“子どもの言い訳を聞いてあげる”って結構大事。臨床心理士が語る「子どもを育てる上で大切なこと」

家族・人間関係

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2024.08.18

「将来こうなってほしい」という思いから、たくさんのスキルを子どもに身につけてほしいと願う親は多いと思います。社会が大きく変わっていく中で、今後どのような力が必要になってくるのでしょうか。『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力』の著者である吉田 美智子先生に「これからの子どもに必要な3つの力と、それを育むために親ができること」についてお話を伺いました。

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教えてくれたのは……吉田 美智子先生

吉田先生

臨床心理士、公認心理師。はこにわサロン東京・代表。
スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年はこにわサロン東京を開室。主な技法は、ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析。子育ての相談、親子関係、トラウマケア、ストレスケア、アンガーマネジメントなどの相談に携わる。

『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力』

『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力』(株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)
著者:吉田 美智子
定価:1,760円(税込)

これからの子どもに必要な「3つの力」

人工知能などの技術が向上し社会が大きく変化する中、親は子どもを育てる上で悩むことも多いもの。これからの社会を生きる子どもに必要なのは、どのような力なのでしょうか。
吉田先生は、OECD(経済協力開発機構)の『OECDラーニング・コンパス2030』から引用した3つの力を挙げられています。

  • 新たな価値を創造する力
  • 対立やジレンマに対処する力
  • 責任ある行動をとる力

それぞれの力について、詳しく解説していただきました。

1.新たな価値を創造する力

新たな価値を創造する力出典:www.photo-ac.com

吉田先生「“新たな価値=私たちが知らない価値”なので、親には教えることができないんですよね。だからこそ、親が『自分には教えられないこともあるかもしれない』と認識しておくことは、すごく大事なことです。
親が正しいと教えたことが、実はそうではない場合もあるので、『ここは私が間違っていたかもしれない』と考えを修正する姿勢を子どもに見せることが必要です。

子どもって結構いいことを言うことも多いですが、大人から見て現実的に通用しないと思うことでも、『それは無理だよ』『必要ないよ』と決めつけて教えてしまうのは控えたほうがいいのではと思います。私たちの脳は常に効率化を求めるので、必要ないと思ったらやらなくなるし、見なくなってしまう性質をもっているからです。
子どもと接するときに、自分の知らないところに新たな価値があるかもしれないという視点が大事なのではないかなと思います。」

2.対立やジレンマに対処する力

対立やジレンマに対処する力出典:stock.adobe.com

吉田先生「対立やジレンマとは、二つのものが反対の立場に立って張り合ったり、板ばさみになってどちらとも決めかねる状態のことです。これは、家庭や学校など身近なところで日常的に発生します。
身近な例でいうと、SNSで自分とは異なる意見を目にしたときに攻撃してしまう人も多いですよね。対立やジレンマに対処する力を育むには、子どもの言い訳を聞いてあげることがポイントのひとつになると思います。

『これが正しい』『これはダメ』と教えていくと、子どもの言い訳を聞かなくなってしまうことも多いですが、何かが起こったときには大抵理由があります。失敗したり、うまくいかなかったときに、その理由を聞いてもらうのは子どもにとって結構大事なことなんです。

正義を盾にして相手を否定してしまうのは、相手の声を聞く余裕がなくなってしまうために起こるもの。
大人から言い訳を聞いてもらった経験がある子どもは、『なにか理由があったのかもしれない』『正しさは0か100じゃないよね』と相手の事情を聞いて、寄り添おうとする気持ちを持てるんです。この力は子どもが小さい頃から地道につくっていくものだと思っています。」

3.責任ある行動をとる力

会話する親子出典:stock.adobe.com

吉田先生「責任ある行動をとる力を育むポイントは、『自己コントロール』『自己効力感』『自己調整の力』の3つです。

自己コントロールとは、自分の気持ちや行動をコントロールする力のこと。子どもの頃に高い自己コントロール力を持つ人ほど、健康で社会的にも成功すると言われます。子どもの自己コントロールの力を伸ばすには、無理やり我慢をさせないこと。コントロールがうまくいかなくても叱らず、『電車の中で10分静かに過ごす』などの成功体験を少しずつ重ねていけば、できるようになっていきますよ。

また自己効力感があると、障害やストレスがかかる状況に直面したときにも、きっとうまくいくと感じられるので、あきらめずにがんばり続けることができます。自己効力感を持つためには、自分で自分を律することができる感覚、自発的にチャレンジして『できた!』と感じる体験をさせてあげられるといいと思います。

自己調整の力とは、社会や環境に合わせて自分の気持ちや言動をアレンジしたり、双方の間にギャップがあるときに調整したりする力のことです。この力には『主張する力』と『我慢する力』の両方が必要です。内向的な子どもたちに我慢を求めすぎていないか、子どもが主張できるように大人が振り返ってみてくださいね。」

「51点の親を目指せたらよし」としよう

最後に、吉田先生に子育て世代のみなさんに向けてメッセージをいただきました。

吉田先生「『子育てを完璧にしようとしなくて大丈夫ですよ』というのは、みなさんに一番お伝えしたいことです。わたしたち親は100点を目指す必要はなく、ほどほどの親、点数にするなら51点の親になれたら、それで及第と考えるといいと思います。

人は、光と影を必ず両方持っているわけですが、『明るい光のほうを1パーセント多く持てるといい』といった意味で51点です。失敗してマイナスになる日があっても、『明日成功すればオッケー』くらいでいいと思うんです。ただでさえ、社会やさまざまな人が親に対してあたたかくないことも多い世の中なので、本当に自分で自分を追い詰めないでほしいなと思っています。」

これまでに多くの親や子どもたちからの声に耳を傾けてきた吉田先生の言葉は、子育てに悩む心をふっと軽くしてくれると感じるものばかりでした。子どものいいところを肯定して信じることで、親も自分自身を肯定してあげられるようになるといいですね。

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著者

shukana

shukana

小学生、幼稚園児の男の子のママ。出産前まで紳士服業界に携わり、TES(繊維製品品質管理士)の資格を取得。 暮らしをより楽しく、よりラクに過ごすための方法を日々模索中です。

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