女性医療専門医に聞いた“日本人夫婦にセックスレスが増える理由”

家族・人間関係

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2023.11.23

メディアでは夫婦によるセックスレスの悩みなどを目にする機会も多く、また性の実態調査『ジャパンセックスサーベイ2020』によると、婚姻関係にあるカップルのセックスレスは年々進んでいることがわかります。なぜ日本ではそんなにセックスレスが増えるのでしょうか。今回は、40代からのセックス事情について、女性医療クリニックLUNAグループ理事長・関口由紀先生に詳しくお話を伺いました。

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教えてくれたのは……関口由紀先生

関口先生

医師、「女性医療クリニック・LUNAグループ」理事長。
医学博士、経営学修士(MBA)、日本メンズヘルス医学会テストステロン治療認定医、日本泌尿器科学会専門医、日本排尿機能学会専門医。著書は『セックスにさよならは言わないで:悩みをなくす腟ケアの手引』など多数。

書影

性ホルモンで乗り越える男と女の更年期 知っておきたい驚異のテストステロンパワー』(産業編集センター)
著者:関口由紀
定価:1,760円(税込)

セックスは大切なコミュニケーション

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――前回のお話で、「セックスは40歳からがいい」ということを伺いましたが、婚姻関係にあるカップルのセックスレスは年々進んでいるようです。なぜ日本人はこんなにもセックスレスが増えてしまうのでしょうか。

日本人の女性は子どもの頃から、セックス=危ないこと、身を守れ! などと教えられて育っていますよね。セックスは楽しいことだとか、コミュニケーションとしてとても大切だということは一切教えられないですよね。
私が知る限り、日本人はセックスの回数も満足度も、世界最低の順位をずっとキープしています。その座をどこにも譲ることなく、圧倒的にずっと最低。他の国に比べて回数もずっと少ないんです。

――今後、その順位が上がっていくような期待は薄いですか。

薄いでしょうね。やはり、回数も質もコミュニケーションとしての満足度も、欧米が上位です。日本は、先進国であるにも関わらず、女性の政治参加がとても低いですが、それを上回って性に関しての満足度は、ずっと世界最低を独走する特異な国だなと思います。

――確かに、性に対してオープンに学ぶ機会はないまま大人になりますよね。海外では、親のハグやキスを日常的に目にしますが、日本ではそんなシーンを見ることもないですし。

あと、社会的抑圧も強いと感じます。なんとなく、セックスしたくない人が、セックスしたい人をバッシングするような風潮があるような気がして、それは問題だなと思います。
私は、セックスしたくないのであれば無理にしなくてもいいと思うんです。しないからと言って、体に良い、悪いということはないので。ただ、セックスしたいのにしないというのは問題があると思います。したい人は、どんどんしましょう! と言いたいですね。何に関してもですが、それぞれ個性を認め合えたらいいですよね。

男性ホルモンが高い人は前向きで性的意欲も高め

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――そうですね。セックスレスで悩んでいる人が多いということは、「できることならしたい」という気持ちを持つ方が多いということですよね。ただ、年齢を重ねるにつれて「この先はもうしない・できない」という気持ちになっている人にとって、60歳でも楽しむことができるんだということは大きな発見でした。

60歳と言わず、セックスは死ぬまでできます。むしろ、女性の方ができます。

――そうなんですか? 男性のほうが年齢を重ねてもできる印象がありました。

いえ、男性は勃起しなくなると「僕は卒業……」と退場しちゃう方が多いんです。最近は気軽に治療できますけどね。でも、女性はいくつになっても腟の状態が保てていればできるんです。それに、挿入=セックスではないので、パートナーが勃起できなくなっても、セックスをしている人たちはいます。本当に相性が良いとか、お互いに理解し合えているという前提で成り立つものではあると思います。

――年齢を重ねても性的意欲が維持できる人の特徴はあるのでしょうか。

人間には男女両方のホルモンがあり、男性も女性も、男性ホルモンが適当に高い人たちは、前向きで、体が丈夫でよく動き、セックスも好きですよね。男性ホルモンはバイタルエナジーなので、生きる意欲を上げてくれるんです。男性ホルモンが高いと筋肉量が増えるので、体も動くようになる、そして性的意欲も上がるということです。

40代からは第二の人生

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――先生の著書『セックスにさよならは言わないで 悩みをなくす腟ケアの手引』にもあるように、女性ホルモンが減少することが、自己肯定感にも影響するんですか?

