生きていくために役に立つ学びとは……
小幡:茂木さんとは7年くらい前に知り合いましたね。茂木さんの講演会で僕が質問をしたのがきっかけで、いろいろお話しさせていただいています。
茂木:小幡くんは高校生の時に堀江貴文さんの講演会を開いたりして、その頃から実業家だったよね。だから小幡くんはちょっと……特殊能力があるよね(笑)。
小幡: そうかなー(笑)。僕はゲームの課題をクリアするのが好きだったんですよね。あの講演会は、堀江さんがどうやったらきてくれるかというのが課題でした。
『ゼロ』という書籍発売にあたって全国の書店巡りをしていたので、本が売れれば来てくれるんじゃないかと考えたんです。堀江さんのTwitterに書いてあるアドレスに連絡して、500冊買い取るから来てくださいとお願いしたんです。
堀江さんはあの時は、本を売るために1つ1つの書店を回っていたから、1回講演会をやって500冊売れるなら、彼にとってメリットがあるんじゃないかな、と考えました。
茂木:そこはやっぱり、起業家としての才能があるよね。今日はまさにそういう話をしてたくて。
僕は、日本の学力観について疑問を持っているんだよね。小幡くんの今の話って、既存の教科に当てはまらないでしょう。
小学校くらいから「経営者はゲストの心をつかむために『本を売る』っていう方法を考えることが大事だよ」と教えるほうが、よっぽど役に立つと思う。
小幡くんはゲムトレっていうゲームの家庭教師の事業をやっているけど、トレーナーはどうやって選ぶの?
小幡:トレーナーの応募数は多いので、エントリーシートやメールのやり取りの段階から選んで、最終的に面談をして決めています。
応募してくれるのは全国大会優勝者や、世界大会出場者、元プロゲーマーなどで、ゲームスキルについてはどの人も十分なんですよね。差がつくのは人間力です。子どもたちに教える能力があるかが大事なので、そこを見ています。
茂木:……っていうような授業が大事だと思うんだよ!
たとえば東大クイズ王選手権にしても、クイズはもちろんすごいけど、それより伊沢拓司くんが、クイズというフォーマットをビジネスに応用したり、メディア展開していく、そっちの方がむしろ面白いんだと思う。だから、そういう発想を教える場所が欲しい気がする。
小幡:そうですね。起業しなくてもいいけど、起業できる能力はあった方がいいと思います。大企業じゃないとできない仕事もあるから起業が全てじゃないけど、起業できると社会で生きやすいかなとは思います。
教科書よりもビジネス思考を学んでほしい
茂木:小幡くんみたいな異能な人が遠慮しないでもっと頑張ってほしいな。学びについて考えるとき、日本の教科書はいいよね、っていう着地先があるけど、おれは全然そうは思わない。学校の勉強ができなくても、たとえば「堀江さんは本を売ると来てくれるよ」というスキルがあれば生きていける気がするんだよね。
Rubyの開発者のまつもとゆきひろさんって知ってる? 彼は高校生の時に15のプログラミング言語を調べて、仕様を考えて、Rubyっていうプログラミング言語を作って、今となっては世界中で使われているじゃない? でも彼の数学ⅲの成績は10段階評価の1だったらしいんだよね。
数学はできたらできたでいいんだけど、Rubyを開発するような異能を持っている人がつぶされないことが大事だと思う。
漢字や分数ができなくても、すごい異能がある人っているんだよね。小幡くんはビジネスついての異能があると思うけど、他に最近の事例はありますか?
