学校で教えづらいからこそ親から教えてほしい。「性的合意の知識」を子どもへ伝えるおすすめの方法とは

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 学校で教えづらいからこそ親から教えてほしい。「性的合意の知識」を子どもへ伝えるおすすめの方法とは

2023.07.15

「性」についてオープンに話せる世の中になってきたとはいえ、「家族間で性について話すことはちょっと……」、「自分も教わっていないのにどうやってわが子に伝えればいいかわからない」といった方も少なくないでしょう。そこで今回は、教員免許を持ちながら教育関係の研究を積極的に行っている郡司日奈乃さんにインタビュー。私たち親がどうしても躊躇してしまいがちな「性教育」について、子どもへの伝え方を詳しく教えていただきました。

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教えてくれたのは……郡司日奈乃さん

郡司日奈乃さん

千葉大学大学院人文公共学府博士後期課程 在籍。一般社団法人Spice 代表理事。専門は教育方法学(授業実践開発研究)。
主権者教育や包括的性教育、アントレプレナーシップ教育、企業と連携した教育、探究学習など、現代的な諸課題を踏まえた教科等横断的な授業・教材づくりに関心があり、実践的に研究を行っている。日本思春期学会性教育認定講師、千葉市こども基本条例検討委員を務める。

教育現場でおこなわれている「性教育」のリアルとは?

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――まずは現在、小・中学校で「性教育」についてどのような教育をおこなっているのでしょうか。

まずは「性教育」と言っても一言で言い表すことは難しいのですが、今年度から文部科学省と内閣府が連携して作成した「生命(いのち)の安全教育」を推進しています。これは、子どもたちが性暴力・性犯罪の加害者、被害者そして傍観者にならないようにするには日ごろからどんな行動を取ればいいのか、また発達段階に応じて生命の大切さを学ぶことを目的としています。

――「性教育」と聞くと、保健体育の授業で第二次性徴について学ぶ、修学旅行の前に女の子だけ別室に呼ばれ、保健の先生から生理の話を聞くようなイメージでした。

そうですね。今も昔と同じように、身体的な特徴だけを教えるスタンダードな自治体もあります。しかし、一部の意欲的な学校では性感染症や性同一性障害、いわゆるLGBTQに関することにも触れ、授業で積極的に取り入れているところもあります。少しずつではありますが、日本の性教育も変わりはじめているというのが現状です。

――郡司さんは実際に中学校で性教育や性的マイノリティに関する授業を行っているそうですが、どのような授業を行っているのですか?

これまで3つの学校で性的マイノリティの当事者について、問題意識のある生徒たちに集まってもらって「身の回りは男性と女性の二つに分けられていることが多いけれど、どのような場を設定したり、法律を変えたりすれば、排除されてしまっている人たちに寄り添えるか」という問題を一緒に考えました。

――生徒たちからはどんな意見が出ましたか?

トイレの問題はもちろんのこと、更衣室のあり方、女性専用車両の是非についても意見が出ました。そこで「どうしてこの問題に興味があるの?」と質問したところ、自分の“推し”が当事者だから、身の回りに当事者がいるから、と答えてくれました。そのとき、自分ではない誰かが当事者だというような言い方をしていたのですが、もしかしたら私の目の前にいるこの子自身が当事者かもしれないと考え、意識しながら授業を行いました。
授業では、生徒によって持っている知識量の違いを感じました。ですから今後は、知識の格差がなくなるような教育も必要だと思います。

あなたは子どもに「性」や「性的同意」について話すことができますか?

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――次に家庭における「性教育」についてお話を伺います。思春期を迎えた子どもは好きな人ができたり、性への関心が高まったりすると思うのですが、親はどのようなことを意識していればいいでしょうか?

