2018年はムロツヨシが豊作の一年間だった
『大恋愛〜僕を忘れる君と』(以下『大恋愛』略)は若年性アルツハイマーに自分の人生を犯されてしまった女医・北澤尚(戸田恵梨香)と間宮真司(ムロツヨシ)のラブストーリー。いつか自分のことは忘れてしまう、その覚悟をいつも抱えながら尚と結婚した真司。一人息子にも恵まれ、家も購入した矢先に尚は病気の悪化を危惧して家族の元を去ってしまう。
……というのが12月14日(金)に最終回の放送を迎える『大恋愛』の大まかなあらすじ。毎回号泣の嵐で早くもロス続出が予想されているのだが、このドラマ、何が話題だったかといえば“ムロツヨシがイケメンだった”こと。真司は尚に出会う前に発表した作品でベストセラー小説家だった。過去に書いた作品が二人をつなげるキューピットになるのだけど、出会った当時は引っ越し屋でアルバイトする中年男。世間で言ううだつの上がらない存在だったのだ。
一方、尚は高ランクの生活をデフォルトする女医という、二人は格差恋愛にカテゴライズされる関係性。それでも二人は愛し合う。このラブシーンでやけに艶っぽさを放出していたのがムロさんだ。
あの戸田恵梨香を相手に、甘く時には生々しいキスシーンを繰り広げた。恋人同士の二人がいちゃつくシーンはどこまでが演技? ここからがアドリブ? と見る側が迷子になるほどのリアリティがあった。結果、恋愛によってくすぶっていた人生に明るく光が照らし出されるようになった中年男子の姿に、女性視聴者は一喜一憂した。
「尚ががんでも、エイズでも、アルツハイマーでも、心臓病でも、腎臓病でも、糖尿病でも、歯周病でも、中耳炎でも、ものもらいでも、水虫でも……俺は尚と一緒に居たいんだ」
こんなセリフもあのハスキーな声でドラマに落とされていく。私たちがこの放送までイメージしていたムロツヨシ像は気持ちよく覆された。「こういう旦那や彼氏がいたらいいのに」と思わせるほどのイケメンぶりだ。これを彼は今までどこに潜ませていたのだろうか。いや、これが演技というものだとしたらムロツヨシは真のエンターテイナーだ。
女優を引き立てつつ、ガッチリ存在感をアピール
と、そんなことを考えていたら、同じ美女と野獣方式のカテゴライズに『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系・1991年)の武田鉄矢さんの演技を思い出した。「僕は死にましぇん!」やら名言を世に放ったヒットドラマである。
武田鉄矢……? と振り返ると、ムロさんは今クールダブルヘッダーで作品に出演していた。それが『今日から俺は!!』(日本テレビ系・2018年)だ。彼は金八先生を崇拝する高校教師役を演じていた。見た目も話し方もそのまんま金八で、それはまさに私たちが知っているムロツヨシがそこにいた。ドラマ自体もコント仕立ての内容だったのでハマり役としか言えない。でも前出の『大恋愛』との役の振り幅があまりにも広すぎて、私たちはまたしても彼の演技の虜になってしまった。
他にも今年は石田ゆり子さんと夫婦役でCM出演していた。あの中年女子の星・ゆり子さんの美しさを傍で引き立てていたムロさん。彼女の横にいたからこそ、自分の存在をアピールできるというのは、キャスティング上の話なのだろうか。それとも一連の演技力から推測していくと、彼の巧妙な計算が光ったのかもしれない。
そうやって頭の中をムロさんでいっぱいにしながらコラムを書いていたら、思い出したセリフがある。名作『ロングバケーション』(フジテレビ系・1996年)で、葉山南(山口智子)が言ったものだ。
「瀬名くんシャイだし、一応かっこいいし。(中略)ブ男の愛の告白の方がホントっぽいでしょ」
確かに。イケメンの告白は「や、こいつそこら中で口説きまくっているよね」とまず疑われる。残念な真実だ。でもブ男の告白には真実味と重みしか存在しない。初っ端から結婚を前提に話されているのだろうとこちらも覚悟を決める。
ムロさんがブ男と言うわけじゃないけれど、ご本人が作り上げてきたコミカルな存在にはインパクトがある。イケメン部門にはカテゴライズされ難い。でもその結果、彼には真摯さが残った。そしてここ10年くらいで出演作を重ねまくって、ムロツヨシという名前を実力に置き換えた。それが今回の『大恋愛』で活かされているんだろうな、というのがスナイパー小林予測。
これから彼が自分のキャラクターにどんなハンドリングをしていくのかは未知数。でも時にはイケメンぶりを発揮して私たちの心をブルブルさせてくれますように。
プロフィール
スナイパー小林/小林久乃
ライター兼編集者。ドラマヲタが高じてウエブ『マイナビニュース』『テレビドガッチ』でエンタメコラムを連載中。男性ファッション雑誌『2nd』にて「ちょっとどーなの?お洒落メンズ』にて辛口連載も。ついでに書籍や写真集もバンバン、ガンガンとディレクションする働き者。静岡県浜松市出身の独身。近況はツイッター@hisano_k
イラスト/榊原一樹
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