教えてくれたのは……小川仁志さん
哲学者・山口大学国際総合科学部教授。
商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。市民のための哲学を実践する「哲学カフェ」を全国各地で開催。企業における「ビジネス哲学研修」も多数実施。メディアでも積極的に発信し、著書は百数十冊。YouTube「小川仁志の哲学チャンネル」でも発信中。
『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』
著者:小川仁志
価格:1,540円(税込)
発行所:アスコム
じつは“選ばされて”いる?
ネットショップや動画サブスクリプションサービスの「おすすめ」機能は、どれくらい活用していますか? 探していたものがすぐに見つかって便利な反面、どうしてそれを選んだのか尋ねられてもうまく説明できない、なんてことがあるかもしれません。
NHK・Eテレ『ロッチと子羊』などのメディア出演を通じて、世界の哲学者の考えをわかりやすく解説している哲学者の小川仁志さんは、「積極的選択をしたつもりでも、じつは消極的選択だったということは意外と多い」と話します。
小川さん 「自分で選んだと思っていても、じつは“選ばされている”ということがよくあります。たくさんの情報に接する機会が多い現代は、情報に影響されることが多く、たくさんの選択肢のなかには自分の欲するものがあるだろうと考えがちです」
小川さん 「AIやSNSなどさまざまなツールがあらわれて、誰もが答えを外に求めています。でも、自分がどう思って、どう感じているのかは、人ではなく、自分に聞くことです。選ばされる人生を続けていると、自分の感情さえも誘導されて、非常に危険なことが起こり得ます。選ばないことは、自分を失うことであり、静かに自分を殺すことと同じなのです」
「いい選択」をする人がやっている3つの習慣
新著『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』で、「選択できるというのは、人間の特権です」と記している小川さん。「納得感がある“いい選択”を重ねることで、自分のやりたいことや欲していることが見えてくる」と話します。
では、「いい選択」をするためには、日常生活でどのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。小川さんに教えていただいた3つのポイントを紹介します。
1. 自分の気持ちを言語化する
モヤモヤしていることや不安なこと、自分が何に悩んでいるのかを知るために、まずは思っていることを余さず言葉に表してみましょう。頭の中で嫌なことを反芻しているだけでは、自分の欲していることは見つかりません。自分の気持ちを“見える”状態にするために、まずは気持ちの“棚卸し”をしましょう。
2. 「紙とペン」を使う
気持ちの言語化をスマホやタブレットで行うこともできますが、小川さんは紙とペンで書くことをおすすめしています。理由は、デバイスには予測機能が搭載されているから。一文字入力するだけで候補となる言葉が表示されるので、“選択の罠”に陥り、自分が本当に表したい言葉にならないことがあります。きれいな文章が書けなくても大丈夫。自分の気持ちを明らかにするために、予測機能のない紙とペンを使いましょう。
3. 何を求めているのか自分に問い続ける
いい選択をするためには、自分が何を求めているのか、常に自分に問うことが大切です。「どれがいいかな?」ではなく、「何がしたいかな」「何ができたらいいかな?」と心の中で唱えてみましょう。既存のものから選ぶのではなく、ゼロベースから考える習慣が身につきます。
“選ばされる”人生から、自分で“つくる”人生へ
納得感があるいい選択ができるようになると、日々はどのように変化するのでしょうか。小川さんは、AIと人間との違いに言及しつつ、次のようにおっしゃいました。
小川さん 「生成AIは1を10にも100にも無限大にもできるけれど、0から1は生み出せないといわれています。私たち人間は、0から1を生み出せる存在です。自分のやりたいこと、欲していることを見つけて、選択肢が存在していないなら自分でつくる。そうすることで、選ばされる人生から、選ぶを超えて、つくる人生に転換できると思います」
自分が求めているものを自分に問い、ときには自分で選択肢をつくることが、日々の暮らしを豊かにしていくのですね。次回は、どんな悩みにも突破口を見出す「哲学を使った選択思考」についてお話をうかがいます!