イカリソースは創業125年!
今年で創業125年を誇るイカリソース株式会社の西宮工場は、阪神甲子園駅からバスで20分ほどの鳴尾浜にあります。この地で長く商品の製造をされているそうですが、阪神淡路大震災の時には被害を受けた経験も。幸い工場の機械類が大きく壊れる、といったことは無かったそうですが、それでも通常の製造が行われるまではしばらく時間がかかったとのこと。
社名の由来は、命を救った錨綱
ところで、社名、社章となっている「イカリ」ですが、この由来をお聞きすると意外な心あたたまるストーリーがありました。
時は…125年以上の昔ですから明治時代のこと、旧創業者が乗っていた船が中国で船火事を起こした際に、自身の救命袋を妻子ある友人に譲り、避難する為海中へ飛び込んだ際、救命ランチの錨綱につかまって九死に一生を得たことから、命を救った錨綱に対する感謝の気持ちを忘れないように、ソースの商品名を「錨印ソース」とし、商品に錨をかたどったシンボルマーク「イカリマーク」をつけた事が由来だそうです。
まさにタイタニックのような命の危機を実感する状況で、妻子ある仲間に救助袋を譲る、という行動は、誰にでも真似できるようなことではありません。こんなお話をお聞きすると、日ごろ信心など全くしていない私でも「神様、仏様はいるんだなぁ」と感じます。
違う商品を同じラインで作ります。
そんな愛と勇気に満ちた物語がイカリのマークには隠されていたことに驚きながら、工場の説明をお聞きしていると、西宮工場ではウスターソースの他にもとんかつソースなど他のソース類も製造されていて、日によって製造する商品が異なるとのこと。…ということは、広大な工場内にある機械類を全て1度洗浄して、また別の材料を使って別の商品を作るの?と、主婦目線で「洗い物」の心配をしてしまいましたが、みなさん涼しい顔で「そうです。」とひとこと。製造以前に、その洗浄の面倒くささに共感してしまいましたが、はい、そろそろ見学へ向かいます。
おいしさは、安心、安全、そして正確さの中で培われる
ヘアキャップに白衣、そして足元は白い長靴を履いて、いざ工場内へ!手洗いや消毒についてはコロナ禍で一般にもその習慣は行き渡りましたが、食品工場内のその基準は想像を超えていました。手の消毒をするための時間をタイマーで測定したり、コロコロで髪やほこりを取り、さらにエアシャワーで白衣の上の細かいゴミも取り除きます。やはりプロの考える「清潔」は、1つ、2つ上を行くものでした。
やっぱりワクワク工場見学
ここにに並ぶドラム缶やうずたかく積まれた大きな袋はウスターソースの原料となるものたちです。ちらりと拝見するとトマトペーストや塩、砂糖の文字が。スパイスに関してはひとりの方が責任をもって分量を計測し調合されていました。ちなみにスパイスに関しては企業秘密とのことで、こちらではお伝えできませんが…以前の記事で「ハンバーグやピーマンの肉詰めに下味はこれ1本でOK!」とお伝えしたとおり、肉料理にぴったりな香辛料が含まれていたことだけはお伝えしておきます。
大きな窯から湯気が出ているのが、見えるでしょうか?材料を混ぜ合わせたあと、ソースは熱を加えられ、いわゆる窯炊きという作業のあと誕生するそうです。糖類だけが加えられ、混ぜられている場所では甘いコクのある黒蜜のような香りが漂っていましたが、材料がどんどん加えられたこの写真の場面では、すでに香りは洋食屋さんのデミグラスソースのよう!この後、熟成という期間を経るとウスターソースの誕生です。
オートメーション化の中にも厳しく光る目
目まぐるしく動く工場内の機械の合間合間に、ぽつん、ぽつんと立っておられる工場スタッフの方がおられました。機械の確認をされているのかな?と思っていたところ、ラベルを貼り付ける機械の横に立っていた女性の手が、できたて!ラベル貼りたて!のウスターソースのボトルを、目にも止まらない速さでサッ!と1本ラインから取り出していました。よく見ると、少しだけラベルがズレていて、赤いセロファン部分にしわがありました。とんでもなく速いスピードで流れるボトルたちから、これを見つけ出す集中力と動体視力?に息をのみました。やはり最後は人の手、人の目。老舗の大きな工場でも、このようなきめ細かいチェック作業があることに感心すると同時に、消費者としては、このことに安心感を覚えました。
人の心が伝わる商品づくりで、これからも。
社名の由来にも、そして工場での商品づくりにも人として忘れてはいけない「あたたかみ」を感じ、とても穏やかな気持ちになった1日でした。
おいしさを継続することは、決して老舗だからといっても当たり前のことではなく、1日1日の研究や工夫、管理、そして安全への心の寄せ方から生まれるのだと実感。
この写真は、社員食堂でソースの写真を撮ろうとした直前の1コマ。突然、正面玄関にある大きなイカリのレプリカを持って現れた工場長の伊藤さん。そして、それを見て思わず微笑む企画開発部部長の上林さん。聞けばおふたりは同期入社で35年ほどの長いお付き合いとのこと。こんな息の合ったやりとりからもうかがえるように、機械ばかりの工場なのにもかかわらず、アットホームなほのぼのとした雰囲気が漂う場所でした。
これからも130年、150年とさらに続くイカリソースの歴史は、老舗としての格式だけではなく、こんな心温まる空気感のなかで紡がれてゆくのだろうなぁ…そんなことを思いながら帰路につきました。
ご協力いただいた上林さん、伊藤さん、江島谷さん、ありがとうございました!
次回はいよいよ最終回。「ついに解き明かされるか?ソーライスの謎!とオススメレシピ集」です。