なぜ母と娘は距離が近くなりやすいのか。知っておきたい“親子の距離感”

家族・人間関係

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 なぜ母と娘は距離が近くなりやすいのか。知っておきたい“親子の距離感”

2022.11.01

臨床心理士・公認心理師のyukoです。思春期にさしかかり、進路など将来に関わる話し合いをする中で、親の価値観をどの程度伝えるか、迷われる親御さんは多いと思います。親の経験からつい口を出しすぎてしまったり、無鉄砲な子どもの考えに頭を抱えたり‥。今回は、特に距離感が難しくなりやすい母娘関係に注目し、同性親子の難しさを考えていきます。

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なぜ母と娘は距離が近くなりやすいのか

「友達母娘(おやこ)」、「一卵性母娘」、「母娘カプセル」。
近年母と娘の距離の近さが指摘される機会が増えてきました。

なぜ母と娘は他の親子関係に比べて密な関係になりやすいのでしょうか。

昔から、家庭における家事・出産・子育てなどの役割を女性が受け継いでいくのため、母娘関係は他の組み合わせよりも親密といわれてきました。

また、共働き家庭が増え、かつ、地域で子育てを見守る目が少なくなり、祖父母に育児を頼らざるをえないのも要因に。
結婚で実家を離れても、実母の近くで子育てをする方は、長期にわたって親密な親子関係になりやすいんですね。

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加えて、「子どもを授かる時代」から、親の選択・決断の末「子どもをつくる時代」となり、親の子に対する思い入れが強くなったのも、密な母子関係に影響しているといわれています。

社会背景から考える、母と娘が衝突しやすい理由

女性特有のジェネレーションギャップ

母娘関係には、女性特有のジェネレーションギャップが潜んでいます。

進路や将来について話し合う中では、母親自身がサバイブしてきた知恵を娘に主張しすぎるあまり、衝突するケースも。

例えば、

  • 女性ゆえに自分の望む学歴を得られず、娘の教育に熱を入れるようになり、「学歴が人生を支える」認識を強く持っている。
  • 思うように働けなかった自分を重ね合わせ、娘にはキャリアと家庭の両立を頑張らせたい。
  • 夫婦協働の時代ではなく実母に子育てを手伝ってもらった経験から、娘にも似た環境での育児生活を求める。

昭和・平成・令和と、男性に比べて、女性に求められる役割は世代ごとに異なります。

同性である娘には、「自分がこうしてきたから、娘にも同じようにしてほしい」気持ちと、「自分ができなかったことを叶えてほしい」気持ちの両方が、強く表れやすいもの。
母親が進んできた道との違い、価値観の変化を受け入れられないと、衝突しやすくなります。

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日本独自の育児文化

母性神話は少しずつ薄れてきているものの、日本における母親の育児には「負担・責任・愛情」の全てが求められ続けています。

出産はなるべく自然分娩で、粉ミルクより母乳の方が望ましい、妊娠・授乳期は子どものために「野菜中心の和食」を、シッターに預けるのはかわいそう......など。

”中国やインドでは油を多く使った料理が主でも赤ちゃんは元気に育っている”、”欧米では定期的にシッターを利用するのが主流”などの意見があっても、「文化の違い」の一言で一蹴されてしまうほど、根強い意識はまだ残っているように感じます。

日本の「理想的な出産・育児」には、母親が自分の身体と時間を子どもに全面的に差し出し、「痛みや苦しみ」、「手間をかけること」、「愛し責任を持つこと」が伴っているのではないでしょうか。

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優等生で熱心な母親こそ、「これだけの労力をかけて自分の人生を差し出したのだから私を見捨てるなんて」と子どもにプレッシャーをかけやすくなります。
その思いが、娘の自立を妨げたり、母親の理想を押しつける結果となり、関係が難しくなるようです。

「理解しておく」のが何より大切

子どもにどうしても伝えたいメッセージ、親として最低限望む条件は誰しもあると思います。
全ての選択を子どもに委ねたり、全く干渉しないのがよいわけでもありません。

ただ、衝突しそうになったとき、”「母-娘」特有の感情”を思い出すのは大切だと感じます。
同性同士でわかりあえる悩みも多い一方で、同性同士だからこそ、母親自身に重ねて強い感情が生じるときもあるのではないでしょうか。

お互いを思いやる気持ちを持ちながら、冷静に話していけるといいですよね。

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著者

yuko

yuko

臨床心理士・公認心理師。現在は小児の総合医療センターと大学の心理教育相談センターにて勤務。児童期から思春期の子どもへのカウンセリングやプレイセラピー、子育てに悩む保護者の方への育児相談を専門にしています。色彩心理学やカラーコーディネートについても学んでおります。

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