教えてくれたのは……藤井崇博(ふじいたかひろ)先生
医学博士、循環器内科専門医。
専門領域は循環器内科で、2021年までの約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事。最近では循環器疾患含む内科外来の他にも、SNSやその他コラムなどでの健康に有益な情報の発信にも力を入れている。
朝起きられないのは「起立性調節障害」が原因になることも
藤井先生「起立性調節障害とは、自分の意志とは関係なく自動的に働く神経である自律神経機能の異常で、血圧、脈拍など循環器系の調節がうまく働かなくなる病気です。
具体的な症状としてよく見られるのは、下記のとおりです。
- 立ちくらみ
- 失神
- 気分不良
- 朝の起床困難
- 頭痛
- 腹痛
- 動悸
- 午前中に調子が悪く午後に回復する
- 食欲不振
- 車酔い
- 顔色が悪い
などがあります。
小学校高学年〜中学生の子どもに多く、軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%が発症すると報告されています。
女の子の方が男の子より1.5〜2倍程度発症率が高いとされており、患者の約半数で遺伝する傾向が認められています。」
朝の起床困難も症状のひとつなので、起きられない日が続いている場合には最初から怠けによるものだと決めつけて叱ってしまうのは避けたほうがよいのですね。
「身体的」と「心理的」どちらも要因になる起立性調節障害
藤井先生によると「起立性調節障害は身体的な要因をはじめ、家庭や学校でのストレスも深く関わっていると考えられている」とのこと。子どもの性格によって発症しやすいこともあるそうです。
藤井先生「第二次性徴期を迎える小学校高学年〜中学生の間は、身体のさまざまな機能が劇的に変化していく時期です。この変化は自律神経系にも起こるため、その急な変化から循環器系の調節がうまくいかなくなることがあり、起立性調節障害を発症しやすくなることもあります。
また、ストレスに強く関連することから、真面目で気を遣うタイプの子どもがストレスをためやすく発症しやすいといった報告もあります。
ひと昔前までは、思春期の一時的な生理的変化であり、予後は良いとされていましたが、最近の研究では、重症な場合だと日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校やひきこもりを引き起こし、1割が将来的にうつ病を発症すると報告されています。
学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになったので、発症の早期から重症度に応じた適切な治療と、家庭生活や学校生活における環境の調整を行い、適正な対応を行うことが大変重要になってくる病気です。」
仮病と起立性調節障害とを見分ける2つのポイント
起立性調節障害のことを理解していなかった場合、ただでさえバタバタする朝に子どもがなかなか起きないと「いつまで寝ているの!」と、ついキツく注意してしまう親が多いかもしれません。仮病と起立性調節障害を見分けるためのポイントはあるのでしょうか?
藤井先生「上記で挙げたような起立性調節障害の具体的な症状は、もちろん起立性調節障害の子ども以外でも自覚することがあります。上記の症状の中で3つ以上発症していること、もしくは2つ以上でも症状が強い場合には起立性調節障害を疑います。
仮病と起立性調節障害とを見分けるためのわかりやすいポイントとしては、2つ挙げられます。
起立性調節障害には『午前中に症状が強く午後には軽快する』、『立っているときや座っているときに症状が強くなり、横になると軽快する』という特徴があります。この2つに該当する場合は、起立性調節障害の可能性が考えられます。
もちろん、すべてを病気として扱う必要はありませんが、症状により生活に支障をきたしている場合は病気として扱い、医療機関での診察を受けるようにしてください。
医療機関では血液検査、画像検査など、症状にあわせて必要な検査を行ない、他の病気でないことを確認する必要があります。他の病気がみつかることもしばしばあり、もやもや病やQT延長症候群などの放置しておくと命に関わる病気のこともあるので、他の疾患を除外することがとても重要です。他の疾患が否定され起立性調節障害の疑いが強い場合は、『新起立試験』という検査を行います。
起立性調節障害の子どもは朝起きられないことが多いことから、不登校になることも多いです。起立性調節障害の子どもの3分の2が不登校、不登校の子どもの3割〜4割が起立性調節障害を合併していたという報告もあります。
ここで注意しなければいけないのは、あくまでも起立性調節障害は病気であるということです。本人が怠けているだけで、気合いで頑張ればどうにかなるということはありません。」
そこで重要になるのが、親をはじめとする周囲の大人の理解やサポートです。
次回の記事では、「起立性調節障害を改善するための対策」と「親ができること」について、ご紹介します。