登場するだけで「何かをやらかしてくれる」という期待が膨らむ
吉田鋼太郎さんに女性の視線が集中したのは今年の流行語大賞にもノミネートされた、ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系・2018年)で演じた黒澤武蔵役。長年連れ添った妻と別れて、会社の部下である春田創一(田中圭)を好きになる物語だ。
「はるたんが好きです!!」
と、どストレートな告白。さらに
(春田のことを)「可愛すぎる! 存在が罪!! ピュアー……可愛すぎる〜!!!」
と次第に語彙力を低下させながら、愛を叫ぶ。まるで中学生のような愛情表現をかましてくるおっさんの姿は視聴者の共感を呼んだ。あのドラマの立役者、私は黒澤部長だと信じて疑っていない。
あの演技はほぼ素なのではないかと思っている。というのも吉田さんは現在59歳。ずっと舞台を中心に活動し続けてきた俳優さん。テレビドラマで頻繁に見かけるようになったのは、2010年ごろからのことだ。ブレイク後、彼の軽快かつ、なぜかどこか可愛らしい言動をバラエティ番組班は見逃さなかった。
記憶にあるのは『しゃべくり007』(日本テレビ系・毎週月曜放送)にゲスト出演時。共演経験もある女優の吉田羊さん愛についてひたすら
「羊ちゃんは俺に絶対気がある。(中略)タバコを吸うために席を外そうとしたら『タバコの煙は嫌いだけど、好きな人の煙なら大丈夫だから』と言われた」
と得意げに話していた。その姿は念願のおもちゃを親に買ってもらった小学生。
これはひょっとするのかもしれないと、文春砲へ期待を膨らませていたのだが、この直後に彼は4度目の結婚をする。つまり本命を持ちながらも羊さんへの純愛を隠せずにいたという恋愛体質。この素直さが“おじ可愛い”のヒントなのだと思う。
映画『男はつらいよ』の寅さんを彷彿させる愛しさ
一介のライターである私の元にでさえも「吉田鋼太郎はとにかくモテるし、すぐ口説いちゃう女好き」だと週刊誌の記者さんから情報が届く。ほう、石田純一にもついにライバル登場か。そう思っているうちに吉田さんの女性にまつわる噂話が次々に届く。あの、誰も要求していないんですけど。
詳細は割愛するけれど、恋愛欲に対して忠実な彼はひたすら女性を褒めちぎる。そしてあくまで低姿勢かつ、無邪気にひれ伏してヲタのように尽くすらしい。好きになった女性にはひたすら迎合……これである。
「吉田鋼太郎がモテるのか、よしじゃあ俺も“おじ可愛い”目指そうかな」
なんて一般のおっさんが試そうものならたいがい血まみれになって帰ってくるのがオチだ。というのも周囲のおっさんたちを見渡すと、年齢だけ重ねた上に自分が偉いと思っている傾向が多い。「時代だ」と言われれば、そうかもしれないけど、それでは“おじ可愛い”は遠い未来。棺桶に入るまでには到底間に合わない。
加えれば、ビジュアルは特に関係ない。脂ギッシュであろうが、中年腹であっても“おじ可愛い”は作れる。現に吉田さんはガッチリとした体型だしドラマ『MOZU Season1〜百舌の叫ぶ夜〜』(TBS系・2014年)の入浴シーンでふっくらしたお腹とお尻を確認したことがある。ハンサムかと言われればそうでもない。
女性を大事に、優しく。そして子どものように素直でいる。これが愛される“おじ可愛い”の第一条件。そんなおっさんに遭遇したら女性側はぜひチェックを怠らないでほしい。竹内涼真くんでも千葉雄大くんでもない、新しい「可愛い♡」を開くことができるかもしれないのだ。
と、そんな風に吉田さんのことを原稿上で愛でていたら、思い出した作品がある。彼の初主演作となった『東京センチメンタル』(テレビ東京系・2014年)だ。バツ3独身の久留里卓三が、毎週誰かに恋をして振られていく。そんな映画『男はつらいよ』の寅さんを思い出させるおっさんを演じた。ああ、そうか。寅さんか。ひょっとしたら“おじ可愛い”のパイオニアはここにあったかもしれない。でも惜しくも寅さん役の渥美清さんは亡くなられてしまったので、その意志、そして言動を現代版の寅さん、吉田さんが継承しているとしよう。
プロフィール
スナイパー小林/小林久乃
ライター兼編集者。ドラマヲタが高じてウエブ『マイナビニュース』『テレビドガッチ』でエンタメコラムを連載中。男性ファッション雑誌『2nd』にて「ちょっとどーなの?お洒落メンズ』にて辛口連載も。ついでに書籍や写真集もバンバン、ガンガンとディレクションする働き者。静岡県浜松市出身の独身。近況はツイッター@hisano_k
イラスト/榊原一樹
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