教えてくれたのは……森 久仁子先生
産婦人科専門医、医学博士。大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局、同大学産婦人科学講座助教、和歌山労災病院をへて、平成25年和歌山市に森女性クリニックを開院。産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。
乳がんの早期発見のために意識すべき「4つのポイント」
前回、乳がんになるリスクが高い人の特徴と注意すべき初期症状について、ご紹介しました。
早いタイミングで胸の異変に気づくために大切になってくるのが、セルフチェックです。「早期発見のためには、日ごろから自身の乳房の状態に関心を持つことが大切」だと、森先生はおっしゃいます。
森先生「普段の自分の乳房の状態を自覚しておくことで、乳房の変化にも気がつくことができるようになります。乳房を意識した生活習慣を『ブレスト・アウェアネス』といい、啓発が勧められています。
厚生労働省の示すがん検診実施のための指針『がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針』においても、2021年10月1日の改正により、従来の『自己検診』に代えて、『ブレスト・アウェアネス』の重要性が明記されました。
下記の4つのポイントを意識し、実践しましょう。
1.自分の乳房の状態を知る。
いつもの自分の乳房の状態を理解し、覚えましょう。たとえば、自分の乳房の大きさ・硬さ・月経の前後の変化などを、日頃から確認しておくことが大事です。
2. 乳房の変化に気をつける。
『自己検診・自己触診』としてしこりを探すなど、異常を探すという意識よりも、今までの生活では記憶にない変化に気づくことが重要です。しこり・乳頭からの分泌物(血性)・乳頭や乳輪のただれ・皮膚のくぼみやひきつれなどに気をつけましょう。
3.変化に気づいたら、すぐに医師に相談する。
変化に気づいたら次回の検診を待たず、すぐに医療機関を受診することが大事です。
4.40歳になったら、2年に1回は乳がん検診を受ける。
科学的根拠のあるマンモグラフィ検診を受け、異常を指摘されたら精密検査を受けましょう」
「マンモグラフィ」と「超音波」検査の違いとは
健康診断で「マンモグラフィ検査」と「超音波検査」を選択できるようになっていることが多いと思いますが、「どちらを受けるべきなのか」「両方受けたほうがよいのか」迷ったこともあるのではないでしょうか。
2つの検査方法の違いを教えていただきました。
マンモグラフィ検査
森先生「マンモグラフィは乳房専用のレントゲン検査で、乳房を片側ずつ2枚のプラスチックの板で挟み、レントゲン撮影をすることで乳がんの疑いがあるしこりや石灰化がないかを調べます。
触診では見つかりにくい小さな病変を見つけることができ、信頼性の高い検査といわれています。しかし、乳腺が豊富にある『高濃度乳房』では判定が難しくなります。
乳房は乳腺組織と脂肪組織で構成されており、マンモグラフィ撮影では乳腺組織は白く写り、脂肪組織は黒く写るようになっています。脂肪組織がほとんどなく、乳腺組織が多い乳房を『高濃度乳房』といい、乳房が白い塊のように写し出されます。乳がんも白く写るので、がんが見えづらくなってしまうのです」
超音波検査
森先生「超音波検査は乳房の表面にゼリーを塗布し機械をあて、映し出された画像で病変の有無を調べる、痛みを伴わない検査です。放射線を使わないので、妊娠中の方も受けることができます」
マンモグラフィ検査と超音波検査の併用で「偽陰性」の可能性を低くする
また、2つの検査を併用することでメリットがあり、推奨されているのだそうです。
森先生「厚生労働省が定める乳がん検診の指針では、40歳以上の方は2年に1回のマンモグラフィ検査が推奨されています。マンモグラフィで『高濃度乳房』であれば、超音波検査を追加することで、乳がんの偽陰性が少なくなります。感度について、マンモグラフィ単独では62~85%、超音波検査単独では54~73%に対し、マンモグラフィと超音波検査の併用検診では85~94%と感度が上昇することが報告されています。
40歳未満の方は『高濃度乳房』であることが多いため、超音波検査を検診として行うことが有用と考えられていますが、超音波検査で乳がんの死亡率が低下することはまだ証明されていません。40歳未満の方も可能であれば、マンモグラフィと超音波検査を併用することが推奨されます」
「自分は大丈夫だろう」と決めつけてしまわずに、まずは「ブレスト・アウェアネス」の4つのポイントを生活習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。自身の健康のため、早期発見・早期診断・早期治療につなげられるとよいですね。