それは厳寒のNYでの出会い…
LA MAISON DU CHOCOLATと私との出会いは、2019年1月のマイナス1度の寒い寒い日曜日。
朝からセントラル・パークへ散歩に行き、ジョン・レノンが住んでいた、ダコタアパートのすぐ向かい側にある「ストロベリーフィールズ」という彼を記念したエリアで、しばらくビートルズの弾き語りをする、おじさんの演奏に聞き入ってしまいました。つい長居をして、寒さのあまりトイレを探すことに…ところが、ここはNY。屋外にあるトイレは全て厳重に鍵がかけられ、日本のようにコンビニもありません。色々な意味でブルブル震えながら行き着いたのが、セレブなショッピングモール(THE SHOPS AT COLUMBUS CIRCLE)。フラフラと高級感あふれるブランドが並ぶ通路を歩いていると、とても美しいディスプレイに目がとまりました。ライトが美しいブラックとブラウンのシックな色味のウインドウの中にあったのは、宝石かと思いきや、なんとチョコレート!
そう、このジュエリーのようなチョコレートを作っているのが、LA MAISON DU CHOCOLATだったのです。
足を止めて15秒くらいのタイミングで、ブラックの…ひと目で「あのブランド」とわかるスーツを着こなした美しいマダムが「どちらから?今日は寒いでしょう?よかったらどうぞ。」とジュエリーショップさながらの店内に案内してくれました。
当時、「ボンボンショコラ」という名前さえ知らなかった私は、全くスマートでない英語で「この黄色いラインの入ったチョコレートは何ですか?」「真四角のこっちは?」と、恐ろしく拙い質問しかできませんでしたが、マダムはとても優雅に優しくチョコレート初心者の私に寄り添い「パリのチョコレートは粒が小さくてほとんどが四角い形をしているの。」「その中でもガナッシュの滑らかさはウチが一番ね。」と、素敵なうんちくを歌のように語りながらテイスティングを勧めてくれました。
最初に味わったのは、確かパッションフルーツで、断面には赤や黄色のソースやジュレは見当たらないのに、しっかりとフルーツの味がガナッシュの中に仕込まれていて驚きました。明らかに目を丸くしていたので、マダムは笑顔で「プラリネは?」「キャラメルはどう?」と好みを聞きだして、オススメのチョコレートを「これはホテルの部屋でね。」と透明の袋に入れてくれたのです。高級チョコレートなのに、こんなにカジュアルな買い方もできるのか!と感心しました。チョコレートの味ももちろんですが、お菓子を買うのにこんなにも会話をした記憶がなく、その接客スタイルに大いに感動した私は、このあたたかなもてなしを「誰かに話したい」と強く思い、お土産にLA MAISON DU CHOCOLATのチョコレートを買い求めることにしました。実家の父に、いつも頼りにしている年上のお友だちに…この寒い日のあたたかな思い出を話しながら、LA MAISON DU CHOCOLATの小箱を差し出すと、みんな笑顔で受け取り、必ず後から「とってもおいしかった。特に〇〇が…」とメッセージをくれました。私の思い入れを受け止め、「自分も何か語らなくては」と、チョコレートの味わいについて言葉にしてくれたことが、とても嬉しく、幸せな思い出となっています。
二コラ・クロワゾー氏からお返事が!
