衝突ののち不登校を受け入れ、やりたいことをやらせてくれた両親
――小幡さんは小学校2年生から不登校だったそうですが、ご両親は「学校に行かない」選択についてどう思われていたのでしょうか。
小幡さん(以下小幡):僕は父が教師で母も教員免許を持っている家庭で生まれたんですが、僕自身は学校がいやで勉強もできなくて……。小学校2年生の時に、学校が合わないと感じて「行きたくない」と言うと、親は「行きなさい」と無理やり行かせようとする。両親と毎日ケンカして、登校を拒否し続けて、自分の居場所がない気がしてとてもつらい日が3カ月続きました。
親自身が勉強して仕事をして生活ができている、という人生を誇りに思っているから、勉強以外の価値観を子どもに伝えることは難しかったと思います。
――ご両親は、小幡さんが不登校になって価値観が変わったんでしょうか?
小幡:価値観は変わっていないと思います。3カ月間毎日ケンカして、僕がどんどん元気を失っていったので、諦めたんだと思います。でも、僕が学校に行かないことを決めてからは、好き勝手やらせてくれました。
僕はその後中学校卒業まで学校には行かず、フリースクールに行ったり、ゲームを一生懸命やって大会に出たりしていたんですが、ゲームもフリースクールも、親の人生ではおそらく全く経験がなくて理解できなかったことだったはず。でも、受け入れて好きにやらせてくれた。父は特に、教師という立場でもあったので、その決断は大変だったと思います。両親のそういうところは本当に尊敬しているし、今思うとありがたかったですね。
――小幡さんのやりたいことを受け入れてくれたんですね。
小幡:そうですね。好き勝手させてくれましたけど、ゲームをするのにお金は出してくれなかったですね(笑)。
――えっそうなんですか!? ゲームを買うにも資金が必要だと思いますが、どうしていたんですか?
小幡:新しいゲームは誕生日とクリスマスで、1年間に2本くらいしか買ってもらえないので、いかにやり込んで、遊び尽くすかの勝負です(笑)。でもあれはいい経験になりました。中学校に入ってからは、それまで貯金したお年玉を使う権利を与えられたので、それで自分でやりくりしていました。
子どものやりたいことを見つけるには、選択肢を与え続けること
――ゲームに本気で取り組むことで、小幡さんなりの生きる力を積み上げてきたんですね。新型コロナウイルスの感染拡大以降、これからの学びについて改めて考えた人も少なくないと思います。子どもの生きる力を育むために親ができることはどんなことだと思いますか?
小幡:選択肢を与え続けることだと思います。子ども何が好きか、どんなことが向いているかって、そんな簡単に見つからないし、やってみないとわからないですよね。お金や時間をかけて、いろんな体験をしてみることが必要なので、親はそれをサポートしてあげるといいのかなと考えています。
学習塾やスポーツの習い事など、いろんなものがありますが、どれも子どもが生きていく手段の1つだと思います。
勉強をしたい子なら塾に行くのもいいと思うけれど、逆に学習に向いてなくて勉強の世界で輝けない子もやっぱりいますよね。勉強ができない子が、そこに劣等感を感じたり、自己肯定感が下がったりすることはなくしていきたいです。
本質的に必要なのは、将来、自立した大人として生きていくことだから。勉強という軸だけじゃなくても、輝ける場所があるんだよ、と伝えたいですね。
親には子どもの好きなものや文化を知ってほしい
――子ども自身が生きる道を見つける手伝いをするのが、親の役割なのですね。
小幡:そうですね。あとは、子どもの文化を知ることでしょうか。みんなで同じテレビ番組を見ていた時代と違って、今の子どもたちはインターネットやオンラインゲームでいろんなコンテンツを選べます。そのぶん、親は子どもが好きなユーチューバーやコンテンツを全く知らないという世代間の分断が昔よりある気がします。
例えば、子どもたちに人気のプロゲーマーでゲーム実況ユーチューバーのネフライトさんという方がいるんですが、彼は野球でいうとイチローさんのようなスーパースターなんです。大人たちはイチローさんはほめるのに、ユーチューバーというとちょっと批判的になる人もまだいますよね。そうすると子どもは「大人って何も分かってない」と感じてしまい、話を聞いてくれなくなります。
だから、大人も、子どもの世界を知ろうと勉強することが大事だと思います。そうしないと会話が成立しないですよね。
――オンラインのコミュニケーション自体がなかった親世代にとっては、未知の文化を受け入れにくいのかもしれませんね。
小幡:ゲームや動画などの子どもに流行しているカルチャーを親が否定してしまうことによって、才能を発揮できていない子どもたちは少なくないと思います。子どもの才能を伸ばすには、やはり親の支援が必要です。子どもが野球をやりたいといえば、野球チームに入ろうとか、いいグローブ買おうとか、応援しますよね。そこは親が子どもたちのことを見て、勉強する必要があると思います。
オンラインもオフラインも、ハイブリッドに取り入れて活用すべき
――では、オンラインゲームなどで他者とつながることで、コミュニケーションが取りにくい子になるのでは、と心配する声についてはどう思いますか?
小幡:確かに顔も見えない匿名の相手だと、攻撃性が高まってしまうことはあるかもしれないけど、それは大人も子どもも同じです。今こうやってオンライン取材をしていても、リアルと比べて失礼な態度を取ったりとかしないですよね(笑)。
外出自粛期間中、学校の友だちとオンラインでつながる機会もあったと思いますが、そこでもめごとが起きるなら、それはオフラインでも起きることだと思います。ある程度知っている人と、対面でのオンラインコミュニケーションなら、あまり心配いらないのではないでしょうか。
――2020年の春頃から、外出自粛期間の休校によりオンライン授業を取り入れた学校もありました。これからの子どもたちの学習の仕方について、どのように考えていますか?
小幡:オフラインが無理だから仕方なくオンラインにする、というものではなく、それぞれメリット・デメリットがあるので、ハイブリッドで利用するといいのかなと思います。
オンラインは時間や場所の制約がなく誰でも参加でき、アーカイブも見られるという利点があるので、単発的な学習や、自分のペースで学びたい子には有効だと思います。
一方で、オフラインの良さももちろんあって、時間割などである程度管理されて、クラスメイトも一緒の方が学びやすい子もいると思います。
これからは、オンラインとオフラインをうまく組み合わせることで、学びの選択肢や可能性が広がるのではないかと考えています。
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小幡和輝さんプロフィール
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30000時間を超える。その後、高校3年で起業。SNSのプロモーション企画やイベント事業などを行う。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより、世界の若手リーダー『GlobalShapers』に選出。2019年10月より、日本初、ゲームのオンライン家庭教師『ゲムトレ』を立ち上げる。
取材協力・キャプチャー写真/オンライントークイベント「これからの時代を生きる子どもたちに学んでほしいこと」より
小幡和輝オフィシャルYouTubeサイトにてアーカイブが公開されておりますので、ぜひご覧ください。