「卒婚」を使いたがるのは女性だけ?
「「卒婚」という言葉を使うのは、大体が女性サイドですね。男性が使っているのは聞いたことがありません」と切り出す椎名先生。
卒婚とは、もともと2004年に教育ジャーナリストである杉山由美子さんが自身の著書、「卒婚のススメ」の中で使用した造語なんだそう。あくまで離婚とは異なり「婚姻状態のまま夫婦がお互いに干渉することなく、それぞれの人生を歩むという近年の夫婦生活の新しい形の1つ」とされています。実際「卒婚宣言」をしている有名人もいて、それがますます「卒婚」をメジャーなものしたといえるかもしれません。
「卒婚」=「主婦卒業」だと思ってない?
ポイントなのは本来卒婚とは夫婦が愛想を尽かしている状態ではなく、「あくまでお互いのライフスタイルを尊重し、納得して選んだ結果生まれた新しい夫婦の形です」と椎名先生。
仮面夫婦や家庭内別居ともまるで別物で、前提には夫婦の愛情と固い信頼関係があるんですね。
ところが認知度が上がるたび、「子どもが独立したら夫の世話はせず自由気ままに暮らしたい」「離婚はしたくないけれど家事から解放されたい」、そんな女性たちによって「卒婚」のニュアンスが少しずつ変えられていると椎名先生は言います。
あなたの卒婚願望の中に「主婦をお休みしたい」がもし入っているのなら、それはそもそも本末転倒なのかもしれません。
卒婚したいなら、お互いの「生活力」をもっと上げるべき!
「もし本気で卒婚を考えているのなら、女性側にも一定の経済的余裕と覚悟が必要ですよ」と椎名先生。遅くとも40代後半くらいから何かしらの準備が必要になりそうですね。
さらにこれは男性側にもいえることだそう。普段家のこと一切を妻に丸投げしているようならなおさら、最低限の家事くらいは身につけてもらいましょう。
そもそも夫婦が二人とも健康に過ごせているからこそ、円満で自由な「卒婚」は成り立つもの。椎名先生がいう本当の卒婚とは、「パートナー同士が相手に感謝しねぎらい合っているからこそ叶う、ある意味理想的な夫婦関係」なのです。
仲良し夫婦だからこそ「卒婚」がうまくいく!
一般的に「卒婚」というと、「夫婦関係の終了」「離婚につながるのでは?」というネガティブなイメージがつきまといがちですよね。
子どもの手が離れたら趣味に没頭したい、勉強し直して昔希望していた大学に入りたい、畑仕事をしながらのんびり田舎暮らしをしてみたい……。さまざまな理由で「卒婚」を選択する夫婦。
「信頼関係の上に成り立つ建設的な卒婚を決めた夫婦は、むしろ仲のいいケースが非常に多い」と椎名先生は言います。
ですがもしどちらかが完全に納得できていない、コミュニケーションがきちんと取れていない関係性であれば、本格的な別居や離婚にも繋がりかねませんよね。
「卒婚=離婚へのカウントダウン」ではない!まずは基本的なコミュニケーションを
今や「3組に1組が離婚する時代」といわれていますが、実は離婚件数は2002年をピークにゆるやかな減少傾向にあります。
ところが同居期間20年以上の「熟年夫婦」にスポットを当ててみると、離婚する夫婦のなんと5組に1組がいわゆる熟年離婚。
さらに2010年頃からこの割合は年々上昇しているのだとか!
生活を何十年もともにすれば、パートナーに対し多かれ少なかれ不満が出てくるもの。
この状態で無理に「卒婚」を進めれば、夫婦の亀裂はさらに深まってしまいます。
本来の卒婚はあくまで愛情と信頼関係あってのものであり、熟年離婚のための予行演習ではありません。
卒婚を考えるのは「パートナーとの心地いい生活づくり」にひとまずチャレンジしてみてからでも遅くないかもしれませんよ。
《椎名あつ子先生》
Profile
2000年「横浜心理ケアセンター」設立。
1対1のカウンセリングのほか、夫婦カウンセリング、また複数でのファミリーカウンセリングにも対応。
モラハラやDV、職場ストレス、子ども・大人の発達障害の相談にも多数の実績がある。
医療や法律の専門家との連携をしている。著書に『ゆがんだ愛 それから』(ギャラクシーブックス)がある。