教えてくれたのは……樋口 桂先生
文京学院大学保健医療技術学部 教授 医学博士
専門分野は人体解剖学、解剖学教育、学校保健教育、高大接続教育、視覚障害者への医学教育。日本テレビ「世界一受けたい授業」、テレビ朝日「ガリベンガーV」などテレビ番組でも活躍中。著書『カラダのふしぎ カラダのしくみ』(東山書房)は、カラダに関する身近な疑問を楽しく学べる一冊。
ヒトが発汗する3つの場面
樋口桂先生によると、人が汗をかく場面には、主に以下の3つがあるのだといいます。
- 暑いとき
- 辛いものを食べたとき
- 緊張したとき
汗に体温調節の役割があることは、よく知られていますよね。樋口先生の著書『カラダのふしぎ カラダのしくみ』によると、こうした体温調節のためにかく汗は、額や胴体から出ることが多く、手のひらと足裏ではあまり起こらないのだそうです。
一方、緊張したときに起こる発汗は“精神性発汗”と呼ばれ、「手のひらと足の裏だけに現れます」と樋口先生。
緊張したときの汗は、なぜ手のひらや足の裏だけに現れるのでしょうか?
緊張したときの発汗が手足だけに起こる理由
樋口先生によると、手のひら・足裏の指紋の凸部には、汗の出口である「汗孔(かんこう)」が多数並んでいて、発汗を積極的に行う「能動汗腺」が、体表のなかで最も高密度に分布しているのだそうです。
そして、手のひらや足の裏に汗をかくことで、指紋の表面を適度に濡らして、手足の滑り止めとして役立っていると考えられるのだそうです。
「ヒトは樹上生活をしていた霊長類(サルの仲間)の一種です。緊張したときに出る汗は、もともと樹上で枝から枝へ跳び移るときなど緊張の一瞬に手足が滑らないようになっていた名残でしょう」(樋口先生)
ちなみに、犬や猫の足の肉球にも汗腺があり、緊張すると肉球に汗をかくのだそう。肉球が汗で湿って滑り止めとなることで、細い壁の上を歩くときなどに役立っているのだそうです。
緊張したとき手のひらに汗をかくのは、かつて霊長類が樹上で生活していたときの記憶に基づいているのですね! どうしようもなくドキドキして、緊張してしまったとき、自分のルーツに思いを馳せると、ちょっとだけ平常心に戻れるかもしれませんよ!