お話を伺ったのは……高尾美穂先生
産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、ヨガ指導者。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポートしている。『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)が発売中。
『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』
著者:高尾 美穂
価格:1,760円(税込)
コロナ禍により悩みを抱えた女性が増加傾向に
——先生のいるクリニックには、最近ではどんな不調やトラブルで受診される方が多いのでしょうか? 先生が感じる最近の患者さんの傾向を教えてください。
高尾先生:とくにこの数年は新型コロナウイルスの影響でメンタル面での不調を訴える方が多いですね。とくに20代後半と更年期の女性は心配です。
20代後半の独身女性の場合、私から見ると人生で一番楽しい時期では? と思いますが、悩みを聞くと仕事や人間関係のことで落ち込み、さらには結婚や妊娠についても悩みだす時期なのでかなり悲惨な状態に見えます。
更年期世代で仕事をされている女性の場合も、子育てがある中で責任のある仕事を任され、さらに健康面での不安も加わるのでこの世代もとても大変そうに見えます。
——体の不調もある中で、さらに精神的な不安を抱えている女性が増えているということですね。
高尾先生:コロナ禍以前にも女性の働き方は不安定でしたが、ここ数年のコロナ禍で、ベースにあった心配事に経済的な不安などが上乗せされ、ここ数年で不安が大きくなっている状態に見えます。
高尾先生流の悩み解決方法とは
——不安を抱える女性が増えている、ということがわかりましたが、先生はそのような患者さんに具体的にどのようなアドバイスをされるのですか?
高尾先生:患者さんの状況にもよりますが、まず私は「生活の中で具体的に困っていることを自分の中で探してみて、それを箇条書きにしてみてください」とお話しします。そして箇条書きにされた悩みを(1)自分で変えられること、(2)人が関わること、(3)手出ししようがないことの3つにグループ分けをします。
(1)の自分で変えられることは、体調が悪いときに薬などを飲んで様子を見る、睡眠環境を整えるなど、自分がアクションを起こせば変えられることですね。
(2)の人が関わることは、自分の近くにいる人に伝えることで変えられることを考えてみることです。私たちは一番近くにいる人にストレスを感じやすいものですが、例えば日頃のパートナーの心無い態度に悩んでいたら、事前に体調が悪いことなどを伝えてわかってもらう努力をしてみることで、改善していくこともあるでしょう。
(3)の手出ししようがないことは、コロナや社会情勢、天災などが関係して、自分ではどうしようもできないことですよね。
悩みをこれらの3つに分け、まずは(1)の自分で変えられることから取り組んでみませんか? とアドバイスし、1つずつ取り組んでもらいます。
——たしかに自分の不安をグループ分けして可視化することで、漠然とした気持ちを整理できそうです。
高尾先生:とはいえ、3のように解決できない心配事も中にはありますよね。それは前向きに「手放す」ことが大事です。「もっとこうしていればよかった」と振り返り後悔の念があったとしても、自分ができることは十分にやったと捉え、ときには手放すことも大事です。
——忙しそうな産婦人科医の先生に、このような内容を相談してもいいものなのでしょうか。体の不調しか相談してはいけないと思っていました。
高尾先生:いろんな考え方の先生がいらっしゃいます。すべての産婦人科医が聞いてくれるかどうかはわかりませんが、体の不調を引き起こしている原因ですから、本来であれば産婦人科医の先生に相談してもいいと思います。ただ、悩みがあるときに、自分でもこのように悩みを整理する方法があることを知っておくことも一つの手だと思いますよ。
取材後記
毎日、多くの女性の心と体の悩みを聞いている高尾先生だからこその、前向きになれるお話を聞くことができました。悩みはグループに分けて一つずつ解決させる。どうしようもない悩みは手放すことが大事。そして、多くの産婦人科医先生は女性の味方でいてくれている、ということもしっかり心に刻んでおきたいです。