教えてくれたのは……馬渡由香子さん
都内の企業にフルタイムで勤める、男子3人のママ。ほぼワンオペで育児も家事もこなし、Instagramで紹介する料理の腕はプロ並み。4月からは長男の高校でPTA会長、三男の中学校でPTA副会長となるが、その物腰の柔らかさで多くのママと協力しながら、PTAの仕事も楽しんで取り組んでいる。
やってみたからこそわかる“PTAの楽しさ”と“改善点”
前回のお話では、馬渡さんがPTA役員となった際に仕事のしかたを見直し、負担を軽くする“運営の改革”を行ったというお話を伺いました。その結果PTAに関わるママたちからは「サークルのようで楽しかった」「来年もやりたい」といった声もあり、大変なPTA活動というイメージが変化していったそうです。
――お話を聞いていると、PTA活動でネガティブな要素がないように感じるのですが、これまでに、「イヤだな」と感じるようなことはなかったですか?
活動自体でイヤなことはなかったです。ただ、係を決めるときに「やりたくない!」と怒っている人を見るのが辛かったです。「なんで、こんなことをやらなきゃいけないんですか?」って。その場の雰囲気も保護者の関係もギスギスするのが一番イヤだなぁと感じていました。子どもたちが仲良くしているのに、親同士がPTAのことで揉めるのは悲しいと思います。ただ、それだけ拒否反応が出るということは、PTAの活動自体に改善点がたくさんあるんだろうなとも感じます。
――具体的に、改善すべきだなと感じる部分はどんなところですか?
例えば、決め方ですよね。私は夫がじゃんけんで勝って決まりましたが、その場にいなくても係が決まってしまうのは、人によっては受け入れがたいことだと思います。でも、立候補を待っていると永遠に決まらなかったりするので、「やってみようかな」と感じられるような活動にするにはどうしたら良いんだろうと考えることはあります。
――コロナ禍を機に、PTAの縮小や外部への委託など活動自体の見直しをしている学校は増えているようですが、やはりPTA活動のポジティブな部分ももっと見えてくると良いですよね。
PTAは任意と言われているけど、強制的なイメージも強いんですよね。あと、何をやるのかがよくわからないという人がすごく多いんじゃないかなと思います。PTAではどういうことをするのかを明確化していけば、「それならできそう」という人も増えていくような気がするんです。いろいろな事情があるけど、参加できないことに後ろめたさを感じる人もいます。PTA役員に決まったからと言って、毎回100%出席しなくてはいけないということはないので、できるときにできる人が何かしらの係を担えば良い。無理に時間を作ったり負担になったりするような仕組みは、変えていけると良いなと思います。
子どもたちの生活に密に関われるPTA活動
――馬渡さんが実際に感じている、PTA役員をやるメリットってなんですか?
一緒に活動することでママ友が増えます。人付き合いが苦手な人にとっては、それがイヤだという人もいるかもしれないですが……(笑)。でも、同じ年代の子どもを持つ親同士、その年齢ならではの悩みを相談できたりするのはすごくありがたいです。夫に相談しても「へぇ」で終わってしまうようなことも、共感してくれたり、話を聞いてくれたり。そういうことに救われた経験があります。
うちは男の子なので、成長と共に学校での話をあまりしてくれなくなります。そんなとき、PTAをしているとクラスの様子なんかが情報として入ってくるんです。子どもからは聞けないけど、知っておくべき情報はたくさんあるので。あと、先生に相談しやすいというメリットもあります。息子たち3人とも同じように育てているつもりだけど、個性が全く違うので、先生とお話ができるのもすごく助かります。
――PTAの活動を通して、良い出会いがたくさんあったんですね。
私にとっては、PTAを通して出会ったママたちはとても大切な存在です。同じ歳の子どもを持つ親という共通点だけで本当に時間が足りないね! というくらいいろんな話ができるんです。子どもの年齢と共に子育ての悩みも変化していきますが、理解して共感してもらえる存在がいるってすごく大きいです。
――確かに、そういう存在がいるといないとでは違いますよね。
それに、長男が高校2年生になるので、「あと数年で成人するんだなぁ」と思ったら、「子育てって本当にあっという間に終わっちゃうんだ!」って、ハッとしたんです。子どもの学校生活に今のように関われる期間はあと少ししかないから、関われるうちに関わっておこうって。うちはまだ下の子がいるからあと数年は関われるけど、それでも今ほど子どもたちの生活に密に関わっていられるのはあと少しなんですよね。
子どもたちが楽しく学校生活を送れるために
――お仕事とPTAの両立は大変ではないですか?
PTAの集まりが毎日あるとかだったら大変ですが、基本的に集まりは土日でうまくまわっているので負担はそんなにないです。もちろん、平日もLINEでのやりとりや決め事があったりするので全く何もしないわけではないですが、できる範囲のことばかりです。それよりもサッカーや野球をやっているお子さんを持つお母さんたちのほうがよっぽど大変だと思います。話を聞いているだけで、ハードだなぁと思うので。それに比べたらPTAの活動が仕事の邪魔になるようなことはないですね。
――PTA役員は大変そう! 絶対やりたくない! という方たちにとって、馬渡さんのお話はけっこう衝撃があると思います。そういった方たちにメッセージを送るとしたら?
先日、この春から都立高校のPTA会長になる方たちとの懇親会がありました。いろんな職種の方がいて、中にはかなりキャリアを積んでいる方もいらっしゃいました。お仕事が忙しそうなのにPTA会長を引き受けてすごいなぁと思ってお話を聞きました。みなさん、最初はやはりPTAをやることに不安しかなかったということを話していましたが、実際にやってみたら楽しくてびっくりしたそうです。何より、子どもたちが楽しく学校生活を送れるように協力したいと考えている人が多いなと感じました。
――お子さんたちの生活により携わっていけるのは、お子さんにとっても良いことですよね。
PTA活動をすると、学校の先生たちとの会話が増えて、学校のことや子どもたちの様子や雰囲気を知ることができます。それに、保護者とのつながりで子どもたちの様子を知る機会も増えます。子どもの生活に親がいろいろ関われる時間は限られています。18歳で成人する今なんて、本当にあっという間だと思うんです。うちの息子たちに「PTA会長になった」と言ったら、「まじかよ!」って驚いていたけど、そういう姿を見せられて、「お母さん、俺たちの学校のために頑張ってくれた」って思ってくれていたらうれしいかな。
子育てって、どんなに一生懸命にやっても、「やりきった!」なんて思えることはないと思うんです。「もっと何かできたんじゃないかな」と親としての自己肯定感を下げるより、「満点じゃなくても、これだけはやったぞ」と思えるくらい子どもとの関わりを持つきっかけとして、PTAを担当するのは悪くないと思います。
「子育ての時間はあっという間に終わってしまうから」。PTA活動をする理由に、そう答えた馬渡さん。同じ親としてハッとさせられた言葉でした。親になってから、これまでの人生では考えられないくらい自分以外のために頑張っているのに、「よく頑張った、私!」という気持ちよりも、「これでよかったのかな?」という気持ちを感じることが多い日々。
“親として”の自分に対して厳しすぎる私たちは、もっといろいろ力を抜いて良いし、「大変そうだからやりたくない」と拒否していることからも、実は親としての自信を得ることができるのかもしれません。そんな気持ちにさせてくれる馬渡さんのお話でした。
この春の役員決め、いつもとは違った気持ちで参加できそうな気がしませんか?