映画「チョコレートな人々」とは…
この映画は愛知県豊橋市にある「久遠(くおん)チョコレート」を舞台にしたドキュメンタリー。「代表の夏目浩次さんを軸とした群像劇を撮りたかった。」と鈴木監督は語ります。
──映画の冒頭でさまざまな作業の様子と人物がサラッと登場しますが、そのシーンやセリフがチョコレート的に言うと、とてもまろやかで口当たりが良く(笑)見ている側には、これからのストーリーを捉えやすかったです。
鈴木監督:「失敗してもやり直せる」「多様な方々が働く職場」のリアルを撮りたかったので、久遠チョコレートを一番表現できる人のストーリーを追いました。豊橋工場でチョコレートの飾りつけを担当する手先の器用な匹田さんや、パウダーラボで活動する荒木さん、以前パン屋で働いていた美香さんがそうですね。
久遠チョコレートのこと
従業員のうち6割は心や体に障がいがあったり、子育てや介護中、シングルペアレント、セクシュアルマイノリティ、引きこもりの悩みを抱えた若者など、多様な人たち。久遠チョコレートの代名詞でもあるピュアチョコレート「テリーヌ」は、日本全国の食材を使った季節・地域限定品を含めて150種にも及んでいる。2016年5月に豊橋本店を、2021年7月には重度の障がいがある人たちが活動する場としてパウダーラボを立ち上げた。鈴木監督から名前が出た荒木さんはここでチョコレート製造の一端を担っている。
パウダーラボで働くバディさんたち
──久遠チョコレートに取材に行くことになりました。代表の夏目さんにもお話を伺ってきます。
鈴木監督:ぜひパウダーラボを見てきてください。映画でいうと荒木さんが働いている場所ですね。不思議な風が吹いています。僕はここが1番好きですね。夏目さんは破天荒だけど仕事にはガッツリ取り組む人。酔っぱらったりふざけたりもするノリのいいお兄ちゃんみたいですけど(笑)とにかく、とことん優しい。多くのスタッフの細かな事情までを把握して心を砕いています。半面納得できない事は放っておけない頑固さもあって「おかしいことは変えて行けばいいじゃん!」と言いながらどんどん実践していくバイタリティのある人ですね。
パウダーラボで働く人たちは「バディ」さんと呼ばれ、それぞれが茶葉を石臼で挽いたり、箱を組み立てるなどの作業をしている。今までは粉末になった抹茶や組み立てられた箱を業者から購入していたが、その業務をバディさんの活躍で賄えるようになった。パウダーラボの紹介文には自信に満ちた「月給5万円以上をコミットするQUON chocolate パウダーラボ」という1文がある。夏目さんの言う「おかしいこと」とは、福祉作業所などでの1ヵ月の賃金が数千円という現状のこと。その壁をぶち破り、久遠チョコレートで大切な業務を担う荒木さんたちバディさんの自立への道筋を確かなものにしている。
バディさんやご家族との信頼関係
──映画ではバディさんの家での生活の様子の映像もあり、ご家族も登場されていますね。鈴木監督が、長い時間久遠チョコレートに寄り添っておられ、バディさんやそのご家族とも信頼関係を築かれている様子がよく伝わりました。半面、美香さんの場面では「きれいごとではないリアル」なすれ違いが少し切ないですね。
鈴木監督:長く交流をしていることで、「変な人ではないな。」と思ってもらえていたようで(笑)楽に撮影をすることができました。ただ今までも地元のローカルニュースなどで久遠チョコレートの活動が放映され、ご家族のコメントが流れると、心無い言葉を浴びせられることなどが実際にあったので、映画になってより多くの人が見ることで、悪口やひがみの言葉がかけられる可能性があることは充分に説明させてもらいました。そんなリスクがありながらも「久遠チョコレートの取り組みが今後広がって行けば、障がい者雇用に大きな変化を起こすことができる。」と、映像を公開することの意味を説明したところ、ご家族の理解を得ることができました。社会にいい影響を与えたい!という思いを共有しています。
美香さんの場面は、お互いわだかまりがあっても、もうちょっと近づきたい、でもうまくいかない…という、ちょっと初恋のすれ違いのようなシーンでしたね。
ドキュメンタリーを撮るということ
──「チョコレートな人々」は102分の映画ですが、カメラを回したのは実際にどれくらいの時間でしょうか?
鈴木監督:もうわからないくらい撮りました(笑)。おそらく200時間以上を102分にまとめていると思います。パン屋の時代に撮り始めた頃は業務用テープでしたし(笑)記憶媒体もこの間に変化しました。映画化にあたり、本格的に週3、4日通って撮影するようになったのは2020年10月です。
──では撮りためた映像を映画にするにあたっては、どんな手順で編集されていくんでしょう?
膨大な映像を、撮影後2、3日遅れでベテラン中のベテランである編集の奥田繁さんが映像をテキストに起こしてくれるんです。このシーンでは誰がどんなことをして何をしゃべったか、など細かく書き留めてくれます。奥田さんは映像から、映画全体の見せ方やストーリーの込み方を発想できる先輩なので、もうテキストを起こしている時点で、本筋がだいたいできていたりするんですね。そのあとにどこに焦点を置くか、ふたりで話し合いながら作業を進めます。そこに現場に出ている僕にしかわからない雰囲気、事情などを後からコメントやシーンを挿入して深く作り込んでいきます。
伝えたいこと
鈴木監督:小中学生のころは、夏目さんも映画で言っているように、普通にクラスにハンディキャップを持つ子がいて、共生していたはずが、大人になるとハンディキャップのある人は、働く場所が限られてしまい、賃金はとても自立などできない金額しかありません。パウダーラボのように、仕事の内容を細分化して、さまざまな作業を分担すれば、そう難しくない仕事を作ることができる。このことをこの映画で世間の人に、まずは知ってもらいたい、と思っています。作品として楽しんで見てもらいたい気持ちももちろんありますが、障害があっても色んな就業は可能だし、力を付けていくこともできる、ということをわかっていただきたいと強く思っています。
お話を伺ったのは…鈴木祐司監督
1973年生まれ。愛知学院大学文学部卒業、98年東海テレビプロダクション入社、報道部遊軍記者から、岐阜支社担当、ニュースデスクなど。主な作品は「あきないの人々~夏・花園商店街~」(04)公共キャンペーン・スポット「震災から3年~伝えつづける~」〔取材〕で、第52回ギャラクシー賞CM部門大賞、2014年ACC賞ゴールド賞。「チョコレートな人々」(21・日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ)、「#職場の作り方」(22)
『チョコレートな人々』(C)東海テレビ放送
2023年1月2日(月)より〔東京〕ポレポレ東中野、
〔愛知〕名古屋シネマテーク、ユナイテッド・シネマ豊橋18、
〔大阪〕第七藝術劇場、〔福岡〕KBCシネマ ほか全国順次公開
ナレーション:宮本信子
プロデューサー:阿武野勝彦
音楽:本多俊之
音楽プロデューサー:岡田こずえ
撮影:中根芳樹 板谷達男
音声:横山勝
音響効果:久保田吉根 宿野祐
編集:奥田繁
監督:鈴木祐司
製作・配給:東海テレビ
配給協力:東風
2022年/102分/日本/ドキュメンタリー
◎公式WEBサイト
WEBサイト: https://tokaidoc.com/choco/
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