教えてくれたのは……沢岻 美奈子(たくし みなこ)先生
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。女性ヘルスケア認定医。神戸にある、医療法人社団 沢岻美奈子女性医療クリニック理事長。子宮がんや乳がん検診、骨粗鬆症検診まで女性特有の病気の早期発見のための検診を行う。診療では、更年期を中心にホルモンや漢方治療だけでなく、カウンセリングや栄養療法も取り入れている。
貧血に関する「よくある相談内容と誤解」5つ
前回の記事では、「知っておきたい貧血の改善方法」について伺いました。沢岻先生によると、40代女性の貧血は、“なんとなくの不調”として見過ごされやすく、多くの誤解があるそうです。
今回は、貧血に関する患者さんからよくある相談や誤解について、5つ教えていただきました。
1.「健康診断では、貧血とは言われていません」
沢岻先生:多くの女性が、「疲れやすいのは歳のせいかな」「少しフラフラするだけ」と軽く考えがちで、慢性的な貧血に慣れてしまって自覚していない方が多い印象です。鉄欠乏性貧血は全身の酸素不足につながり、疲労感、集中力の低下、免疫力の低下、さらには心臓への負担など、全身に悪影響を及ぼします。重症化した場合、日常生活や仕事に大きな支障をきたすため、放置せずに原因をしっかりと調べて治療を受けることが大切です。
2.「鉄剤を飲んだら、すぐに治るのですよね?」
沢岻先生:確かに、鉄欠乏性貧血は鉄剤の使用によって改善が期待できますが、多くの場合は治療には数ヶ月単位の時間がかかります。鉄剤を3〜4週間でやめてしまうと、一時的に血液の数値が改善されても、体内の鉄ストック(貯蔵鉄=フェリチン)が回復せず、すぐに再発してしまいます。また、過多月経や消化管出血などを放置していては、鉄剤だけでは不十分です。貧血を引き起こしている根本的な原因になっている病気の治療を優先しましょう。
3.「食事に気をつけているのに貧血が治りません」
沢岻先生:鉄分を多く含む食品を摂っていても、吸収の悪い“非ヘム鉄”が中心だと、鉄分を効率よく摂取できなくなってしまいます。また、胃腸の不調によって、薬やサプリメントが十分吸収されないことも。鉄分だけを一生懸命に摂っても、タンパク質が不足していると、十分な効果は得られません。40代では、子宮筋腫や子宮内膜症などが原因で月経過多が起こりやすく、出血量が摂取量を上回ると、どれだけ栄養に気をつけていても追いつかないことがあります。
4.「更年期の不調と貧血の違いがわかりません」
沢岻先生:40代では、更年期症状(倦怠感、めまい、動悸、集中力低下など)と貧血の症状が非常によく似ているため、混同されやすい傾向があります。しかし、血液検査で鉄欠乏や貧血が見られると、これが症状の主な原因となっていることも少なくありません。「更年期かもしれない」と思っていた症状が、鉄不足を補充することで大きく改善する例もあります。また、シミや薄毛で皮膚科を受診している方も、実は貧血が関係している場合も考えられます。
5.「貧血は自然に治るものではないの?」
沢岻先生:慢性的な鉄欠乏性貧血は、自然に改善することはほとんどありません。特に出血が続いている場合(過多月経や消化管の問題など)は、放置すればするほど貧血は進行します。改善には、「原因の治療」+「鉄の補充」+「生活習慣の見直し」の3つが必要です。
沢岻先生は、「正しい知識を持ち、検査と治療を早めに受けることが元気に過ごすための第一歩。医師との対話を通じて、自分の体の声に耳を傾けることが大切」だと言います。これを機に、自分の体と向き合うことができたらいいですね。次回の記事では「専門家が40代女性のみなさんに伝えたいこと」をご紹介します。