教えてくれたのは……石坂淳先生
北里大学医学部を卒業後、大学病院および関連病院での勤務を経て、「石坂整形外科クリニック」を開院。中高生のスポーツ障害から高齢者の腰痛・膝関節痛、関節リウマチ、骨粗しょう症、捻挫・骨折等の外傷など多岐にわたる患者様を診察している。
「スポーツ障害」とは?症状の経過の特徴
「一般的にスポーツ障害とは、練習量の過多やストレッチ不足などのコンディショニング不良などによって起こる体の痛みを指し、正しくないフォームが原因になる場合もある」と石坂先生はおっしゃいます。
症状の経過については、以下のとおりだそうです。
初期
運動終了後に軽い痛みを感じます。この段階では、痛みはすぐにひきます。
悪化し始めたとき
運動開始時やアップをしているときに痛みを感じるようになります。しかし、プレイ中には痛みが消失し、支障をきたさないことがほとんどです。しかし、終わると痛みが再び現れます。
この痛みは初期よりも少し長引きますが、翌日のプレイ開始前までには回復します。
さらに悪化したとき
この状態で運動強度を下げることなくプレイを続けていくと、痛みはさらに悪化します。プレイ中にも痛みを感じるようになり、パフォーマンスが下がってしまいます。
スポーツ障害が起こりやすい年齢とそのメカニズム
石坂先生によると、スポーツ障害は身長が急激に伸びる成長のスパート(思春期における急速な成長期)が原因となるため、性別によって起こりやすい年齢が異なるそうです。メカニズムについても併せて解説していただきました。
<スポーツ障害が起こりやすい年齢>
- 男子……13~15歳ごろ
- 女子……11~13歳ごろ
石坂先生「障害の種類によって、メカニズムは異なります。
オスグッド・シュラッター病やジャンパー膝などの筋付着部の代表的な障害では、成長期における骨の急速な成長に、筋肉の成長が追いつかないことで起こります。筋肉が骨に対して相対的に短くなり、運動時に筋付着部に過剰な負荷がかかることで症状が出るのです。
また、俗に成長線と呼ばれる骨端線(こったんせん)は軟骨でできており、繰り返しの外力に対して弱くなっています。この部分はハードな練習などによって障害をきたすことがあるため、骨端線が閉鎖するまでの年齢では骨端線の障害が起こりやすくなります。
スポーツ障害は特定の性別に起こりやすいわけではありません。
しかし、中学生になると小学生のころよりも運動量が大幅に増え、男子は成長のスパートの最中なので、障害を起こす選手が多くなります。女子は13歳ごろに成長のスパートが終わることが多く、成長が一段落していて骨格が成人に近いものになっているので、障害を起こすことが少なくなります。
このことから、スポーツ障害は女子よりも男子に多く見られると言えるでしょう」
スポーツ障害を予防・改善するために意識したい「4つのこと」
つらい痛みを抱えることもあるスポーツ障害を予防・改善するためにできることはあるのでしょうか。意識するとよい「4つのこと」を教えていただきました。
1.ウォーミングアップを大切にする
石坂先生「予防策として、ウォーミングアップやストレッチはとても重要です。部活動では放課後の限られた時間で行うことが多く、練習時間を確保するために短時間で行われることも多いかもしれません。しかし、ウォーミングアップやストレッチには最低でも10分、できれば20~30分かけるのが理想的です」
2.正しいフォームと体の使い方を身につける
石坂先生「正しいフォームや適切な体の使い方を身につけることも重要です。正しくないフォームや体の使い方をすると、球技の場合は速い球や強い球などに対応できなくなり、無理に行おうとすることで体に負担をかけてしまいます」
3.休みを適切にとる
石坂先生「1日の練習量はもちろんのこと、1週間における練習日数をコントロールすることも重要です。
毎日練習をすると体が休まらず、疲労が蓄積されてスポーツ障害につながりやすくなります。できれば週に2日、最低でも1日は休むことで、溜まった疲れを解消して障害のリスクを減らすことができます。さらに、パフォーマンスの向上も望めるでしょう」
4.無理をしない
石坂先生「スポーツ障害による痛みがあるときには、無理をしないことです。基本的には、ウォーミングアップやストレッチで痛みを感じなくなるくらいまでは、練習を休むか、練習量を大幅に減らすことが必要です」
「スポーツ障害」の痛みを我慢し続けるデメリット
石坂先生は、スポーツ障害の痛みを我慢することで生じるデメリットの可能性について指摘します。
石坂先生「痛みを我慢し続けることによる一番のデメリットは、回復までの時間が長引くことです。その間は痛みを伴いながらプレイをすることになり、ベストパフォーマンスが出せなくなってしまいます。
無理を続けると、障害がさらに悪化し、治るまでに必要な期間がさらに延びてしまいます。その結果、目標とする大会や試合に間に合わなかったり、ベストパフォーマンスを発揮できなかったりすることがあります。
最悪の場合、障害を抱える部分が治りきらず、骨が遊離したり、成長軟骨が正常に成長しなくなって後遺症が残ってしまったりすることもあります。十分な注意が必要です」
次回の記事では「スポーツ障害になったときの適切な対処法」について、ご紹介します。