恋愛や性に関する相談を親にしてきた場合、この親ならば話してもいいなと信頼してくれている場合と、探りを入れている段階の子がいると思います。ですから、この瞬間がとても大事と言えます。せっかく話してくれたのに「えーー!」や「やめなさい!」などの反応はNGです。否定から入るのではなく、まずは受け止めてあげて欲しいです。
次に子どもが成長して彼と旅行に行きたい、お泊まりをしたいなど具体的な内容を相談された場合「性的同意」について伝えなければいけません。性的同意とは、すべての性的な行為においてお互いがその行為を積極的に望んでいるかどうかを確認することです。性的同意を取るということはとても大事なことではありますが、学校ではどうしても教えにくかったり、言葉を濁したりするので、ここは親が話すべきところだと思います。

――「性的同意」について話すことはとても大事だと思うのですが、なかなか親子間で話すのは難しいですよね。

母親を軸で考えると、母親が息子に話す場合と母親が娘に話す場合ではかなり違うと思いますし、そもそも親子で話すことが難しい場合もあると思います。そこで私は書籍やwebサイトなどコンテンツの力を借りることをオススメします。親がそのコンテンツを確認した上でメールやLINEで送ったり、ニュースで話題になっていることを共有し、親の意見を伝えたりと「引き出し」を準備しておくことが必要だと思います。そのときに大事なことは「あなたはどう?」と意見を求めてはいけません。確かな情報提供くらいの気持ちでいてあげてください。

――親はさまざまなコンテンツを調べておくことが大事ですね。郡司さんがオススメするコンテンツを教えてください。

1つ目は、「セイシル 知ろう、話そう、性のモヤモヤ」というサイト。2つ目は、「Let’s Talk Consent『同意について考えよう』」です。
この2つのサイトは特に「性的同意」や「恋愛・セックス」についてわかりやすく紹介しているのでオススメです。
3つ目は「命育」で、幼児から中高生の子どもを持つ保護者に向けて、医師や専門家による性教育情報を発信しています。有料コンテンツも多いですが、性の知識を子どもにどう伝えたらいいかがよく分かると思います。

「性」に興味を持つことは自然なことだという理解を

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――中学生・高校生には正しい情報の提供が重要かと思いますが、幼い頃からメディアに触れる機会が多い小学生くらいの子どもにはどんなことが必要でしょうか?

家庭の中でのルールがそれぞれ違うと思うので一概には言えませんが、ネットを使わせている家庭では性のことだけではなく、詐欺や犯罪などさまざまな問題にも気を付ける必要があります。とはいえ、親が怪しいサイトや違法アップロードに触れないようにと携帯にロックをかけることは意味がありません。子どもはロックをかけられた時点でさらにネットに固執してしまいます。性に関して言えば、一定の年齢になれば興味を持つことは自然なことです。ですから、そこは家族の中で対話の時間を持ち、「お父さん、お母さんはこういう理由で心配しているよ」と伝えてください。その上で子どもにロックをするか、しないかを判断してもらってもいいと思います。

――たしかにロックをかけたとしても問題は解決しませんね。それよりもまずは親子間の対話が大事ということですね。

令和4年6月に成立し、令和5年4月に施行された「こども基本法」をご存じでしょうか。これはすべてのこどもが将来にわたり、幸せな生活ができる社会を実現するためにできた基本法です。こどもが権利の主体であると定めているため、こどもが声を上げた意見を聴くことが国と自治体の義務となっています。社会、学校、そして家庭においても適応されなければならないので、携帯を制限するということにおいてもこどもと話し合う必要があります。そもそもこどもが納得していないのに、勝手にロックをかけることは信用していない証です。このことがきっかけで関係がギクシャクしないとも限りません。ですから、まずは親子の対話が大事だと思います。

「性教育」の大切さをわかっている親は多いものの、なかなか家庭で話すことは難しいのが現状です。しかし郡司さんに紹介してもらったサイトを使えば、子どもにスムーズに問題提起できそうですね。

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著者

安田ナナ プロフィール画像

安田ナナ

都内で2人の娘を育てながら、書籍を中心としたライターをしています。 人と話すこと 人と一緒に食べること 人と一緒に楽しむこと が大好きです。

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