アスリートと会社員、及川栞さんが二足のわらじを続ける理由|市井紗耶香さん×ホッケー女子日本代表、及川栞さん対談〈前編〉

働く・学ぶ

2022.10.15

オリンピック種目にも採用されている「ホッケー」。詳しいルールを知らなくても一度、試合を見れば鮮やかなチームプレーとスピード感に魅了されること間違いありません。今回はホッケー女子日本代表「さくらジャパン」の及川栞さんに現在、「#本音で話そう」を連載中の市井紗耶香さんがインタビュー。 前編は、ホッケーの魅力やアスリートのセカンドキャリアについて語ってくれました。(全2回)

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チームプレーの中で勝つ喜びや、達成感を学んだ

市井紗耶香さん(以下、市井):今回はホッケー女子日本代表、さくらジャパンの及川栞さんと対談させていただくことになりました。どうぞ、よろしくお願いいたします。

及川栞さん(以下、及川):はじめまして、及川栞です。小さいころからテレビで市井さんを拝見していたので、今日は本当にうれしいです。よろしくお願いいたします。

市井:ありがとうございます。私もうれしいです。

早速、及川さんにお伺いしたいのですが、現在はホッケー界のトップランナーでありながら、会社員としても働いていらっしゃるとのことですが、まずは及川さんのこれまでのことをお聞かせくださいますか?

及川:私は「ホッケーのまち」と言われている岩手県の岩手町出身で、母もかつてアジア大会で銀メダルをとったことのあるホッケーの選手(GK)でした。生まれ育った環境と、母の影響で幼いころからホッケーをやっていました。

市井:なるほど、必然的にホッケーに導かれた感じもありますね。そして、岩手がホッケーのまちとは知りませんでした。どちらかというと、ウィンタースポーツのイメージがありますが、年間を通じて、どのように練習をなさっていたのですか? 学業との両立も大変だったかと思いますが…。

及川:岩手県は豪雪地帯なので、たしかにウィンタースポーツのイメージが強いかと思います。でも、実はホッケーが盛んな町なんです。幼い頃から冬はクロスカントリーや雪上サッカーで足腰を鍛え、春夏秋はピッチの上でひたすらプレーをしていました。学業との両立も大変でしたが、チームプレーの中で勝つ喜びや、達成感を学び、いつの間にかホッケーに夢中になっていました。

市井:私の周りにもお子さんがスポーツに打ち込んでいるご家庭がたくさんいますが、やはり家族の助けがないとなかなか続けることは難しいですよね。

及川:それは感じます。私の両親は学校の先生をしながら、父は体操競技を、母はホッケーをしていたのでスポーツに対する理解度は深かったと思います。そして、私がやりたいことに対して一切ダメとは言わなかったので、とことん好きなことをやらせてもらえました。

及川栞及川栞さん

市井:ご両親が経験者だからこそ理解もあり、普段の生活の中でスポーツをすることが当たり前のような環境だったのですね。我が家は今、長女と次女がバスケットに夢中で打ち込んでいるのですが、私はバスケットの経験がないのでアドバイスはできなくて。それでも子どもたちがスポーツに打ち込んでいる姿はとてもいいなと感じ、応援しています。

及川:お子さんがスポーツをされている場合、そのお子さんの「やりたい」という気持ちを市井さんのように信用してあげてほしいなと思います。そして、できることならバックアップしていただきたいですね。思い描いていたような結果に結びつかなくても、そこまでの経験がさまざまな夢につながります。そして、考えるよりもまず行動すれば、あらゆる可能性にもつながると思います。

市井:たしかに。子どもの気持ちを信じてあげることは結果、親の喜びになります。そして、子どもの可能性も広がりますね。

市井紗耶香

 

「スポーツで生きていく」が"賭け"にならないための課題とは?

