子どもの口答えは、「1人の人間として成長してきた証拠」
アドバイスをしたら口ごたえ、注意をしたら面倒がられる。ときには「ウザい」「うっとうしい」と言われることも。
あぁ、素直で可愛かったわが子はどこへいってしまったの……。
毎日の子どもとのやり取りのなかで、こんなふうに感じている方もいるかもしれません。
鴻上さんは、近著『親の期待に応えなくていい』のなかで、親は子どもにとって一番身近な「他者」であるとして、子どもの成長を「他者度」という言葉で表現しています。
赤ん坊の頃は、自立度0と言いましたが、他者の割合、つまり他者度も0です。
赤ん坊にとって、親は他者ではありません。小学生になっても、ノンキな人の場合は、まだ他者度0でしょう。
多くの人は小学校高学年から中学ぐらいで「親がうざい」とか「親がうっとおしい」と感じ始めます。
「他者」とは、「受け入れるのは難しいけれど、受け入れなければならない人」であり、同時に「受け入れたいけれど、受け入れたくない人」だと鴻上さん。門限や友人関係を口出しする親は、子どもにとっては「他者」。親の言動がうっとうしいと感じるのは、「子どもが一人の人間として成長してきた証拠」だというわけです。
子育てとは、「子どもを健康的に自立させる」こと
子どもの成長は喜ばしいものの、わが子の言動を「反抗的」と感じることもあるでしょう。鴻上さんも、「特に母親は子供が他者度0だった記憶が強く残っていますから(中略)なかなか、子供が『他者』になっていくことを受け入れられません」と親の気持ちに寄り添います。そのうえで、次のようなメッセージも記しています。
まだ「他者」としての強さを持ってないのに、思いつきでいろんなことを言う時もあるでしょう。「反抗期」は他者になろうとする準備運動期間です。
親の言うことを「全部受け入れる」という時期の後、「全部受け入れない」という時期と「やっぱり受け入れる」という時期を繰り返しながら、子供はゆっくりと自我を育て、他者になっていくのです。
それを見極め、後押しするのが親の仕事です。
鴻上さんが考える「親子関係の最終的な目標」は、子どもが「健康的に自立すること」。
なぜなら、「『ずっと親に頼ってきて、自分一人では何も決められない』という子供を残して親が死んでしまうことほど悲劇はない」からです。そして、子どもが自分の頭で考えて、判断できるようになるためには、「安易な押しつけを選ばず、うんうんと試行錯誤しながら、つきあっていくこと」が親の仕事だと鴻上さんは語ります。
子どもに「遠まわしの命令」をしていませんか?
鴻上さんが同著のなかで警笛を鳴らすのが、親から子への「遠回しの命令」です。
たとえばわが子がテストで低い点をとったとき、あなたはどんな反応をしますか?
「もっと勉強しなさい!」と怒りますか?
それとも、何も言わずに悲しい顔をしますか?
言葉ではなく、表情や態度で自分の意思を伝えて、子どもをコントロールすること。それが「遠回しの命令」であり、親が示す「同調圧力」だと鴻上さんは解説します。そして、こうした無言の命令は、直接言う以上に子どもを傷つける可能性があるのだと続けます。
母親は強力な「同調圧力」の持ち主なのです。
直接言うのはやめよう、それは子供のプレッシャーになると思って、でも、黙って嫌な顔や哀しい顔を子供に見せていたら、子供はやっぱり、親の期待に振り回されると思います。
親にとっては耳の痛くなるアドバイスです。それでも、NG行動を知っていれば、親子関係の悪化を避けることができるかもしれません。
「健康的に自立」させるためには、「他者」になりつつある子どもとうまくつきあうしかない、と鴻上さん。トライアンドエラーを繰り返しながら、その家その家のいい「落としどころ」を見つけられるといいですね。
教えてくれたのは:鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)さん
作家・演出家。1987年「朝日のような夕日をつれて」で紀伊国屋演劇賞ほか様々な賞を受賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。映画監督、小説家、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティなどとしても幅広く活動。『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる』『同調圧力』など著書多数。
もっと知りたい方は『親の期待に応えなくていい』
『親の期待に応えなくていい』(小学館)
著者:鴻上尚史
定価:968円(税込み)
「親の期待」に苦しめられている人だけでなく、「親の期待」をつい押しつけてしまうことに苦しんでいる親も必読の一冊。