6歳の息子の言葉で気づいた“悪もの”は見方によっては“正義”になるというお話。

家族・人間関係

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 6歳の息子の言葉で気づいた“悪もの”は見方によっては“正義”になるというお話。

2021.12.12

突然ですが質問です。『3匹の子ブタ』に出てくるオオカミは“悪もの”だと思いますか?
子ブタを襲っている様子をみると悪ものに見えますよね。でも他の角度から見てみたらどうでしょうか。
「正義の反対は悪」ではなく、「正義の反対は、正義」かもしれない。
今回は、人気放送作家の石原健次さんがストーリーを担当、お笑いタレントの矢部太郎さんが挿絵を担当された『10歳からの考える力が育つ20の物語』から、物事を色々な角度から見る重要さをお届けします。
教えてくれたのは、当書籍編集担当の子育て真っ只中、出版社アスコムきくどんさんです。

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教えてくれたのは…きくどんさん

出版社アスコムの編集者。児童書担当。本名は菊地だが、子どもの頃にきくどんと呼ばれていたので、Twitter(@kankantaro1)などでもこの名前を使っている。最近担当した児童書は、『10歳からの 考える力が育つ20の物語』『やばいことわざ』『オタク偉人伝』『すごい四字熟語』『妖怪のたおしかた』。6歳の息子がいて、本ができると真っ先に読ませる。『妖怪のたおしかた』を読みすぎてボロボロにされたのがパパ冥利。

10歳からの考える力が育つ20の物語出典:www.amazon.co.jp

10歳からの考える力が育つ20の物語』(アスコム)
著者:石原 健次
挿絵:矢部太郎
価格:1,430円(税込)
 

人には親切にしてあげよう。
ウソをついてはいけない。
コツコツ努力することって大切。

どの親もきっと、子どもにそう教えますよね。
でも、それだけが正解だと教えてしまうと、ちょっと困ったことがおきてしまいます。

ふたりの“悪もの”が生まれてしまった話

少し前のことです。
もうすぐ6歳になる息子が、公園でオモチャを持っている子どもに「貸して」と言ったら、「やだ」と言われたことがありました。

遊ぶこども出典:stock.adobe.com

「あの子のオモチャなんだから、やだって言われたら、しかたないんだよ」とさとすと、息子はこう言ったのです。

「だってぼくは、貸してって言われたら、貸してあげるよ!」

ちょっと言葉が出ませんでした。
なぜなら「貸してって言われたら、貸してあげようね」と教えたのは、ぼくだからです。

人を思いやれる子になってほしい。
そんな思いを込めて伝えたぼくの言葉が、息子には「貸してあげるのが正しいこと」だと伝わり、貸してくれないその子は“悪もの”だと考えるようになってしまったのです。

もちろん「いま遊んでいるから貸さない」というのはしごくまっとうで、その子にしてみれば、怒った息子こそ“悪もの”でしょう。

こうして、ぼくの言葉によって、ふたりの悪ものが生まれてしまいました。
ぼくは息子に、どう言えばよかったのでしょう?

童話は「いろんな角度から考える」ための最高の教科書

童話出典:stock.adobe.com

対立が生まれたとき、どちらかが一方的に悪いということは、ほとんどありません。
あるのは考え方のちがいで、双方が自分こそ正しいと信じて、相手を悪だと決めつけます。
かのドラえもんの言葉を借りるなら、「どっちも自分が正しいと思っているよ。戦争なんてそんなもんだよ」。

大切なのは、相手にも相手の考えや事情があると理解すること。
そのためにうってつけの教科書が、実は童話です。

童話って、常にわかりやすい悪ものが出てきて、最後にはやっつけられますよね。ぼくたちも、そこで示される「正しさ」に疑問を持ちません。

この、当たり前のように受け入れている童話の教訓を、一度ちがう視点で見てみることで、またちがうストーリーが見えてきます。

『3匹の子ブタ』は「正義の反対」について考える話

たとえば『3匹の子ブタ』で子ブタを襲ったオオカミだって、生きなくてはなりません。
ひょっとしたら、群れにお腹を空かせた子どもが待っているのかもしれない。

自分の身を守った子ブタはもちろん正しい。
けれど、オオカミにだってオオカミの正義があったはずで、子ブタ側の視点だけで悪と決めつけてしまうのは、今の時代には危険な考え方でしょう。
『3匹の子ブタ』をちがう視点で読み解くと、正義の反対は悪ではなく、「もうひとつの正義」だと学べる話になります。

3匹の子ブタ出典:www.amazon.co.jp

『さるかに合戦』は終わることのない戦争が生まれる話

『さるかに合戦』では、親をサルに殺された子ガニは、クリや臼など仲間の力を借りて、みごとサルに仕返しをしました。
めでたしめでたし! 
……でいいのでしょうか?
きっとその後で、今度はサルの仲間たちが仕返しにくるでしょう。
子ガニや仲間たちがそれに対抗し、終わることのない戦争がはじまってしまいます。
じつは「さるかに合戦」とは、復讐が連鎖を生む話だとも考えらないでしょうか。
そして、そのことを一番悲しむのは、天国にいる子ガニたちのお母さんです。

さるかに合戦出典:www.amazon.co.jp

『鶴の恩返し』は約束の意味を問う話

『鶴の恩返し』の老夫婦は、約束をやぶって部屋をのぞいてしまい、鶴は去っていきました。
でも、殿様の命令で機を織り続けていた鶴の体はボロボロで、部屋をのぞいたのは、そんな鶴を心配した老夫婦の親心だったとも考えられます。

鶴との悲しい別れは、別の角度から見ると、鶴の命を救ったとも言えます。
この童話は、ときには約束を守るよりも大切なことがあると気付かせてくれはしないでしょうか。
この童話のラスト、じつはハッピーエンドであるとも考えられます。

鶴の恩返し出典:www.amazon.co.jp

こんな風に、誰もが知っている童話を別の角度から見てみると、まったくちがうストーリーが見えてきます。

そこで覚えた「なるほど!」「へぇ〜」という感覚は、「物事をいろんな角度から考える力」を育み、いろんな考え方を理解できるようになり、興味の幅を広げ、想像力をのばし、思いやりの心を育みます。
そして、自分で考えて、自分だけの答えを見つけられるようになります。

そしてこの力は、とくに今の時代、子どもはもちろん、大人にこそ大切なものではないでしょうか。

ぜひ、子どもと一緒に、よく知る童話を「ちょっとちがう視点」で読み解いてみてください。
思いもよらない答えが返ってくるかもしれません。

その視点は、カチコチに凝り固まった頭をほぐし、多様な考え方を理解するためのヒントになります!

最後に。

ぼくはいま、あのときの息子に、こんな言葉をかけたいです。

親子出典:stock.adobe.com

君の考えは、もちろんまちがってないよ。
でもね、あの子にも、オモチャを貸したくない理由があったのかもしれない。

ちょうど面白いところで、途中でやめられなかったのかもしれない。
今日買ったばっかりで、まだ自分が遊びたかったのかもしれない。
じつは、ほかの子が触ると爆発する危険なオモチャだったのかもしれない。

その理由を、ふたりで考えてみよっか?

それが言いたくて、また息子がオモチャを断られないかな、などと、本末転倒なことを考えています。

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