市井:及川さんは現在、アスリートでありながら会社員もされて、まさに二足のわらじをはいている状態と伺いました。

及川:はい、現在はホッケーの選手としてプレーしながらも「タカラベルモント株式会社」で働いています。会社が私のことを理解してくださり、さらに競技に集中できる環境を与えてくださっているので感謝しています。また社員の方からもパワーをもらっているので、精神的にも支えられています。アスリートは選手生命が終わると不安になる方も多いですが、こうしてセカンドキャリアにつながる勉強もさせていただいていることは、幸せなことだと思います。

市井:やはりアスリートの皆さんは、セカンドキャリアのことを考えたりするものでしょうか?

及川:そうですね、第2の人生のことを考えた時に不安がないと言えばウソになると思います。

市井:華やかに見える世界ですが、やはりそれぞれ悩みを抱えているのですね…。及川さんにとっても現在所属している会社の存在は大きいですね。

及川:とても心強いです。ホッケーはまだまだマイナー競技ですが、美容業界の会社にホッケー選手がいるんだという意外性を感じ、応援してもらえたら嬉しいです。

市井:アスリートをしながら会社員としても働くということは大変ではないですか?

及川:よく皆さんに心配していただくのですが、大変さは感じません。むしろ大好きなホッケーをしながら社会人経験も積めるので幸福度は高いですね。また実は私、美容師になることが夢だったのでタカラベルモントという美容業界で働けることはベストな環境なんです。最近は毛髪についての研修を受けたり、研究員の方とも情報交換をしたり、日々勉強させてもらっています。

及川栞

市井:及川さんのチームの方も企業で働きながらアスリートをされているのですか?

及川:そうですね、企業スポーツなので、クラブチームに所属している人以外は企業に属していることが多いです。

私の場合は興味のあった会社で働けましたが、人によってはそこの企業に働きたくて入ったというよりも、ホッケーのチームがあるから…という理由の方もいます。だから引退後はその会社を退社してしまう人もいらっしゃるんですよ。

市井:確かに、及川さんのように「やりたいこと」「興味のあること」と会社がうまくマッチングした場合はいいですが、アスリート全員が興味のある会社で働けるかといったらそれは難しいことなのですね。海外だとプロに転向し、個人でスポンサーをつけて活躍している方もいると聞きます。しかし、日本の場合は企業が支えるというシステムが根強いので引退後、その会社を退社してしまったら安定した生活基盤を築けるかどうか不安かと思います。

引退後、どのようにしてセカンドキャリアを切り開いていくのかということについては、まだまだ課題が多そうですね…。現在、お子さんがスポーツに打ち込んでいる親御さんにとってもとくに関心が高い問題かもしれません。

及川:まさにその通りです。引退後の問題は、お子さんにスポーツをさせていらっしゃるご家庭にとっては気になるところかと思います。今後もアスリートのセカンドキャリアについて考えていきたいと思います。

市井:今回、及川さんのお話を聞いて、華やかに見えるアスリートも実はいろんなことに悩んでいるんだということが知れました。

及川栞さんプロフィール

及川栞

1989年3月12日生まれ。岩手県出身。東京ヴェルディホッケーチーム、タカラベルモント株式会社所属。小学校に入る前から母親の影響でホッケーに触れ、競技を始める。2013年からホッケー女子日本代表DFとして活躍し、東京オリンピックにも出場。この秋から、期間限定でオーストラリア最高峰の大会『Sultana Bran Hockey One League』 に参戦

市井紗耶香さんプロフィール

1983年12月31日生まれ。千葉県出身。株式会社エスダブル取締役。1998年にモーニング娘。2期メンバーとしてデビュー。 現在は4人の子どもの子育てをしながら、タレント・講演活動をおこなっている。特定非営利活動法人日本ヴィーガン協会の理事。現在saitaで「#本音で話そう」を連載中。

Text by Nana Yasuda
Photos by Azusa Hasegawa
Hair&make-up by Manami Takenaka
costume  HOUSE OF LOTUS(市井さん)

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