新卒だったわたしを指導した「バリキャリ女性の上司」を今でも忘れられない“本当の理由”

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 新卒だったわたしを指導した「バリキャリ女性の上司」を今でも忘れられない“本当の理由”

2023.07.09

苦手な相手の言葉を理解するのには、思いのほか時間がかかったりする。 苦手な相手が発した重い言葉はざらざらと心に残る。ネガティブな感情が生まれるから、受け止めるのにも苦労するし、直視するのも怖い。見なかったことにして、流してしまいたい。 でもそんな言葉の中に、相手の思いが隠れていたりする。「この人が苦手」という感覚は、自分が勝手にかけた、こちら都合の黒色フィルターでもある。 数年後に黒色フィルターが溶けた、忘れられない上司がいる。

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「自分を評価する人」が苦手

上司出典:stock.adobe.com

「自分を評価する人」が苦手だ。親、先生、上司など、目上の人。
「私を評価しない人に、どうにか気に入られなければならない」という潜在的な強迫観念がある。
年上との関わりが少なかった人や、真面目な優等生タイプの人、親との折り合いが悪かった人のなかには、同じような人がいるのではないだろうか。

私の場合、学校で先生に好かれた経験がない。
いわゆる陰キャゆえ人前での感情表現が乏しく、掴みどころがないわりに意志が強い生徒で、かわいげがなかったんだと思う。(って分析がすでにひねくれてるかもしれないが)

母親とは性格が違いすぎて馬が合わず「私を指導する年上の女性」に対する苦手意識も強い。
アルバイト先のお局さんには、心を開かないくせに(悪気はない)お局さんが思いを寄せていた店長とうっかり遊んだものだから(若気はあった)、それがバレてから分かりやすくいびられた。
何人ものアルバイトがいたが、送別会を開いてもらえなかったのは私だけ。だんだんシフトを減らしてフェードアウトさせる「誰にも別れを告げられない辞め方」をさせられた。敵ながらあっぱれである。

そんな私も社会人になり、ついに上司と対面せざるを得なくなった。

バリキャリウーマン上司との不和

新卒の私を指導した上司は、業界では有名なバリキャリ女性であった。
しかし、当時の私はまだ学生特有のフワフワ感が抜けきらず、ダメ出しされ続けた。
おそらく上司も新卒を指導するのは久しぶりだったのだろう。

上司出典:stock.adobe.com

スキルも経験も思考力も足りなかったため、ダメ出しされても何をどう変えればいいか分からず、あたふたしているうちにまたダメ出しされる。
恐る恐る質問した時の間髪入れない「ググって?」は、鮮やかな切れ味であった。
やがて意欲を失った私は、ほぼ機械人形になってしまった。

こう説明すると鬼上司のようだが、朝礼では必ず「やるぞ!おー!!」と誰よりも声を張り上げ、拳を突き上げる純粋な人でもあった。
やる気に満ちているから、機械人形の私を稼働させ一人前にするために、1から100まで指示するマイクロマネジメントをした。
私は自由に動き回りたいタイプなので、より意欲をなくした。

ある日、意欲を持たない機械人形に、上司はこういった。
「どうすればやる気出る? 〇〇さんはこういうことしてがんばってるよ」
私だって頑張りたいのに!とやり切れなくなり、思わず
「人と比べられるの、嫌なんです」
と返すと、上司は困った顔をした。
「でも、仕事って、そういうものじゃない?」

まったくもってその通りなのだが、はいそうですね、頑張ります、とはなれなかった。
当然評価されるわけもなく、上司との仲はイマイチなまま月日が過ぎた。

容赦ない言葉たちが、今も色褪せず胸にある

上司が不在の日、広告代理店の営業を受けるアポイントが入っていたため、他部署の部長に同席してもらって商談を受けたことがある。
一応私が担当者なので、基本的には私が対応した。

商談出典:stock.adobe.com

 商談が終わり相手方を見送ると、部長は目を丸くして私を振り返り、
 「上司の〇〇さんにそっくりだね」
と言った。 私も目を丸くした。
理論的で、目的意識が強く、決断を迫る聞き方だと言われた。

知らず知らずのうちに、苦手な上司に似ていたらしい。
人形のように上司の隣に座りながら、上司の要素を吸収していた。
無意味に消耗して過ぎていったように感じていた日々は、私と上司の間にしんしんと降り積もっていた。

正直、あのマイクロマネジメントがよかったとは今でも全く思わない。
でも、新卒時代の豆腐ハートに突き刺さった上司のド直球な言葉たちが、いつまでも色あせずボディブローのように効いて、今の私を構成している。
逆に、その他大勢にいただいた「うんうん、わかるわかる」系のなぐさめ言葉は、ほぼ覚えてない。当時の私を救ったが、心に残ってはいないのだ。

私もライター講座で生徒さんを指導する立場になって、何をどこまで言うか悩んだ。
私以外の講師はとても優しかった。生徒さんの顔がほころぶ。
私は足りないと思えば足りないと言い、違うと思えば違うと言った。生徒さんは神妙な顔をする。

遠慮ない指摘は、歓迎されないわりにカロリーを消費する。
思った言葉を発してHPゲージが削られるたび、かつての上司の顔が脳裏にちらついて、なんだか泣きそうになった。

今でも一番苦手で、一番忘れられない、一番感謝している上司である。

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著者

秋カヲリ

秋カヲリ

だれもが自己受容できる文章を届けたい文筆家。女は生きにくい、だからしなやかに生きたい。 ・著書「57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室」(遊泳舎) ・恋愛依存症に苦しみ、心理カウンセリングを学ぶ ・出産して育児うつを経験、女の幸せを考える ・ADHDなどのグレーゾーンゆえに会社員として適応できず、4社を転々としてフリーランスのライターに ・YouTuberオタクで、YouTuberの書籍編集・取材執筆多数

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