結婚生活42年。夫婦二人三脚で過ごせる秘訣
――「Dans Dix ans(ダンディゾン)」は引田さんが45歳のときにオープンしたんですよね。ご主人であるターセンさんの早期退職を聞き、突然「パン屋さんがやりたい!」というアイデアが降ってきたそうですが、ターセンさんはどのような反応でしたか?
夫は、「今まで自分を支えてくれてたから、これからは自分がサポートするよ」と言ってくれました。心配されたり、反対されたりはなかったですね。試行錯誤しながらもパートナーシップを育んできたからだと思います。
――ステキな一言ですね! 結婚25周年を迎えたタイミングで、引田さんにとっては子育てもひと段落し、まさに第二の人生がスタートしたわけですが、そこから夫婦二人三脚で過ごしていける秘訣はなんでしょうか。
私は経済観念がないし、対外的な交渉も苦手なので、そういうところを引き受けてくれるのが夫です。せっかく「この人だ」と思って結婚したのだから、悪いところではなくて良いところを見て、私にはない、こんなに良いところがあるんだ! という風に相手のことを見ることが、二人三脚でやっていける秘訣ですかね。
――お話を聞いていると、あまりケンカをしないように思うのですが、夫婦ケンカはしますか? これまでに離婚の危機になるような大きなケンカは?
今でもケンカはしますけど、少なくなりましたね。離婚の危機は、新婚旅行のときです(笑)。
当時の私はまだ20歳。海外旅行中、ほんとにお腹がペコペコなのに、夫はなかなかレストランを決めてくれなくて、やっと席に座ったと思ったら、今度はギャルソンとずっと話していて全然オーダーしてくれないんです。そのときに「この人とは無理」だと考えました。
でも、それで「この人は時間がかかるんだ」ということがわかったので、これからは「これとこれ、先にお願いします」と注文すれば良いんだと思うようになりました。相手を変えたい人は多いと思うんですが、そういう些末なことは自分が変わったほうがいいですよね。
それに、そこで諦めなければ60、70歳になったときに、笑い話のネタになりますから(笑)。病めるときも良いときもと誓ったわけですから、なんとか夫婦としてまっとうしたいなという気持ちではありますよね。
そんなに好きじゃないラーメンを、夫のために作る理由
――引田さんにとって、結婚とはなんですか?
あるとき見ていたドラマのセリフに「別れられる家族」というセリフがあって、それを聞いたときに「確かに!」と思いました。結婚ってそのくらい危ういものだと思うんですよね。だからこそ、二人の努力で継続できる家族というのが夫婦だと思います。夫婦になる人とは何かしらの縁があるんだろうなと思うんです。夫婦として一緒にいる意味とか、ときどき俯瞰して考えるのは大事だと思います。
――別れられる家族って、深い言葉ですね。夫婦としてどんなカタチが理想的ですか?
人生を共に歩むパートナー。そうでありたいと思います。私にとって興味のうすいラーメンですが、それでもラーメン大好きな夫のために作ります(笑)。人生を共にする人だからこそ、相手が喜ぶことをしてあげたいと思いますよね。でも夫は、私が普段から「このお店のこれが好き」とか話していても、そのお店の近くに行っても買ってきてくれないんですよね(笑)。「言ってくれたら買ってくるのに」とか言うんです。自分が行く場所と妻がどこの何が好きという情報が繋がらないのが男性なのかしら。でもね、男性は気が利かないくらいがちょうどいいんですよ。
結婚生活40年以上の引田さんが語る「夫婦」についてのお話は、今、夫婦という関係について考えている方たちにとって、とても心に響くものではないでしょうか。常にご自身の人生の中で大切にするべきことを明確に持っていらっしゃる引田さんに、次回は「自分らしい生き方」についてお聞きします。
>>引田かおりさんインタビュー記事:「専業主婦に向いてない」と気づいた主婦が、45歳でパン屋を開業!“第二の人生”をスタートできた理由
お話を伺ったのは……引田かおりさん
夫の引田ターセンと共に、2003年より東京・吉祥寺にある「ギャラリーfève」とパン屋「ダンディゾン」を営む。さまざまなジャンルの作り手と交流を深め、新しい魅力を引き出し、世に提案していくことを大きな喜びとしている。著書に『私がずっと好きなもの』(マイナビ)、ターセンとの共著に『しあわせな二人』『二人のおうち』『しあわせのつくり方』(すべてKADOKAWA)『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社)がある。
『「どっちでもいい」をやめてみる』
著者:引田かおり
出版社 : ポプラ社