そうですね。例えば、60代になった自分がセックスできる身体だと思っている人のほうが自己肯定感は高いと思いませんか? 積極的な性的意欲は男性ホルモンがつかさどっているのですが、女性ホルモンが減少すると、男性を受け入れる意欲が低下します。そこへ「セックスする年齢は終わった」などと思いこんでいると、更に性欲は減少する一方。

性欲の低下に伴って、セックスだけでなくスキンシップも減少すると、愛情ホルモンのオキシトシンの分泌が減ってしまい、自己肯定感も薄れていきます。自己肯定感が得られなくなる原因にはさまざまなものがありますが、私は多くの患者さんを見てきた経験から、セックスやスキンシップの不足によるオキシトシンの減少も、大きな原因の一つだと思っています。

――なるほど。年齢を重ねても自己肯定感を上げる方法ってあるんですか?

年齢を言い訳にせずいくつになっても前向きに生きることや、スキンシップを心がけるといいですね。
考えてみて。全ての哺乳類の中で、生殖能力がなくなってから3、40年生きるのは人間の女性だけ。猿なんて、生殖機能がなくなったら死ぬんですよ。生殖から離れた生き物になるということは、50歳で第二の人生がスタートする、新たに生まれ変わると言ってもいいくらい。そこでどう生まれ変わるかで、残りの人生が違ってくるんです。

日本女性の健康寿命と平均寿命には約12歳の開きがあるんです。80歳で、一人暮らしをしながら元気に生きている人もいれば、80歳で介護を受けながら生きている人もいます。そこに大きな差が出る原因は、40代以降に年齢をポジティブに受け入れて自分らしく生きるか、ネガティブに受け取るかが大きいと思います。

これからは、自分優先に生きる!

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――saitaの読者世代は、これからその生まれ変わり時期を迎えるわけなので、今これを知れるのはラッキーですね。

そうです。ここからはもう自由に生きられるわけだから。人間って年齢を重ねてくると、子どもの頃にやりたかったことを忘れちゃっていますよね。10歳くらいまでは「やりたいこと」がはっきりしているのに、大人になると自分がやりたかったことがわからなくなる人が多いんです。

45歳くらいになったら、子どもの頃にやりたかったことを思い出して、それに挑戦してみるのも良いと思います。思い出せない場合は、何をやっているときが楽しいのかを考える。そうすると、更年期が終わった後の楽しみができるんです。ポスト更年期のことを考えておくというのも、とても大事です。

――40代以降の女性たちが幸せに生きていくために、最後に先生からメッセージをいただけますか?

自分が好きなことを1番にやることです。常にそう思って生きていくことが良いと思います。人の世話をするなということではなく、自分優先で動いた後に、他人のことを少しやってあげるぐらいで良いんじゃないかな。そうやって日々を暮らすと楽しくなると思いますよ。

――自己犠牲のような人生を送る必要はないということですね。

例えば、子育ての時期は、もちろん自分を犠牲にしなくてはいけないですよね。そうしないと子どもは育たないから。子どもを育てるというのは、本当に大変なことです。だから、ある時期の自己犠牲は仕方ないとして、子どもが育ったら自分優先で生きましょう。子育てのために犠牲したその時間は決して無駄ではないです。人類が生き残るためには必要な犠牲だし、一緒に生きた時間もとても素晴らしい時間だから。そしてその後は、それを糧に自分中心に生きていきましょう!

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性的意欲には個人差があります。先生がお話しされていたように、したくない人はしない人生で良いし、したいと思う人はそうできるように自分ケアをする。大切なのは、セックスがあるかないかではなく、自己を肯定しながら、自分優先に人生を楽しめるかどうか。このメッセージこそが、40代を生きる女性たちのパワーになるのではないでしょうか。

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著者

山田かほり

山田かほり

フリーライター歴10年。読んだ人の心にふわっとした空気が流れるような記事や情報をお届けできるよう心がけています。

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