お話を伺ったのは……高尾美穂先生
産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、ヨガ指導者。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポートしている。『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)が発売中。
『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』
著者:高尾 美穂
価格:1,760円(税込)
更年期とは、閉経をはさんだ前後5年間の「時期」のこと
——人間の一生には「思春期」や「成長期」など、「〇〇期」という表現がつきものですが、40代女性の皆さんに関係する「更年期」について教えてください。まずは更年期とはいつ、どんな症状があらわれるのでしょうか?
高尾先生:「更年期」と聞くとなんとなく身構えてしまう方もいるかもしれませんが、閉経をはさんだ前後5年間の「時期」のことなので誰もが迎えます。ですから、更年期がいつからはじまるのか、ということは閉経を迎えない限りわかりません。時期が後付けになっているので、「今」不調を感じている人にとっては、これが更年期によるものなのかどうかはわからず、不安だと思います。
——更年期とは閉経を迎えてはじめてわかることなのですね。では一般的に聞く、体のほてりやイライラ、疲れなどがあらわれはじめたら更年期かもしれないと疑っていいということでしょうか。
高尾先生:そうですね、40代に入って生理の変化を感じるなかで不調を感じたら、更年期のはじまりかもしれないなと疑ってもいいでしょう。
更年期の体の不調は多く見積もって300種類ほどあるといわれています。自覚する代表的な更年期症状は、ほてり、のぼせ、多汗、不眠、イライラ、落ち込み、肩こり、疲れ、冷えなどです。多くの女性が体の変化を感じる可能性がありますが、自覚する人は全体の6割とされています。そして更年期症状がひどくて、日常生活に支障が出る場合を「更年期障害」と言います。
更年期症状で困るのは全体の3割程度
——「更年期障害」と診断されるのはどういう状態をいうのでしょうか。
高尾先生:更年期に起こるさまざまな症状のことを更年期症状といいます。この更年期症状がひどく、本人が日常生活を送るのに困る状態が、更年期障害です。たとえば、症状がひどくて起き上がれない、イライラして家庭内のトラブルが絶えない、うつ状態でひどくふさぎ込んでしまうなどの場合ですね。ただ、更年期障害と診断するためには、似たような症状を引き起こす他の病気ではないかを確認することも必要です。
——実際に更年期障害で困る女性は多いのでしょうか?
高尾先生:データによると、全体の3割弱の女性が更年期症状で困るといわれていますが、逆に言えば、そこまで困らない人のほうが多いとも言えるわけです。ですから、更年期は誰にでも訪れるものと思って、その時期を過ごしていただきたいです。
そしてもう一つ大事なことは、辛い場合は医療機関をきちんと受診していただくことです。何もせずに我慢する必要はありません。治療法はあるということを知ってほしいです。
「更年期障害」は治療できる!
——更年期障害の治療とは、一般的にどのようなことを行うのでしょうか?
高尾先生:更年期の不調は女性ホルモンであるエストロゲンが関係しています。エストロゲンは肌や髪のツヤを保ったり、骨や血管を丈夫に保ったり、自律神経の働きを整えたりしてくれます。しかし35歳ごろから徐々に減っていき、40代になると急激に減少し、更年期を迎えます。
更年期症状が辛い場合の治療法の一つとして、足りなくなったエストロゲンを足す治療法があります。それがホルモン補充療法(HRT)です。効果の現れ方は個人差もありますが、複数の症状が改善することも多く、生活の質が高まります。乳がん経験者や治療中の人など、場合によってはHRTが受けられない人もいるので、まずは婦人科の先生に相談してくださいね。
――更年期は辛い症状を我慢してやり過ごすしかない、というわけではないのですね。
高尾先生:生理痛やPMSも同じように、その時期が終わればいずれはよくなるだろうと思って、どうにか我慢するという方が今までは多かったですよね。でも更年期の方が困っていて我慢している状態では診断名もつかないし治療もできないので、辛いときはもっと専門家にアクセスしてくれたらなと思います。
取材後記
お忙しい中、とても丁寧にわかりやすく取材に応じてくださった高尾先生。40歳を過ぎた筆者もじつは自分が更年期にさしかかっている状態だということを取材で知りました。知る前は更年期に対して漠然とした不安がありましたが、先生に教えていただいたことで、更年期はいつか必ず来るけれど、来た際には楽になる方法はあるということがわかり、救われました。