考えなくなるそう。確かに、親が家庭内で居心地の良い雰囲気を作ってくれていれば、子どもの心は軽くなりそうです。
学べる場所は、学校だけじゃない
平成29年度の調査によると、不登校の中学生は約10万人といわれています。
工藤校長のところには、不登校・不登校傾向の子どもを抱える親御さんからの相談も少なくないそうです。「うちの子、不登校なんです。どうしたらいいでしょうか?」という親御さんの質問に工藤校長は『別に学校に来なくてもいいのではないでしょうか』と応えるため、驚かれるといいます。
学校はすべての子どもたちが安心して通えるように配慮すべきだとしながらも、それでも学校に行けない子どもたちに過剰に反応することはないと断言しています。
親はどうしても「学校にいかないと勉強が遅れる」「受験に影響が出てしまう…」と、心配しがちです。しかし、工藤校長は、もし不登校になったとしても受験にひびくことはない、あとから取り返すことができるといいます。現に、不登校だったにもかかわらず、いまは社会で立派に活躍している教え子をたくさん見てきているそうです。
『学校以外で自分が輝ける場所があるのならば、登校することにこだわりをもつことはない』という工藤校長の考えは、不登校のお子さんを持つ親御さんにとって救いになるのではないでしょうか。
子どもが生きる力をつけるために親ができること
昨年度で定年を迎えた工藤校長ですが、現在も新たな学校で活躍されています。この本の中で工藤校長は、子育てで一番大事なことは親子が幸せな関係であることだといいます。
「立派な親でなくてもいいのです。目の前にいるお子さんにあなたを誰よりも大事に思っているのは私だよ、ということを心の中で思えていたらそれだけでいいと思います」という言葉を読者に語ってくれています。本書の中では「偽善者でいいんだ」「約9割の子どもがいじめの加害者」「あえて言葉にしないほうが、うまくいくこともある」など、ドキッとするような言葉についても言及しています。
思春期は子どもから大人への過渡期であり、心身ともに大きな変化を迎えるときです。そんな思春期のお子さんとの向き合い方に悩んでいる親御さんは、ぜひ工藤校長の言葉をヒントにしてみてください。
【著者プロフィール】
工藤 勇一(くどう ゆういち)
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。山形県・東京都の公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から現職。公立中学校とは思えない数々の教育改革をおこなっているとして、各界から注目を集める。
『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』
出版社:かんき出版
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