教えてくれたのは……藤井崇博(ふじいたかひろ)先生
医学博士、循環器内科専門医。
専門領域は循環器内科で、2021年までの約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事。最近では循環器疾患含む内科外来の他にも、SNSやその他コラムなどでの健康に有益な情報の発信にも力を入れている。
起立性調節障害を改善するための5つのポイント
前回ご紹介したように「子どもが朝起きられない」「午前中に調子が悪く午後に回復する」などの症状が見られた場合は起立性調節障害の可能性が高くなると、藤井先生はおっしゃいます。
起立性調節障害のつらい症状を改善するために、日常生活の中で気をつけるとよいポイントはあるのでしょうか?
藤井先生によると、起立性調節障害に対して非薬物療法としてできることは、日常生活での5つの注意点があるとのこと。ポイントを伺いました。
1.ストレスをコントロールする
藤井先生「ストレスは症状悪化の大きな要因になります。午後からなら登校できる、行事や部活動なら行ける、遊びになら行けるなどは、体調が万全でないときの起立性調節障害の子どもにはよくあることです。学校に行けないなどの苦痛を理解し、頑張っていることを評価することがとても重要です。周囲で協力して見守ってあげましょう。」
2.立ち上がるときの体勢に気をつける
藤井先生「起立性調節障害をもっていると、立ち上がるときの調節が苦手です。座っている状態や寝ている状態から立つときには、頭を急にあげず、うつむきながらできるだけゆっくり立ちましょう。」
3.血液が下半身に溜まりすぎないようにする
藤井先生「同じ姿勢で1~2分以上は立ち続けないようにしましょう。下半身に血液が溜まると頭の血液が不足するので、短時間立っているときでも足をこまめに動かしたり、クロスしたりして血液が下半身に溜まりすぎるのを避けましょう。」
4.水分量と塩分量を意識する
藤井先生「血液量が少ないと症状が出やすくなります。循環している血液量を増やすために、水分の摂取は食事以外で1日に1.5~2リットル、塩分は1日10gを目安に多めに摂取しましょう。」
5.頭の位置を心臓より高くして休む
藤井先生「自律神経の調節機能を鍛えるために、日中はできるだけ寝転らないのがベターです。症状が重く立ち上がることはできない場合には座る、どうしても横になりたい時は上半身を起こすようにするなどして、頭の位置を心臓よりも高くしましょう。」
上記5つの非薬物療法を行なったうえで改善がなければ、薬物療法の併用を検討することになるとのこと。薬物療法だけでは治療効果は少ないと言われているため、日常生活の注意点を守りながら薬物療法を医師の判断で取り入れていくそうです。
起立性調節障害の子どもに対して保護者がしてはいけないことは
起立性調節障害の子どもに対して、どのように対応すべきなのか葛藤している方も多いと思います。保護者が子どもにできることはどのようなことなのでしょうか。適切な対応方法についても教えていただきました。
藤井先生「起立性調節障害の中等症や重症患者では、倦怠感や立ちくらみなどの症状が強く、朝起きることが困難であることが多いです。そのため、学校の遅刻や欠席をくり返しやすくなります。そうなると、保護者の多くは子どもの症状をただ怠けているだけと捉えたり、夜ふかし、ゲーム、スマホ、学校嫌いなどが原因だと考えて怒ったり、朝無理やり起こそうとしたりすることがよく見られます。
しかし、こういった対応は親子関係が悪化するだけでなく、本人にさらにストレスがかかり症状が重くなる例も少なくありません。保護者の方は今一度、起立性調節障害が病気であり気持ちの持ちようだけでは治らないと理解することが重要です。
子どもの心理的なストレスを軽減することが治療で最も重要になるので、保護者や学校関係者が起立性調節障害という病気を十分に理解し、家庭と学校と医療機関での連携を深め、全体で子どもを見守る体制を整えてあげましょう。」
子どもが朝なかなか起きずに登校しようとしない場合、本人の甘えによるものだと決めつけてしまうこともあるかもしれません。もしも子どもが起立性調節障害にあてはまる症状を訴えたときには、本人の気持ちに寄り添って尊重し、保護者自身も自分だけで抱え込まずに医療機関や学校と相談しながら、一緒に出口を探していけるとよいですね。