“人間国宝”坂東玉三郎さん。初めて舞踊や歌舞伎を見る方への思いとコロナ禍での人とのつながりを語る。

カルチャー

 “人間国宝”坂東玉三郎さん。初めて舞踊や歌舞伎を見る方への思いとコロナ禍での人とのつながりを語る。

2022.01.31

言わずと知れた歌舞伎界の大御所であり、人間国宝の坂東玉三郎さんの記者懇親会に参加させていただきました。歌舞伎座などの大劇場だけでなく、地方の小さな会館でも思いを込めてその地に合った演目を選び、たったひとりで舞台を舞う、圧巻の公演をくりひろげられています。コロナ禍でのご自身のコンディショニング法や初めて舞台を見る方への思いを語ってくださいました。

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「和の源流」京丹後に舞い降りた羽衣

反物を見る自身がアドバイスをした反物に注がれる真剣な眼差し。

数々の神話や国生み伝説の舞台となっている京丹後は、300年を超える歴史を持つ絹織物「丹後ちりめん」の生産で国内白生地70%のシェアを誇ります。しかし、伝統産業と言えども近年の着物ばなれや、少子高齢化には勝てず、担い手不足で地域の活力が低下する、といった現象が見られていました。
そんななか、京丹後を訪れたのが坂東玉三郎さん。歌舞伎の衣裳としての丹後ちりめんの品質の良さに惹かれ、さまざまなアイデアを提供しながら新しい製品の誕生にも関わってこられました。

丹後ちりめん立体的に模様を織り上げる、繊細で美しい丹後ちりめん。

小さな街の伝統産業との縁を大切に、地元の会館で「この地にふさわしい演目を。」と、京丹後に伝わる「羽衣伝説」から演目を選び、「私と京丹後のちりめんとは切っても切れない間がら……。」と、深い思いを込めて、舞踊会を開かれます。
演目は、まずは口上。通常、口上は襲名や追善などで行われますが、地方公演などで地元のお客さまへのご挨拶、という意味合いで行われることもあり、今回は丹後ちりめんで作られた打掛についてのお話しやこの街とのご縁についてもお話しされるようです。そして3年ぶりの京丹後公演の幕が開くことを祝い「老松」をいつもの黒ではなく、白い衣裳で踊られるとのこと。最後には京丹後の羽衣伝説にちなみ「羽衣」を踊られます。

仕事で汗をかくことが心の支えに

丹後ちりめんと美しい色味の反物と並ぶ玉三郎さん。
こちらの色味を監修されたのだとか。

そんな歌舞伎界、いや日本が誇る大スターの玉三郎さんに、恐れ多くも質問をさせていただきました。

──普段は、公演の合間に海外旅行などをされてリフレッシュされていたと伺っていましたが、コロナ禍では外出もままならない日々が続いています。どのような方法でリフレッシュされていたのでしょうか?

坂東玉三郎さん:今、気分転換がとてもむずかしいと感じています。3日に1回くらい「将来どうなるのか、うまくいかなくなるんじゃないか」と思うことがあります。ところが、幕があがると気持ちがふるい立って血が廻り、汗もかきます。帰ってきたときに「何を落ち込んでいたのか?」と思うんです。やはり自分の仕事で血が廻り汗をかくことが1番いいことだと思います。でも、この時期、思うように仕事ができない方もたくさんいらっしゃることを思うと……とても大変なことだと思いますね。

目が合うと魂が通う。 通信では情報しか通じない。

さくひんについて作品や当日の衣裳について語る玉三郎さん。
この日のお召し物も丹後ちりめんとのこと。

坂東玉三郎さん:あとは、電話で親しい人と言いたいことを言い合っていますね。「はい、今のは戯言(ざれごと)、愚痴でした。」と言って切ってしまえば、おしまいという風にね。
でも、人間同士が会わないと乗り越えてゆけないことはたくさんあると思います。例えばチラッと目が合っただけでも魂の交感ができると思うんです。ダイオード(通信)を通してしまうと、これはできない。デティール……情報を伝えることにしかならないんです。

時間と空間を共有する以外は僕にはないです。

正面やわらかな口調で強い決意を語る…
「情報では得られない何かを得られる、直接伝えあえるものが舞台です。」

──SNSで発信されている歌舞伎役者さんが増えて、まだ歌舞伎や舞踊を見たことの無い方にも興味が広がっている昨今ですが、初めて見る方に伝えたいことはありますか?

坂東玉三郎さん:それは……あなたが考えて書いてください(笑)。

──……そうですね、すみません(汗)。

坂東玉三郎さん:初めて見る方に、そうですね……色んな通信網がありますけど、僕は一切しないんです。やはり、劇場で実際に時間と空間を共有する以外は僕にはないです。でもパソコンを開けば京丹後で何をしているか、羽衣、老松は何か……はすぐに調べられますよね。そういう情報では得られない何かを得られる、直接伝えあえるものが舞台です。劇場に来ていただければ、何かを感じ取っていただけるように毎回精一杯努めています。直接会って舞台を見ていただくことで、生きていきたいと思っています。酷いものはお見せしませんから(笑)。

時折「そうね……」と、じっくり考えながら、穏やかな口調で丁寧に答えてくださる姿に感激しました。チラチラとユーモアを交えながら、独特の心地よい間合いの語り口に、その場にいた全員が呼吸を合わせ、とてもあたたかで心が和む懇親会でした。

お話を伺ったのは…坂東玉三郎さん

プロフィール公演中の舞台を見に来るお客さまに「ご無事でお帰り下さい。」
との思いでいっぱい…と語る玉三郎さん。
コロナ禍に公演を続ける厳しさを感じながらも
「コロナだから…というのではなくて、いつも最高のものをお見せしたい。」
と、言葉に力を込められました。

五代目 坂東玉三郎(ごだいめ ばんどう たまさぶろう、1950年〈昭和25年〉4月25日 - )は、日本の歌舞伎役者。本名は守田 伸一。
2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』に正親町天皇役でドラマ初出演。「(主演の)長谷川博己君の父(建築史家の長谷川堯、2019年逝去)と昔からの知己で、博己君から大河ドラマの主演を報告されたので『じゃ、ワンシーンだけでも出た方がいいかも』みたいな話をしたら、このような形に。」とのこと。

坂東玉三郎京丹後特別舞踊公演

チケット丹後ちりめん製の公演チケットには、2種の模様がある。
…掲載内容は2年前の公演(中止)のもの。

■出演:坂東玉三郎
■日程:2022年5月3日(火)14:00~/5月4日(水)14:00~ 計2回公演
■演目 一、お目見得、口上  二、老松  三、羽衣
■観劇料:S=18,000円  A=12,000円
■問い合わせ先:坂東玉三郎京丹後公演実行委員会(公演事務局) 
        京都府丹後文化会館 電話0772-62-5200(平日9:00~17:00)

■京丹後の観光についてのお問い合わせ先
海の京都DMO 電話0772-68-1355(平日9:00~17:00)FAX0772-68-5056

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著者

みやむらけいこ

みやむらけいこ

ライター歴20年。「あなたに逢いに行きます」取材ではなく出会い、インタビューではなく会話。わかりやすい言葉で丁寧に「ひと」を伝えます。好きなものは、サーフィンと歌舞伎、主食はチョコレート。#人生はチョコレート

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