つらくても笑ってしまう"真面目な人への処方箋”好感度と引き換えに失っているものとは。

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 つらくても笑ってしまう"真面目な人への処方箋”

2022.05.03

女は愛嬌といわれ、横並びに歩くのを協調性だと言われて育つと、真面目な人ほどネガティブな感情をさらけ出せなくなる。実際、感情を打ち明けられないまま笑う人に多く出会った。真面目な人ほど無理してしまうが、どうすればもっと楽に生きられるのか、心の処方箋について考えてみた。

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好感度と引き換えに失っているもの

真面目な人はしばしば負のオーラをまとう。
ライターという職業柄、たくさんのファンを抱える著名人やインフルエンサーにお会いして、つくづくそう思った。
特に好感度が高く感受性が強い女性に多い気がする。

彼女たちは真面目であるがゆえに、しんどいことがあっても笑顔を絶やさず、柔和な雰囲気を崩さない。
だからぱっと見では負のオーラが分からず、SNSやブログなどの画面上だと
「この人はこんなにたくさん仕事をしていて大変だろうに、いつも綺麗にしているし、にこやかに笑っていてすごいなあ」
と感嘆するばかりで、自分とは遠い場所にいる偉人に思われる。

しかし、それは思い違いだった。
彼女たちは好感度の高い笑顔と引き換えに、心のHPを削っていたのである。

笑顔の女性出典:stock.adobe.com

がんばりすぎて疲れてしまうリカちゃん

スクールカースト下層に位置していた私は「かわいい女の子」への憧れが人百倍強く、ビューティアドバイザー・A子さんの古参ファンだ。
ライターになってから「いつか取材したい」と長年思い続け、公私混同で企画を通した時は「1対1でお話しできるなんて!」と小躍りして喜んだ。

取材当日、日の光がたっぷり入る事務所の会議室で会ったA子さんは透き通るほど白く、リカちゃん人形のように艶やかな瞳でこちらを見た。
「なんて完璧な女性なんだ」とうっとりしてしまう美しさである。

だが、「仕事への向き合い方」「ファンとの接し方」など抽象的な質問に移るにつれ、リカちゃん人形の瞳がゆらゆらし始めた。
うつむきがちになり、伏し目の瞼には疲労感がにじんでいる。
(リ、リカちゃんが疲れてるだと…!?)
と焦ったが、いくらリカちゃん……いや、A子さん贔屓の私でも、取材を途中で終わらせるわけにはいかない。
なるべく傾聴して寄り添うように取材を続けたところ
「今の自分の立ち位置に悩んでいるの」
と打ち明けてくれた。

取材の様子出典:stock.adobe.com

スクールカースト上位のリカちゃんであっても、自分の立ち位置に悩むことがあるのである。
A子さんのInstagramは申し分ないフォロワー数で、企業からの依頼も多いが、飛ぶ鳥を落とす勢いのインフルエンサーたちを見て焦る気持ちがあるようだ。

「最近のインフルエンサーさんは、みんな赤裸々に自分をさらけだすでしょう。でも私は、ファンの方にネガティブな言葉を届けたくないの。私自身が言葉の影響を受けやすいタイプだから……。発信する時は、できる限り誤解を与えないように言葉を選んでる」
「A子さんは昔から真面目だし、プロ意識が高いですもんね」
「美容の世界だと、私なんてガサツなほうなのよ。A子ちゃんは大らかでのびのびしてるわねって笑われるんだから」

おそるべし美容界。小さい頃から断固として掃除をせず、上京してからは汚部屋の妖魔となって来訪した男性を一人残らず駆逐し、結婚しても水回りの掃除は夫に託し、長年連れ添うルンバのごみ捨て方法すら知らない私のようなガサツ女は、一瞬で血祭りにあげられるだろう。

A子さんは、背後にずしりと重い疲労感を背負いつつも
「ここはこういう表現で書いてほしい」
と要望を述べた。
言葉の細部まで意識を張り巡らせるのはA子さんのプロ意識であり、A子さんをビューティアドバイザーたらしめる所以だが、確かにこのレベルで気を張っていたら疲れるだろうなと納得した。

真面目な人が損をする、なんておかしい

これは何も著名人に限った話ではなく、まわりの友人も真面目で誠実な人間ほど抱え込んでいる。特に長女が多い(当社比)。

やはり人前だとにこにこ笑っているので、穏やかな生活をイメージして何気なく近況を聞くと、困ったように笑ってとてつもなくヘビーな話をする。
そんなしんどいことがあったなら抱え込まずに話してくれていいのに、この期に及んで申し訳なさそうに、控えめに打ち明けるのだ。
さらにはこちらが返す間もなく「なんか私の話ばっかりしちゃってごめんね。聞いてくれてありがとう」といきなり話を締めようとすらする。あんたの話はまだ30秒しか聞いてないぞ。魔女に「聞き手にしかなれない呪い」でもかけられたのか?

悩む女性出典:stock.adobe.com

あえて失礼な言い方をするが、真面目ゆえに抱え込む人は損している。
私のような不真面目で適当な人間のほうが、重い物をそのへんにポイ捨てしてしまうから、はるかに楽に生きている。
そんなの、真面目な人がかわいそうじゃないか。

世の中の人は、他人の完璧さには敏感かもしれないが、その裏にどれだけの苦労を抱えているかまでは見通せない。他人だからだ。
真面目な人の完璧なふるまいは美点だが、それほど重い荷物を抱えてまで守るべきものなのだろうか。
その完璧さは他人には優しいが、自分自身には優しくないのではないだろうか。

真面目な人はもうちょっとずるく生きてほしいと思う。
好感度MAXの笑顔で自分の首を絞めてしまわないように、心の中でにやりと邪悪に笑って、たまには思い切り怒ったり拗ねたりしてみてほしい。
さらけ出してみると、意外と「人間味がある」なんて言われて愛されたりするものだ。
世の中なんて結構適当なのである。どうかもっと適当に、のびのび生きてほしい。

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著者

秋カヲリ

秋カヲリ

だれもが自己受容できる文章を届けたい文筆家。女は生きにくい、だからしなやかに生きたい。 ・著書「57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室」(遊泳舎) ・恋愛依存症に苦しみ、心理カウンセリングを学ぶ ・出産して育児うつを経験、女の幸せを考える ・ADHDなどのグレーゾーンゆえに会社員として適応できず、4社を転々としてフリーランスのライターに ・YouTuberオタクで、YouTuberの書籍編集・取材執筆多数

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