LA MAISON DU CHOCOLATは1977年にパリでもまだ珍しかった「チョコレート専門店」としてオープンしました。創業者は「ガナッシュの魔術師」ロベール・ランクス氏。カカオ豆の品質やガナッシュの製法にとことん拘ったチョコレートは、すぐにパリの人々を魅了し、高級チョコレートブランドとして世界中から注目されるブランドとなりました。そして、ランクス氏から2012年4月シェフ・パティシエ・ショコラティエを受け継いだのがニコラ・クロワゾー氏。MOF(フランス国家最優秀職人章)、日本で言えば人間国宝級の高い技術を持つ、フランスが誇るトップショコラティエです。
そんな超一流ショコラティエにどうしてもお聞きしたいことがあり、取材を申し込みました。もちろんこのコロナの猛威が収まらず国外への渡航は不可能なため、いくつかの質問をメールでお送りしたのです。
この連載で何度も言うことですが、私はチョコレートの専門家でも特別なマニアでもなく、ただ「チョコレートが大好き」なだけのおばちゃんです。なので、何のツテもなく飛び込み! そのものでしたが、クロワゾー氏からとても丁寧なお返事をいただくことができました。
確かな技術と「チョコレート愛」を継承
こちらは二コラ・クロワゾー氏の2020年クリスマスコレクション。レースのように細かい飾り穴をあける技術を「自身の証」となる技とされているそうです。異なるサイズの細かい穴をいくつも空けることで光を取り込み、軽やかさや、繊細さが表現できるとのこと。この作品を見てもわかるとおり、この緻密さがLA MAISON DU CHOCOLATの味やヴィジュアルにも大いに発揮されています。
――創業者のロベール・ランクス氏から受け継がれた技術と、その伝統を表すシンボル的なチョコレートはどの作品でしょうか。
ニコラ・クロワゾー氏(以下、クロワゾー氏):「カシス ノアール」です。このボンボン・ドゥ・ショコラは、以前にロベール・ランクスが「非常に実現が難しいガナッシュだ」と言ったこともあるほどで、私にとって大きな誇りになっています。
この製造には何度もの試作と当初のレシピの練り直しが必要でした。カシスの生産者を訪ねたときに、主に香水に使われているカシスのつぼみを発見し、これを生クリームに入れて抽出すると、カシスの力強さを際立たせ、フルーティーさとフローラルさとのバランスを取ることができることが分かりました。それはまさに大きな発見であり、これによって今日のメゾンの象徴的なチョコレートの1つである完璧なレシピとして完成することができたのです。
―― ニコラ・クロワゾー氏の手掛ける作品は、今年のバレンタイン商品パリ ア ルール ブルーにも象徴されるように、ストーリー性を感じるものが多いように感じます。毎年このようなテーマは、どのようなきっかけで生まれるのでしょう?
クロワゾー氏:一般的に、毎日すべてがクリエイションの題材となります。絵画の色や、料理の味、生産者との出会い、旅行の思い出(何度か訪れている日本での体験は特に)など、自分を取り巻くあらゆるものからインスピレーションを得ています。クリエイションは長くて大変なプロセスであり、それぞれのアイデアを育むには多くの思考時間がかかります。
――大変個人的なことなのですが、2019 年1月に NY コロンバスサークルの支店で大変丁寧な接客を受け、とても感激しました。日本のようにカウンターを挟んで接客をするお店ではなく、ジュエリーや服を売る店のように、ディスプレイされたチョコレートを客が見て回る傍らでスタッフが寄り添って説明をしたり、テイスティングを勧める、というスタイルのお店でした。このようなスタイルはこのお店以外にもあるのでしょうか?また、このスタイルを選ばれた理由はどこにあるのでしょうか?
クロワゾー氏:ラ・メゾン・デュ・ショコラは、お客様のご来店が毎回特別なひとときとなるように想いを込めています。私たちが愛する、チョコレートの素晴らしさを感じていただくひとときをぜひご体験いただきたいと考えています。
ご来店いただいたお客様を、あたたかく笑顔で誠意を持ってお迎えし、そのご来店が毎回記憶に刻まれるものになるように、より深くチョコレートの素晴らしさを知っていただけるように、そして、ご要望に合ったご提案ができるようにと努めています。店舗の仕様やお客様の数によってはNYで体験されたものと全く同じ形式がなかなか実現できない店舗もございますが、基本的にどの店舗でもこの同じ想いの下で接客させていただいております。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。