「友人の自死をキッカケに、生き方を変えた」声優で絵本作家、あさのますみさんが40代で手放した安定

カルチャー

2021.09.18

「(世間体的に)こうあったほうが安心だ」「もう今さら新しいことに挑戦なんて難しいかも」という自分の中にある思い込みを捨てて、チャレンジすることは年を重ねるほど難しくなっていくものです。しかし、20代、30代のいわゆる"修行”期間を生きてきたからこそ、40代からは自分の感覚を信じて、動き出すべきだと、声優で絵本作家のあさのますみさんは言います。歳を重ねるにつれて「こうあるべき」「やらねば」が増えていく私たち。しかし、それは自分のやりたいことなのか……そんな迷いがある人へ「自分の人生を人にコントロールされない生き方」について聞きました。

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40代からは「やりたくない」は「やらない」選択を

2021年1月にフリーとして独立したあさのさん。大手事務所の安心感や安定を捨てての挑戦。この決断の裏には「自分の人生は自分で決めよう」という決意があったそうです。

あさのさん「大手の事務所が所属しているというのは、安心ですし、安定しているようにも感じます。ただ、大きな組織にいると組織の都合が自分の気持ちよりも優先される場面がどうしても発生します。事務所が悪いという意味では決してありません。よくしていただきましたし、組織と個人と、その葛藤をうまく折り合いをつけていくのが社会人だよね、とも思っていましたし。でも、その状態が少しずつストレスになって、負荷がかかっていることに気付いたんです」

キッカケは20年来の友人の死でした

友人の死がキッカケに…出典:stock.adobe.com

あさのさん「20年来の大切な友人が仕事のストレスがキッカケになって鬱を患い、最終的に自死を選んでしまいました。彼が仕事のことを考えながら亡くなっていったことを遺された日記から知ることができました。このことがキッカケになって、自分のストレスとか、負荷がかかっていることに対して『こんなものだろう』とか『みんなも我慢しているし』などと思わないで、もっと敏感になって生きていこうと思ったんです」

20代や30代という「若さ」と体力があるうちはもしかしたら社会に適合するために我慢することはできるかもしれない。けれどもこれから先の人生もずっと『こんなものだろう』と気持ちや違和感に蓋をして生きていくのは、何か違うのではないかと思ったんだそうです。

あさのさん「この先の人生を考えた時に、この年齢になったからこそ自分の「こうしたい」という希望や「これは嫌だ」という感情に素直になっていこうと思いました」

自分の気持ちや感覚を第一にして生きたいと考えたとき、フリーランスになることがより自分らしく生きていけるんじゃないかと考え、1年ほど悩んだ末に決断。40代での挑戦は若いころの挑戦とはまた違った覚悟がいりますよね。

あさのさん「声優と言う職業は年齢を重ねるほど仕事を継続させていくのが難しい仕事だと感じています。なので、大手の事務所を離れ、フリーランスになるというのは相当な覚悟でした。でも、その不安を抱えてでも、自分を大切に生きたほうがいいだろう、そんな風に友人の死をきっかけに変わりました」

そう語るあさのさんからは「自分の人生を人のせいにしたくない、幸せに生きるかどうかは自分で決めるんだ」そういった決意がヒシヒシと伝わってきました。

大事なのは自分に対する「健全な自信」

大事なのは健全な自信出典:stock.adobe.com

「自分の人生をどうしたいのか、どんな風に生きたいのか」と聞いたとき、心から「こうなりたい!」という姿を答えられる人は少ないものです。
実際「人生が長すぎる、子育てが終わったら何を支えに生きていこう」という悩みはsaitaに多く寄せられています。

あさのさん「私はフリーランスになって、自分に対して『健全な自信』を持てるようになりました。多すぎもせず、少なすぎもしない自分への自信を持つことは意外と難しいのでは、と思っています。

私自身、大手の事務所に所属しているときは私だから依頼される仕事なのか、それとも大手事務所に所属しているからいただけるお仕事なのか、そこは不安がありました。それが、今はクライアントさんやスタッフの皆さんと直接コミュニケーションが取れるので『健全な自信』を持つことができるようになりました。

でも、それまでは、自分に自信がない、自分の存在に対して不安感があったなんてことすら気付かなかったんです」

○○ちゃん(くん)のお母さん、○○さんの妻、○○会社の人……そんな立場で生きる時間が増えていく20代~30代を過ごしたからこそ、気付かないうちに自信が削られ、夢をもつ勇気や挑戦する自信が、知らず知らずのうちになくなっていっていった結果「自分が何をしたいかわからない」という人が増えているのかもしれません。

息詰まっているとき=ひとつのモノサシで測っているとき

あさのさん「もし自分が息詰まっていると感じたら、ひとつのモノサシで自分を評価してないか、考えてみることをご提案したいです。例えば私が声優としてレギュラーが全部終わってしまって、新しい仕事がなかった場合、自分では『もう自分に価値はないんだ』と悲観したくなります。でも、声優に興味がない人からすると『それがなに?』くらいのことかなと。人としての価値とレギュラーがなくなったことは全く関係がないはずなのに、そう思ってしまいますよね。

人って、行き詰まりを感じているときは視野も狭くなり、選択肢もせまくなり、その狭い世界の中で自分を評価しようとするので、余計に自信がなくなってしまう。もっともっと俯瞰した視野でいるためにも、モノサシが一つになってしまっていないか、気をつけたいと思っています」

絵本作家として子どもに伝えたいメッセージ

あさのますみさん©クーリア

大人こそ「健全な自信を取り戻して」というあさのさんに、絵本作家として子どもたちに伝えたいことを聞きました。

あさのさん「声優と言う仕事は作家さんが作った世界観やメッセージを尊重し、それを大切にお届けするお仕事だと思っています。対して絵本作家として私は自分が届けたいメッセージを届けることができます。

子どもたちが読むであろう絵本は一貫して『あなたの存在は世界に祝福されているよ』というような、存在を肯定するメッセージを届けたいと思っています。読み終わった後に優しさや温かさで包まれているような気持ちになってもらえたら本当に嬉しいです」

2021年8月にあさのさんが文を担当した『アニマルバスとくものうえ』が出版されました。
動物でもあり、バスでもある不思議な仲間たちが、一人前のバスになるために奮闘する『アニマルバス』シリーズ第5弾の本作。一番小さくて甘えん坊のラビィが、困っている友人のために自分の特技を生かして大奮闘するお話です。

あさのさん「大人でも子どもでも、自分が人の役に立てるってすごく自信になると思います。信頼できる友人や家族がいる、そんな人が困っているときに役に立てる……ということは、大きな喜びであり、素晴らしいことです。

私自身、何かにチャレンジするときはとても勇気がいります。でも、「すべては自分からはじまる」という言葉を言い聞かせて、いつも自分を鼓舞しています。じっと待つのではなく、小さくてもいいから最初の一歩は自分から踏み出す。動いてみる。そうすることで、見える世界が変わってくるかも知れません。」

お話しを聞いた人:あさのますみ さん

秋田県生まれ。作家業は「あさのますみ」として、声優業は「浅野真澄」として、二足の草鞋で活動中。
作家としての作品に、『ちいさなボタン、プッチ』(小学館)、『アニマルバス』シリーズ(ポプラ社)、『まめざらちゃん』(白泉社)など。声優としての出演作に「Go!プリンセスプリキュア」「怪談レストラン」「キラッとプリ☆チャン」「ベイマックス」などがある。
2021年8月ポプラ社より人気シリーズ『アニマルバス』の最新刊『アニマルバスとくものうえ』が発売された。

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