教えてくれたのは……樋口 桂先生
文京学院大学保健医療技術学部 教授 医学博士
専門分野は人体解剖学、解剖学教育、学校保健教育、高大接続教育、視覚障害者への医学教育。日本テレビ「世界一受けたい授業」、テレビ朝日「ガリベンガーV」などテレビ番組でも活躍中。著書『カラダのふしぎ カラダのしくみ』(東山書房)は、カラダに関する身近な疑問を楽しく学べる一冊。
「これを食べたい!」という思いが脳から指令を出す
満腹になるまで食べたあと、おいしそうなデザートを目にして思わず注文。「甘いものは別腹だから…」と自分に言い訳してしまうことってありますよね。つい先ほどまであんなに満腹だったのに、実際食べ始めてみると意外とあっさり食べられることも、思い返せば不思議なものです。
「好物を見ると、『食べたい!』という気になるのは自然なことです」とおっしゃるのは、“解剖学のスペシャリスト”樋口桂先生。
樋口先生によると、好きな食べ物を見ると、「これを食べたい!」という要求が大脳から視床下部の摂食中枢に作用して、「オレキシン」という物質が分泌されます。
この「オレキシン」という物質が、「別腹」に大きく関わっているのです。
「別腹」の正体とは?
「オレキシン」の詳細については、現在も解明が進められていますが、
- 胃の下部から小腸に対して、蠕動運動をうながす
- 胃の上部に対して、胃壁を弛緩させるように作用して、胃を膨らませる
という2つのはたらきがあると、樋口先生は著書『カラダのふしぎ カラダのしくみ』で紹介しています。
つまり、オレキシンの作用によって、胃に残っていた内容物が小腸へと速いペースで送られ、同時に胃の上部がわずかに広がるわけです。こうして、満タンだった胃にちょっとしたスペース、いわゆる“別腹”ができるのです。
別腹は「生き残るためのシステム」だった!
こうしたからだの仕組みは、私たちの祖先が食べ物が十分にない飢餓の環境で生活することが多かったことに関係していると、樋口先生。「生き残るためのシステム」のひとつとして、自然に備わったのではないかと樋口先生は推察しています。
とはいえ、飽食の時代となったいま、この「別腹」を頼りにしていると、肥満や生活習慣病を招く原因にもなってしまうことも。
「いくら“別腹”の機能が備わっているからといって、“食べ過ぎ”は健康に良くありません。健康の維持には、『よく噛み、ゆっくり食べる』ことと『腹八分目』を心がけたいものです」と樋口先生。もうひと口、もうひと皿をオーダーする前に、このことを思い出してみましょう!