“自分の気持ちを押し殺してしまうクセがある人”が自分の気持ちに気づく「感情日記」のすすめ

家族・人間関係

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2024.06.15

精神科医の最上悠先生によると、子どもを育てる上で「子どもの気持ちや本音をしっかりと聴き共感することは、子どもの感情を育むために大事なこと」であることがわかりました。ただ、これまで自分の気持ちを我慢してきたことが多かった人にとって、それは簡単なことではないようです。最上先生の取材3回目の今回は、そんな人におすすめな「感情日記」について詳しくお話を聞きました。

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お話を聞いたのは……最上悠先生

最上先生

精神科医、医学博士。思春期や青年期のうつや不安、依存などに多くの治療経験をもつ。英国家族療法の我が国初の公認指導者資格取得など、薬だけではない最先端のエビデンス精神療法家としても活躍。著書は『日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』(CCCメディアハウス)ほか多数。

書影

『8050 親の「傾聴」が子どもを救う』
著者:最上悠
定価:1,650円(税込)

本音に気づくために「感情日記」を書いてみる

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――子どもを育てる上で、子どもに傾聴・共感することがとても大切だと伺いました。

とても大切です。ただ、自らも本音に蓋をして生きてきたという親御さんの中には、子どもに傾聴や共感をしましょうと言われても、「どう聞けばいいのかわからない」「聞いているとイライラしてストレスを感じる」という方が少なくありません。子ほど繊細ではなかったために問題化しなかっただけで、親御さん自身も感情不全(本音の気持ちを押し殺し、感情の感度低下が生じること)を抱えているというケースも多いのです。向き合うことを避けてきた一次感情(悲しみや不安、怒りなどの本音の感情)を感じることは、強い不快感や苦痛感が生じます。そのため、「甘ったれるな」「いい加減にしなさい」と自らを守るためにお子さんに問題を押しかぶせることで、大事なことが解決されずに先送りされたまま、時間ばかりが経過するということも見られるのです。

――自身の感情を理解するために、できることはありますか?

心の健康度が高ければ、マインドフルネスやヨガといった瞑想を通じて自らの感情に気づきを深めるというのも有効な方法です。一方で、かたく鍵がかかったように押し殺してきた一次感情の蓋があかず、瞑想するとかえってつらくなる方も実は少なくありません。その場合は、セルフではなく信頼できる周囲の方やプロのカウンセラーさんなどに丁寧に話を聴いてもらうことも効果的です。人は深い感情を感じるには誰かに共感してもらうことが不可欠な動物なのです。

とは言ってもいつも誰かに聴いてもらうのは難しいという方には、もうひとつの方法として私の造語ですが「感情日記」というアプローチがあります。「一次感情を書いて表現する」いうのは瞑想よりも少し距離を置いて感じているのと一緒ですから、より自分の一次感情を認識しやすいのです。手書きでも、タイピングでも効果は変わらないという研究もあるので、自分が本音を表現しやすければどちらでもOKです。

――書いて認識することでどのような効果がありますか?

よほど強く自らの感情を押し殺してきた方でなければ、専門的なカウンセリングを受けなくても一次感情を認識できるだけで何かしらのポジティブな変化を感じられると思います。書いている最中には一時的に強い苦痛を感じていても、その後に肩の力が抜けたような心の軽さを感じられると話される方が多い印象です。ただ、あまりにも苦しくなる場合には、くれぐれも無理はなさらないでください。

親の傾聴・共感には究極の力がある

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――子どものためにも、親が傾聴・共感力を上げていくというのはとても有効的ですね。

お子さんの先に見通しが立たないと、親は相当しんどさを感じるものです。先の見えない不安な状況に親の方が耐えられず、聞かれもしないうちから、ついつい先回りして「解釈」や「助言」で話を断ち切ってしまうこともよく見られます。

これは専門的には、「不確実性への耐性が低い」と呼ばれ、先の見えない状況に親の方が耐えられず、とりあえず何か言うことで親自身の不安や苛々の払拭が優先されがちです。逆にそういう時こそ、親も自らに沸き起こる不快さとの共存を意識し、すぐに結論は出さず、葛藤するお子さんの心に寄り添いたいものです。そういった親の傾聴・共感には、お子さんの心の成長をお子さん自らのペースで育ませる力があり、子どもの感情不全を防ぎ、また回復させるためにこれ以上のものはないとすら、私自身は経験的に感じています。

もちろん、親だけですべてを解決すべきなどと言うつもりはなく、支えてくださる多くの方の力を借りていただきたいのですが、親の傾聴・共感がその軸にあることは非常に大きな力を発揮すると思います。

子どもはみんな親が大好き

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――最後に、この記事を読んでいる読者へメッセージをお願いします。

お子さんがいろいろな問題を抱えていたとしても、「親がみんな悪いのか」といった罪悪感だけは持っていただきたくはないし、そういう考え方は間違いだとも思っています。不登校やひきこもりになると「お前のせいだ」とお子さんに責められたり、自分を責めたりする方もいらっしゃいます。でも、どんな親御さんも一生懸命に子育てをやっていらっしゃると思います。

たまたまお子さんが親を超える繊細さを持っていたことが盲点であっただけで、親も全能ではないのだからと真摯に受け止めたいものです。それよりも、気づけたことがあるならならば今からでも遅過ぎることはないので、自分のできる行動を一歩踏み出してください。どんな子も、とくに繊細なお子さんであればなおさら、みんな親が大好きなのです。親を深く愛しているからこそ、親に話を聴いてもらえないことが残念だし、悲しいし、傷つくことがあるということなのです。

まずは、子どもの本音である一次感情を大事にしてあげてください。頭ごなしに決めつけたり、親が正しいという意識で助言するのではなく、子どもの本音の部分をゆっくりしっかり聞いてあげる。子どもが感じていることに共感してあげる。少しずつでも良いので、お子さんが一次感情を出せる環境を作ってあげてみてください。でもそれが辛くてできない場合は、まず先にご自身が抑え込んできた一次感情を理解し認識してみてください。

傾聴・共感で本当に子どもの問題がよくなるのかと半信半疑な方もいるかもしれませんが、たとえそれで問題が何一つ改善しなかったとしても、お子さんが一人で悩み苦しんでいる心の内を親が理解してあげられるだけでも十分な価値はあると言えるのではないでしょうか。でも、安心してください。それが本当にできたのならば、生じている問題は今よりも必ずいい方向に向かうということは、私自身が臨床の場で多くの患者さんから日々教えられていることなのですから。

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精神科医として、ひきこもりやうつ、不安、依存症などの患者さんと接する中で、そうなった原因にもその症状の改善にも、親子関係の影響が大きいと話す最上先生。親はみんな子どものために一生懸命であることを理解した上で、最も有効的に問題を解決することができる方法として、「傾聴と共感」についてのお話をしてくだいました。先生がおすすめする「感情日記」は自分の本音を認識するのにいい方法とのこと。自分の中にある傷を癒すきっかけにもなり、子どもとの関係も何かしらの変化を感じることができるかもしれません。

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