教えてくれたのは……福田 頌子先生
愛知医科大を卒業後、大学病院での診療をしながら、同大学にて博士号を取得。現在は愛知県尾張旭市にて「あさひの森 内科消化器クリニック」を開業。消化器病専門、消化器内視鏡専門医でありクリニックでは胃カメラ、大腸カメラも行い、「便秘下痢外来」を開設し多くの方の診療を行っている。
「黒い便」の原因
福田先生によると、便の色は病気のサインになる可能性もあるとのこと。その一つが“黒い便”の場合です。黒い便が出ると、どのような病気が隠れている可能性があるのでしょうか。
福田先生「便が黒い=食道や胃から出血をしている可能性が考えられます。
なぜ場所が特定できるかというと、出血した血の中に存在するヘモグロビンというたんぱく質が胃酸で酸化されると黒く変色するためです。大腸からの出血は胃酸の影響を受けないため、出血した血が黒く変色することはありません。
特に、ねっとりとしたイカ墨のような泥状の黒色の便は「タール便」と呼ばれ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌、食道静脈瘤の破裂、重症な逆流性食道炎などが考えられます。
心配のいらないケースでいうと、貧血のために飲んでいる鉄分の薬やイカ墨料理を食べた場合にも黒色便が出ることがあります。便の色がおかしいと感じた場合は、口にしたものを振り返ることも大切です」
黒い便が出ているときに考えられる病気の特徴
上記に挙がった病気の症状や原因についても教えていただきました。
黒い便が出る以外にも前兆があるとのことなので、いざというときに慌てずに対処できるように知っておくとよいですよ。
胃・二指腸潰瘍
症状:胃の痛み、食欲不振など。
福田先生「ストレス、喫煙やアルコール、ピロリ菌の感染、痛み止めの薬の多用などが原因になることが多く、胃酸によって粘膜が深く傷つくことによってできます。
ピロリ菌は、子どもの頃に家族から唾液を介して感染している可能性があるため、家族でピロリ菌に感染している方がいる場合は注意が必要です。偏頭痛や生理痛、腰痛などで痛み止めを連日飲んでいる場合は特に注意しましょう」
逆流性食道炎
症状:胃酸があがってくる感じ、げっぷ、口が酸っぱい、みぞおちの不快感など。
福田先生「胃酸が食道へ逆流して食道の粘膜に炎症を引き起こします。脂っこい食べ物やアルコール、カフェイン(コーヒー、緑茶、エナジードリンク)などの摂取で胃酸の分泌が促進され、逆流性食道炎が悪化します」
食道静脈瘤破裂
症状:ふらつきや血圧低下が認められ、命の危険があります。
福田先生「食道静脈瘤があるだけでは特に症状がない場合が多く、前兆もありません。しかし、肝硬変などの病気が進行すると起こる傾向があります」
受診する前にやっておくべき「もうひとつ」のこと
黒い便が出たときには、受診することに加えて「やっておくべきことがもう一つある」のだと、福田先生はおっしゃいます。
福田先生「黒い便が出たら、速やかに胃カメラが可能な消化器内科での受診をおすすめします。その際はできる限り、食事と水分はとらずに受けてください。薬でとりあえず様子を見ることは控えましょう。
また、実際の便の写真を撮影しておくこともポイントです。受診した際にスムーズな診断の材料になります。黒い便以外にも、いつもと違った便が出たときには写真で残しておくとよいと思います。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤の破裂の場合は、出血が止まらなければ命の危険にさらされる場合もあります。血液をサラサラにする薬を服用している方は、特に注意が必要です」
自己判断で「大丈夫だろう」と決めつけて放置するのは、危険なこともあります。異変を感じたときには、専門医による検査を受けるようにしましょう。