お話を伺ったのは……高尾美穂先生
産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、ヨガ指導者。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポートしている。『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)が発売中。
『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』
著者:高尾 美穂
価格:1,760円(税込)
漠然とした不安を感じたらこう考えてみて
――コロナ禍が落ち着いてきたとはいえ、今後の人生に目標がなく漠然とした将来の不安を抱えている女性は多そうです。そこで高尾先生にお伺いしたいのですが、長い人生をどのようにして前向きに過ごしていけばいいのでしょうか?
高尾美穂先生(以下、高尾先生):私のところにも連日、同じような悩みを抱えた女性が相談に来ますが、そもそもみんなが人生のゴールをしっかり設定して生きているのでしょうか? 実は多くの人がゴールなんて設定して生きていませんので、私は人生最後の日がゴールという感じでもいいと思っていますよ。
――人生設計ができていないのは自分だけでは? と不安になりますが、実はそうではないのですね。
高尾先生:中には明確に人生のゴールを設定している人もいるかもしれませんが、それはごく一部だと思います。私は、自分が死ぬときに「あぁ、いい人生だったな」と思えればそれでいいと思っています。
人間、生きている間はすべてが“途中経過”です。「コロナ禍で仕事を失った」、「夫婦仲が冷え切っていて離婚するかも」、「子どもの将来が不安でたまらない」などの悩みは尽きませんがそれも全部、途中経過。人生を終えるまで、状況は刻一刻と変わります。世の中の変化によっても人生は左右されます。私たちが努力をしてもどうしようもないことも、生きていればありますよね。
――自分の力ではどうしようもない時は、どういう心持ちで過ごせばいいのでしょうか?
高尾先生:長い人生、新型コロナウイルスの蔓延といった思わぬ出来事や天災など、自分の力では防ぎようのないことが起こりますが、それは仕方ありません。
そんな時は「私一人の力では何ともできないこともあるよね」とその時間を静かに過ごすこともひとつ。「私がもう少し努力したら現状は変わるかも」と思えるならば動いてみる。どちらかを選択するかは、そのときのあなたの心の余裕と相談すればいいのではないでしょうか。
自分だけの時間やコミュニティの場を持つことがカギ
――書籍『大丈夫だよ』の中では、更年期の過ごし方について「家庭でも仕事でもない、自分が自分らしく過ごせるコミュニティを見つけることもおすすめです」とありました。仕事や家庭以外のコミュニティを見つけることも、前向きに生きるために大切なことですか?
高尾先生: 私たちにとって家庭と並ぶのが仕事ですが、仕事はあくまでも生きていくためにお金を稼ぐ時間です。つまり、自分が楽しいなと感じる時間のために働く、という感覚の方が本来の姿に近いですよね。でも日々忙しくて、その感覚がない方が多いかもしれません。
家にいるか仕事をしている、それ以外の時間もなんとなく家で過ごすか仕事をしてしまっていることも多いと思います。だからこそ自分が楽しいと感じること、好きなことは何か、振り返ってみてください。
たとえば海外ドラマにはまっているならば、同じ俳優を応援するコミュニティに参加してみる、好きなスポーツがあれば地方に応援しに行ってみるなど、仕事以外の時間に楽しみが生まれれば、仕事に対しての考え方も変わってくると思います。
自分の好きなことのために仕事をすると考えればやる気も出て、効率よく仕事を終わらせようとするでしょう。好きなことをするために睡眠時間をしっかりとろうという考えになれば、健康的な毎日を送れます。
――家庭でも仕事でもないサードプレイスを作ることが大切なのですね。
高尾先生:そうですね。私のサードプレイスはジムです。そこでは仕事や立場、役割、肩書など関係なく、筋肉の話題や情報交換など共通の話題がある人たちと大いに盛り上がっています。その時間を作るために仕事を頑張るなど、自分のコミュニティの場があるからこそ、私も仕事を頑張れていますよ。
更年期世代の方は、家庭や仕事に多くの時間を取られているために、そういう時間を取ることが難しい方も多いのだろうと思います。
――無理矢理にでも自分の時間を作ることも1つの方法ですね。
高尾先生:そうです。自分が望む時間を過ごすことこそが、自分の人生だと思います。仕事はある日突然クビになることもあります。また私たちは、自分がいないと仕事が回らないと思いがちですが、自分がいなくても回っていくのが普通なんです。
――今後前向きに過ごすためにも、自分らしく過ごせる時間や場所を見つける大切さを改めて感じました。最後にsaitaの読者にメッセージをお願いします。
高尾先生:基本的には人生は自分が頑張ることが大前提ですが、みなさん十分に頑張っていますよね。男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから、女性も頑張ったら頑張っただけいいことがあると言われ続けてきました。そんな時代を経て、仕事もしたい、お母さんにもなりたい、子育てもしっかりしたいと頑張って生きてきましたよね。だからこの世代の女性たちは頑張りすぎているくらいです。
でも人生は何のためにあるのかと考えたら、子どものためでも仕事のためでもなく夫のためでもありません。自分が幸せだなと感じることがまず大事なんです。あなたが幸せでないと、周りの人を幸せにはできません。自分が幸せになった後は周りの人を幸せにする、ここまでできると、本当の幸せを感じられるのではないかなと思います。だからこそ、まずは自分を幸せにすることを考えてみてくださいね。