小幡:そうですね……ゲムトレの事業を立ち上げる時は「プロゲーマーを育てる」という見せ方はしませんでした。わかりやすいけれど、間口がせまくなってしまう。だから、ゲームって、頭が良くなるとかチームワークが身につくとか、教育の効果があるよね、という入り口にするようにしました。そうすると多くの人に広がりやすいと思ったんです。
茂木:それもまさにビジネスの重要なレッスンですよ。元LINE社長の森川亮さんは、LINEを立ち上げる時に間口を大きくするために「無料で電話をかけられます」とアピールしたらしい。通話は本当はLINEの一番のセールスポイントじゃないと思うけど、ローンチの時はそれが一番親しみやすいからそこから行った、という。今はもうお互いの電話番号を知らなくてもLINE IDがあれば連絡できるまでに広がったよね。
ゲームと学びがつながり合う可能性は……
小幡:やっぱり、起業のように、ないものを作る、0から1を立ち上げるというのは勉強しにくいところで、やってみないとわからないところですよね。
実は近々、フォートナイトというオンラインゲームを使って、ゲーム中の会話を全て英語で行って、英語学習する事業を考えています。
もともと僕が英語がすごく苦手ということもあるんですが……(笑)。単語を教えるというよりは、英語を学ぶハードルになっている恥ずかしさを、ゲームでうまく取っ払ってあげたら、もっと学びやすくなるのかな、と。
茂木:フォートナイトやマインクラフトと英語を絡めるのはすごくいいよね。ゲームと学習の可能性はあると思う。コミュニケーションが苦手な子もオンラインゲームなら大丈夫、ということもあるしね。日本ではゲームがいまだにネガティブに捉えられているところがあるから、そのイメージを変えていくのは小幡くんのミッションだと思うな。
小幡:そうですね。ただ僕は、子どもに対しては全く制限なくオンラインゲームをやらせていいとは思っていません。
SNSの誹謗中傷にもつながりますが、人って顔が見えないと攻撃性が高まる面があるし、いろんな人がいるからトラブルも起きると思う。
だからオンライン上で子どもが全く知らない人とやるのは、リスクもあります。
その点で、僕がやっているゲムトレでは、全国に120人くらいフォートナイトを学んでいる生徒がいて、誰かとゲームしたい時に生徒同士でマッチングしてプレイできます。このような、ある程度クローズドなコミュニティは、安全面で価値があると考えています。
茂木:アバターを使うとコミュニケーションを取りやすい子もいる一方で、顔を隠すと攻撃性が高まるという意見もあるんだね。
これからは、きっとオンラインゲームを使ったコミュニケーションのノウハウや学習を積み重ねる時代になるから、こういう細かな議論は重要だと思う。
まず大人が自分の個性を見つめることが大事
小幡:では最後に、茂木さんがこれからの子どもたちに学んでほしいことはどんなことですか?
茂木: これからは、個性を伸ばすことの意味を一生懸命考える時代だと思います。人工知能もあるから、個性が一番大事でしょう。
大人たちも実は自分の個性を生かしきれてないかもしれないから、自分ごととして考えてほしいな。
父母も一緒に自分の個性の伸ばし方を学ぶことで、子どもの学びも進むんじゃないかなと思います。
小幡:時代がすごく変化しているから、今の親と子どもの世代に、好きなものや流行しているものなどの、価値観にだいぶギャップがありますよね。
それを知らないまま関わろうとしても、子どもたちからしたら「こいつ何も分かってねーな」と思われて、話を聞いてくれないです。まずは知ろうとすることも大事かなと思います。
茂木:うん、それはあるよね。若い人からいろいろ教えてもらうことって大事だよね。
茂木健一郎さん、小幡和輝さん プロフィール
茂木健一郎(もぎけんいちろう)さん
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』など著書多数。
小幡和輝(おばたかずき)さん
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30000時間を超える。その後、高校3年で起業。SNSのプロモーション企画やイベント事業などを行う。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより、世界の若手リーダー『GlobalShapers』に選出。2019年10月より、日本初、ゲームのオンライン家庭教師『ゲムトレ』を立ち上げる。
取材協力・キャプチャー写真/オンライントークイベント「これからの時代を生きる子どもたちに学んでほしいこと」より
小幡和輝オフィシャルYouTubeサイトにてアーカイブが公開されておりますので、ぜひご覧ください。