努力していると気持ち良くなり、他者に洗脳されやすくなる
本章では、この日本という国や社会とからめて、自己肯定感のあり方を探ってきました。
日本人は努力が大好きです。もちろんほかの国々でも努力の大切さは唱えられますが、日本ではまるで「努力信仰」とでもいうほどの強い傾倒がうかがえます。
農耕民族として何世代にもわたり自然災害を乗り越えてきた日本人は、みんなで協力しながら、勤勉にこつこつと道を切り開いてきました。ズルをして集団の調和を乱す者がいれば、「村八分」にして排除しました。そうした傾向を強く有する遺伝子が、現代を生きるわたしたちにも脈々と受け継がれているのです。
「結果は悪くても努力したことが大事なのだ」
そんなふうにいわれたことがある人も多いでしょう。しかしわたしは、気をつけるべきはこの「努力信仰」だと考えています。なぜなら、努力すればするほど気持ち良くなり、結果を顧みずに「つらいことに耐えてがんばったから素晴らしい」という考え方に容易に変わり、その努力は搾取(さくしゅ)されるからです。
このとき、脳では前頭葉(ぜんとうよう)の「内側前頭前野」が、「自分は良いことをしている」と判断しています。それによって報酬系が活動し、強烈な快感を生み出しているのです。
そんな「努力中毒」に陥ると、冷静な思考ができなくなって他者に洗脳されやすくなります。また、寝食がいい加減になり、睡眠不足になることでますます自分を制御できなくなり、他者にコントロールされやすくなっていく。ブラック企業や一部の新興宗教などでは、そんな罠にかかった人がたくさんいます。「がんばっているわたしは素晴らしい」と思わされているわけです。
努力自体が素晴らしいのではありません。自分が望む結果を得るために、努力することが大切なのです。
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中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。横浜市立大学、東日本国際大学などで教鞭を執る。脳科学や心理学をテーマに研究や執筆活動を行うほか、その知見を生かしてテレビや雑誌でも活躍。社会問題やビジネス、カルチャーなど、幅広い分野を、科学の視点で読み解く語り口が人気。
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