感謝祭とも呼ばれるサンクスギビングデーには、七面鳥を食べるのが伝統。家族でテーブルを囲んで食べるのが習わしだ。つまりそれは遠方に住む家族までもが一斉に集まる年に一度の一大イベントでもある。アメリカ映画でもジョディ・フォスターが監督を務めた『ホーム・フォー・ザ・ホリデー』などサンクスギビングの帰省を巡っての葛藤やいざこざが描かれた作品が数多くある。
アメリカのサンクスギビングデーは11月の第4木曜日、そこから日曜までの4日間は学校や職場が休みになる。後にアメリカの大学寮に入ったときにも、サンクスギビングに帰省するアテのない留学生や帰省する旅費を惜しむ遠方出身者のために特別なディナー会が催されていた。それくらいにアメリカ人にとってのサンクスギビングは特別な日で、その食卓の中央を飾るべき七面鳥は、家族行事が滞りなく行われることの象徴でもある。
それから10年近くが経ち、わたしも結婚した。そして日本での一大家族イベント、お正月が面倒な行事としてわが身にふりかかってきた。それぞれの実家をどういう順番で回るのか、おせち料理はどこまで作るのか、誰が作るのか。
わたしの実家では、母が「大晦日から元旦は家族と過ごすもの」との考えだったから「友だちと初詣に行きたい」なんて言える雰囲気もなく、年末年始は家で過ごすものと決まっていた。かといって29日くらいからおせち作りを頑張るほど厳密なわけでもなく、毎年のように「今年はもう、おせちはやめちゃおうかしら」と言いながら黒豆だけを煮て、結局そのほかの料理も気になってしまい年によっては大晦日に徹夜をしてまで、なにかしらを結局お重に詰めてしまうような家だった。
夫の実家は幸いにも、おせち料理に大きなこだわりのある家ではなかった。「おせちを作っても息子2人だから喜ばれなかったのよ」と義母は言いながら、それでも嫁が来た孫もできたと一度はお煮しめを作ってくれたが、そのお煮しめが1月2日の昼には「もうみんな煮物には興味ないでしょ!」と潰されてコロッケになって出てきたときには、その切り替えの早さとパワフルさに仰天し、これが息子2人を育てた人の料理かと目から鱗が落ちるような思いをした。義父はおせち料理そのものにはたぶんそれほど興味はなかったのだけれど、お正月の儀式は好きで、年に一度のために大切にしまってある立派な塗りの屠蘇器をうやうやしく登場させ「あけましておめでとう」と杯を傾ける。
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