ある日子供からハングルでのメッセージが届いた
「新型コロナウイルス感染症拡大防止のために学校を休みます」と小中高からアナウンスがあったのが3月2日のこと。学校にもよるけれど、終わったのはだいたい3ヶ月後の5月末から6月上旬くらいだった。渦中にいるときは終わりが見えず辛かったけれど、過ぎてみれば、6〜8月の3ヶ月間を休むアメリカの夏休みみたいなものだったなあと思う。
その頃、わが家の中高生の子どもたちはといえば、毎日がフェスティバル状態。学校に行けず友だちにも会えない状態にも関わらず、ストレスがたまった様子もほとんどなく、毎日とにかく楽しそうだったのは間違いなくスマホのおかげだ。朝から晩まで、ほとんどいつもスマホを手に、何かしらやっている。どうせ動画みてゲームやってるんでしょ、なんて思っていたら、彼らは思わぬ方向に舵を切っていることが次第に見えてきた。
長い休みも終わりに近づいた5月末のある日。高2娘がとつぜん、韓国語でメッセージを送ってきた。しかも「ケンチャナヨ(大丈夫だよ)」とカタカナではなく「괜찮아요」とハングル文字で。
ちょっと待って、ハングル文字なんていつの間に覚えたの?! 娘が高校で習っている外国語は英語のみだ。K -POP好きだから、それなりの韓国語を覚えているのは知っていたけど、まさかハングル文字が打てるわけがない。きっとネットで見つけたフレーズをコピペしたのだろう、と思っていたら「いや、自分で入力してるよ。iPhoneにハングルのキーボード入れたんだ〜」と娘はこともなげに言う。パソコンにハングル文字を導入するのは煩雑だが、iPhoneにハングルのキーボードをセットアップするのは簡単なのだそうだ。
わが家の韓流ブームの仕掛け人は
コロナ禍で自粛生活を送っていた3月から5月ごろ、ご多分にもれず、わが家にも韓流ブームがやってきていた。AmazonプライムやNetflixで配信される韓国ドラマに娘、夫、わたしの3人でどハマ! 『梨泰院クラス』など全16話計16時間分もの長いドラマも、毎晩明け方近くまで使って3日間で観終わった、といえばその集中ぶりが伝わるだろうか。でも、同じく韓国ドラマにはまった友人たちに聞くと「2日で観終わった」「止まらなくなってカップ麺を合間にすすりながら1日で観た」というツワモノまでいたのだから、3日をかけたわが家は別に珍しくもないのかもしれない。
娘は元々K -POPファンで、わが家の韓流ブームの仕掛け人だ。1〜2年前から韓国スターが配信するトーク番組的なLIVE動画や、大食いユーチューバーが料理を作って食べまくるモッパン(「食べる放送」の意味だそう)動画などを見て韓国語は少しずつ身につけていたようだ。まず耳で覚え、少し話せるようになり、動画の中に出てくる字幕を見ながら文字も覚え、ついに手元のiPhoneで入力できるまでになっていたのだ。
加えてコロナ禍の自粛期間に、韓国のスターたちは以前にも増して熱心にライブ動画配信をしてくれるようになったものだから、毎日見まくるうちに、ますます韓国語や韓国文化がわかるように。韓国ドラマを一緒に見ながら「このセリフは○○って言ってるんだよ」などと教えてくれる。
おかげで、人の呼び合い方、例えば名前に「肩書き+さん」を付けるので「田内代表さん」「田内記者さん」「田内保護士さん」「田内患者さん」と変化するとか、親しい目上の人のことは血縁でなくても「お兄さん・お姉さん」と呼ぶなどの流儀も知り、ドラマがより楽しめた。
しかもその呼び方が同性相手、異性相手で変わるため、「お兄さん」「お姉さん」にもそれぞれ2種類あるとか細かいことまで教わり、ちょっとした異文化の勉強にもなった。ちなみに韓国ドラマを英語字幕で観ると「しょうこお姉さん」と呼んでいるものはすべて「しょうこ」で片づけられている。きっちり目上目下がある韓国文化と上下関係のほとんど存在しない英語文化との差が、字幕であっという間に確認できるのも面白い発見だった。
実はわたしもステイホーム期間中に韓国語の勉強を始めていた。
4月から始まるNHKラジオ講座で、ハングル文字から頑張って覚えようと思ったのだ。毎日ゲームばかりの中2息子を見て、ちょっとは勉強させなきゃ、と焦りが出て「ちょっと頑張る姿を見せてやるか」なんて思ってしまったのだ。ところが、いざ始めて見るとハングル文字は難しいわ、例文は頭に入らないわであっという間に挫折。
息子に頑張る姿を見せるどころではなかったなあ、と落ち込んでいたところだったから、娘の成長はことさら驚いたし嬉しかった。
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