お話を伺ったのは……西牧隆行さん
1981年生まれ 長野県出身
キャンドル作家、雑貨店「TOCA by lifart…」文房具店「ink stain」オーナー兼バイヤー。
最近ハマっている事 / 昭和の特撮(特にウルトラマン)
好きなこと / オモチャ収集(日本伝統の郷土玩具からアメトイ、最近のガチャガチャまで)
休みの日の過ごし方 / 庭いじり。子供たちと遊ぶ。犬と遊ぶ。渓流釣り。
推し / 東京ヤクルトスワローズ
家族構成 / 妻・長男・長女・義母・3歳の雄シーズー・2歳の雌シーズーの5人と2匹家族。
子供の頃夢中だったもの / 小学生の頃はひとりで会場に観戦に行くほどプロレス好き。
「ink stain」のコンセプト
このお店のコンセプトをお聞きすると「子どもの頃、お小遣いで自由に誰の好みにも邪魔されずに1本の鉛筆を一生懸命に選んだ感覚を思い出して、ワクワクした時間を過ごして欲しいんですよね。」と笑顔で答えてくれた。
そして西牧さんはこう付け加えた。「限られた予算の中で鉛筆や消しゴムを選ぶのって、よく考えたら人生で一番最初の経済活動なんじゃないかって思うんですよ。誰もが経験しているはずだし、めちゃくちゃ楽しい思い出でしょう? あの時みたいにモノとひたすら向き合う時間をここで味わってもらいたくて。」
狭くて雑多だけど落ちつく!のは?
ところで、量販店や大型雑貨店でモノに酔うような感覚に陥ったことのある人はいないだろうか?
強烈なPOPが商品名や価格を主張するのを、まるで音のようにうるさく感じた経験はどうだろう?
ひとつひとつの商品が「他のどれもよりも早く売れてやるぞ!」と競い合っているように見えてならないのだ。
そんな店では「必要なモノをじっくりと」選ぶ気持ちになれないどころか「買うつもりの無かったもの」をつい買ってしまう……という罠にかかる。そして、店を出た後に必ず後悔する。結局自分でモノを「選ぶ」のではなく、店にモノを「買わされて」しまっているのだ。
ink stainは4坪ととても店内は狭い。そして写真のような昭和な「かるた」や、地元の薬のロゴのついたた商品、海外向けのおしゃれな筆ペンといった、振れ幅の広い文房具がギュッと相当な密度で並んでいる。
なのに……全く心がザワつかない。
全てのモノたちが決して競い合うことなく穏やかに佇んでいる。まるで健やかに暮らしているかのように見えるのだ。
仕入れの秘密と基準は?
そんな感想を西牧さんに伝えると「わぁ! そう言ってもらえるとウレシイです。実は販売スタッフは他にもいますが、仕入れを担当しているのはボクひとりなんです。昭和レトロな商品から海外のレアものまで、全部自分で見て決めて買い付けています。」と声を弾ませた。
大型雑貨店では、メーカーとの関係性もあり、店頭に並ぶ商品はさまざまな事情が絡んで決められることが多い。それに対して個人経営の店舗では、オーナーのセンスで自由に店のテイストに合ったモノだけを並べることができる。つまり、ひとつひとつが丁寧に選ばれて、ここに辿り着いているというわけだ。
だから、競い合うような不穏な空気はなく、商品たちは満たされた心持ち? で、ただ静かにここで次の持ち主との出会いを「待っている」のだ。
ところで、半世紀ほど前に放映されたドラマのグッズや企業のノベルティはどうやって手に入れているのだろう?
「商店街の文房具屋さんなどがお店を辞められる時に、倉庫に眠る商品を買い取らせてもらうんです。」
同じ品でもお店で大切にされてきた品と個人がなんとなく捨てられずに持っていたものとを比べると、圧倒的にお店の方がコンディションが良いとのこと。
「それとやっぱり文房具は『使えてこそ』のモノだと思っているので、見た目は良品でも不便だったり、本来の使い方ができなくなっているものは置いていません。コレクション目的で手に入れたい人もいるかもしれませんが、使えないものを売りたくはないので、そこはこだわっています。」と西牧さんは胸を張った。
「もっと『自分で』モノを選んで!」
選び抜かれた商品がセンス良くディスプレイされた店内で過ごす時間は格別だ。気が付けば1時間以上の時間を過ごしていた。
万年筆を購入することを決めたので、インクも……と思って相談したら、とっても見やすくて美しいアルバムのようになった色見本を見せていただいた。
それに加えて、西牧さんから他の万年筆ブランドのお話やインクの特徴についてもお話を伺うことができた。ネットでポチるのとは全く違う「1本の万年筆が物語を纏う瞬間」に立ち会うことができた。
「ネットで見た流行りの商品を探しに来られるお客さんも多いですし、有名なインフルエンサーが話題にすると特定の商品が売れるという現象が起こることも多くなりました。でも、ボクはもっと『自分の感性でモノを選んで欲しい』って思ってるんです。確かに注目度の高い商品が欲しくなる気持ちもわかるし、YouTubeで見て『いいな』って思う人も多いとは思うんですが、時間を贅沢に使って本当に好きなものを『自分で』選んで欲しいなって思ってます。」
そんなお話を聞いていると、お店のドアが開き親子連れがやってきた。小学生の男の子が鉛筆の絵柄を1本1本大切に確かめながら選び出し、お母さんは皮の手帳カバーを眺めていた。それぞれが自由に静かに思い思いの時間を過ごす様子が見て取れた。
『じっくりと自分の感性でモノを選ぶ』楽しみは、西牧さんのおかげで、松本の人々の心にはすでに芽生えているようだ。
ink stain
ink stain https://www.instagram.com/inkstain_nib/
松本駅前大通りにあるステーショナリーと雑貨のセレクトショップ。
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